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プレゼント交換

小学生のころ、クリスマスが近くなると、一大イベントとしてプレゼント交換があった。


そこで他の学校と変わっているのが、小学四年生以上になって初めて参加できるイベントであること。その理由は、学校から現金400円を支給されるところにあった。ちゃんと物を考えて買い物が出来る年齢―― このイベントには、自主性や想像力等を養う意味もあった。


400円、子供からすれば結構な大金である。

全校生徒が60名前後、つまり中学年以上は単純計算で30名ほどであったから、何とか対応できたのもあるだろう。でも一番の理由は、金の出所にあった。


この小学校は田んぼを持っていた。

そこで田植えから始まり、地元のお爺さんお婆さんに様々なノウハウを教えてもらいながら、夏休みにも学校に来て世話をした米を換金したのだ。今手に持っているものは、紛れもなく自分達の労働の成果である。加えて、低学年の頃に羨望の眼差しで見て止まなかったイベントだ。現金を渡されて15日間、私は、真剣に何がいいかを考え通した。


プレゼント交換は、みんなで円形になって座り、隣から隣へ回していってプレゼントを循環させ、BGMが鳴りやんだ時に持っていたものが自分のものになる。つまり、野郎にあたるか女の子に当たるかすら分からないのだ。

男女共通して貰って嬉しいものって何だ。ビックリマンチョコでも入れておけばいいのか。いや、だからそれじゃ女子は喜ばないでしょうが。消しゴムとか? ……実用的ではあるけど嬉しくはないだろう。


「なぁ、お前何にすんの?」

「俺? 無難に10円で買える駄菓子詰め合わせるつもりだけど? この前買い出しに行ったら結構なボリュームになってかなりテンション上がった」


親指を立てて眩しく笑う友達。

聞かなきゃよかったと内心思った。私は、他の人間とは被りたくないという少々めんどくさい性格をしていたのだ。


誰とも被らず、斬新で、そして男女共通して貰って嬉しいもの――




数日後。




「で、陽(偽名)は何にしたんだよ」


「現金」

「おいソレ去年やってセンセイに怒られたヤツ居たぞ?」


「大丈夫。俺が用意したの唯の現金じゃないから、ほら」


何故か小声で私は言った。

懐から取り出したのは、1円玉の棒金。50枚がぎゅっとなって筒になっているヤツだ。今となっては何の有難味も感じないが、小学生の身分からしたらまず普通に生活してたら手に入らない未知の物体である。


「すげぇええええッ!! かっけぇええええ!! 」


友人はとても珍しそうに棒金を両指でつまんで叫んでいる。


「でも400円全部アルミだと8本出来ても軽くてショボいかなって思ったから、一つだけ5円の棒金作って重さ作った」

「かっけぇえええええッ!! 」


棒金で買い物は少し恥ずかしいかもしれないが、そこがミソだ。ただ買い物するだけで確実に笑いが取れる…… かなり美味しい効果が期待できるのだ。

私は棒金を家にあった真っ赤なリボンで可愛らしくまとめて蝶々結びにし、何かの包装紙の綺麗なところを切り抜いて包んだ。お菓子セットに比べれば見た目はかなりコンパクトで地味ではあるが、5円玉棒金のおかげで発生した小ささに似合わない重みが紙を破るまで何が入っているか分からないワクワクを感じさせてくれる。



当日。



私はというと教室の机の面積の半分はありそうな袋が当たった。

空けて見るとクッションだった、これは嬉しい。


私のプレゼントはというと、喋った事の無い女子に当たったようだ。しばらく珍しそうに見つめた後、使いにくいと率直な感想をくれた。どうやら、全力でウケを狙いに行く美学をご理解頂けなかったらしい。


しばらくして、担任の先生が近づいてきた。


「泉妻君、ちょっとこっちに」


呼び出される事は半分ほど可能性に入っていたので、真っ先に現金にした言い訳について考え始めるセコい脳ミソ。


何が悪かったって言うんだ。

ちゃんとモノを考えて買って来なかったのが悪いというのか。先生この前、お金が生まれた理由について教えてくれたばかりじゃないか。

後ろから友人連中の「アイツ、また暗室行きだって」という声が聞こえる。ちなみに、暗室というのはお叱り専用の窓の無い小さな個室の事である。


扉がパタンと音を立て、周囲の音が遮断される。

私は手に入れたばかりのクッションを抱きしめていた。いきがっていても、内心怖くて仕方がなかったのだ。


――陽君、少し聞いてもいい?


完全にガクブルってる私を見たからなのか、妙に優しく急に下の名前で呼んでくる先生。


「陽君、あの棒金は400円分でしたね」


それを聞いた瞬間頭に血が上った。


「俺猫ババなんかしてねぇよ!? 」

「あっ、ごめんね。違うの」


先生は焦ったようにあわあわと手を動かす。

私は自販機に釣り銭残ってても店の人に届けるような無駄に真面目な人間だったので、そのへんを疑われるのだけは許せなかったのだ。明らかに気が立っている私をなだめながら、「むしろぴったりなのが問題で…」と意味不明な前置きをしてから質問を重ねる。


「この棒金、どうやって作ったんですか?」


流石に小学4年生で銀行に行くという発想は無かった。

というか、なんとなくカッコいいと思っただけで、コレをどこで作るかなんて何も知らない。


「お父さんに400円渡して作ってきてもらった」




「……多分、手数料かかってるから後で謝りに行きなさい」




「………」





ちなみに、クッションの君は家にあるものを使用してプレゼントを製作し、金を懐に入れたそうです。

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