三話 ギアのトレーニング~レクチャー~
前回からものすごく空いてしまいましたがマイペースに頑張ります
「................」
ギア。「固有魔法能力にプラスして別属性の能力を与える」というそれは、明らかに希少価値が高いお宝だ。
「何が、目的だ?」
「単純に君を助けたかっただけだよ、なんて言っても出会ったばかりの君は信用してくれないだろうし、私としてもそんな気は毛頭ないからね。そうだな......手に入れたお宝の試運転がしたかった、とでも言っておこうか」
右手の人差し指をぴんと伸ばしてミラはいたずらっぽく笑う。
その言葉が嘘なのは明白だが、一度自分を助けておいてすぐ殺すなんてことはしないだろう、何のメリットも無い。
なので一旦はその言葉を信じておくことにした。
「試運転、と言ったか。具体的には何をすればいいんだ?助けてくれたことに感謝はしてるが、俺は村の仇が討ちたい。あまり長いはできないぞ」
「......。一度刺されているのに君は力の差を理解できてないのかな?ギアの力の使い方だってわかってない君が今戻ってどうするのさ。だから今からーー」
言葉が終わる前にミラの姿がヴンという音と共にかき消える。
椅子や机等が地下に収納され、部屋の壁が遠ざかった。
天井についたスピーカーのようなものから、ミラの声が聞こえる。
『ーーこのリビングもとい地下トレーニングルームでギアの特訓だ』
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『まず細胞の硬質化だね、これは簡単だ。ただ固くなれとそう思えばいい』
「随分簡単だな、ギアってのはそんなもんなのか?」
軽口を叩きながら右腕に意識を集中させ、固くなれと心で唱える。
たったそれだけのことだったが、指の先からピシピシと音を立てながら、右腕が鋼のような質感の銀色の鉱物に変わっていった。
しかし問題が一つ。
「関節が、曲がらねぇ......」
『あ、やっぱりかい?以前私も試してみたんだけど、関節までガッチガチになってしまってどうにもできなくてね。まぁ、解決策はあるから問題ないよ。それが、そのギアのもう一つの能力、「硬質化した部位の変形」だ』
「そんな能力もあるって言ってたな。てかそもそも、硬質化からの変形とかどう考えても自然現象じゃないだろ。このギア地属性とか言ってたけど、本当は俺がただサイボーグにされただけじゃないのか?」
『...サイボーグか、まぁ近いっちゃ近いね。ただ私がやったのはそのギアを埋め込むだけだし、大地の力を持ってるのも本当だよ。......生まれつきどれかの魔法属性と共に固有能力を人が持っているのは、「属性が起こす自然現象の中の限定的な部分だけを扱う権限を持っている」ということだからね。だからどれだけ能力を鍛えても、その能力と別物の力は習得できない。...つまり水を凍結させる能力を持ってたとして、自然現象では温度変化によりその水は溶けたり、温度が上がったりするわけだが、与えられた権限は「水を凍らせる」だけのものだから、いくら鍛えても水を沸騰させることはできないのさ。君もよく知っているだろう?話は戻すけど、ギアも人に固有能力をプラスするものだからね。範囲は限定的なのさ。だから自然に当てはめて言うならば「鉱物を操る力」と「地形を変える力」の複合かな。媒介になるのは自分だから、細胞が鉄や鋼のように硬質化するし、それが変形することもできるわけだ』
なるほど。それでサイボーグじみたことができるわけだ。
「...それで、どうやったら変形できるんだ?」
『あぁ、すまない。本題に踏み込めてなかったね。これもそう難しい話じゃないよ。ただ形を想像するだけさ。自分を銃に変形するとして、銃の形、種類、あとは実弾かエネルギー弾かを決めるだけかな。まぁつまり想像力がものをいう能力だってことだ。それじゃあレクチャーはこのくらいにしておいてそろそろ始めようか』
ミラがそう言い終えると天井に黒い穴が開いて、人型の飾り気の無いロボットのようなものが1体落ちてきた。黒く輝くフレームは流線型で、繋ぎ目を無くしたデッサン人形のようだ。
『このロボットには君と同じく変形能力が備えてある。といっても右腕が銃に、左腕が剣に、脚の底に車輪が生える程度のものだから安心して戦ってくれ。能力はさっき説明したからアドバイスとかはしないぞ。それじゃあーー
ーースタートだ』