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FGOがメンテ中なので小話書きました。
駅の中を根城にしている。
0時26分、全ての終電が発車する。
乗る電車が無くなれば静かになると思っていた頃もあったのだが、残念ながらグレーの作業着を来た集団が何処からともなく沸いてきてしまう。清掃員、その他設備関係の人間だ。
号令!という声がして、行動指針の合唱が始まる。私はばつの悪さを感じながら、一端駅の外に出る。今はもう見なくなった、スピードくじのような大粒の雪が舞っていた。
頃合いを待つ。この季節の一分は長い。そろそろ清掃が終わるだろうか。私は一番早く手がかけられる、自分の特等席の南口を思い浮かべて体を丸める。雪がふわふわと風に乗るので軒下にいても意味がない。これは駄目だ、私は早々に引き返す。
幸い清掃は終わっていた。ただ、いつもより早く来たせいでまだ清掃員がそこにいた。私が定位置に腰掛けると、微妙な顔で私を見てくる。折角掃除したところを汚しやがってと思っているのが嫌でも分かった。私は床に腰を下ろした。
リュックを枕に横たわる。
掃除機の音が遠退いていく。
眠りに落ちていく前に私は私に暗示をかける。
始発が発車する前に起きなければ、また巡回に来た警備員に叩き出されてしまうだろう。
いつも通り、4時に目が覚める。
素晴らしい時間帯だ。午前4時は、一番近くのコンビニエンスストアが消費期限整理をする。今日も店の裏側には、ごみ袋が二つほど置いてある。
夜中でも車は沢山停まっているが、どれもトラックばかりなので人目を気にするという程でもない。彼らはみなハンドルに足をかけて眠っている。
再び駅に戻るが、これから通勤通学ラッシュが始まろうとしている最中に特等席には戻れない。少しでも暖かく、邪魔にならない所を探す。結果、短い間隔で太い柱が連なっているところを選んでもたれた。ここなら人波の直撃は避けられるだろう。硝子張りの窓から朝日が差し込む。オレンジの光の暖かさに微睡む。
――パシャッ
カメラのシャッター音がした。
それ自体は辺りが騒がしいので気には止めなかったのだが、なんとなく音に目をやった瞬間、勝手が変わった。それは私に向けられていたからだ。髪を巻き、茶色に染め、ヒールの高いブーツを履いた、大学生然とした女性がスマートフォンをこちらに向けている。赤いカメラの光と目が合った。
不愉快さが言葉に出来ず睨めつける。こんなことをしても視線に気づいて逃げ出しながら、キモいだのこっち見ただの言われるだけだと分かっているのに。
「あ、違うんです違うんです」
――娘は、逃げ出すどころか一直線に近づいてきた。
予想外の動きに私は固まる。
彼女は私が不愉快に思った事を察した焦りと、是非見てほしいといった布教力を持ってスマートフォンの画面を突き出してくる。
「いや、あまりにも神々しかったんでつい……勝手に撮るなんて失礼でしたよね、ごめんなさい」
太い柱の向こう側、硝子張りの広い窓から朝日が鮮烈に差し込んでいる。逆光となった私を挟む両サイドの柱は映画の帯のように黒いシルエットだけを残し、あたかも、私だけがその照らされた者が蒸発しそうな閃光を浴びている。
私は私に目を奪われる。
疲れて片足を突き出してもたれかかる自分の影は、駅の中の埃が光に照らされて輪郭をぼやけさせていて―― まるで、渋い映画の一シーンのように。幻想の中にいるかのように。
女性は走り去っていく。
煙草の一本でもあればもっと様になっただろうに。そんなことを思いながら、私は物思いに耽る。