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【即興小説】タイトル:360度
お題:緑の嘘 制限時間:15分
「なんだお前、こんなのが欲しいのか」
様々な店から流れ出るクリスマスソングが何重にも重なる中、食い入るように、とまでは行かないけれど、ぬいぐるみを確かに見ていた私に兄はそう呟いた。
「別に」
自分が好きなものを『こんなもの』と言われたのが嫌だった。欲しかったけれど、急になんだか価値のないものに思えてしまった。
「そっか」
そんなやり取りを忘れた一ヵ月後、12月の24日。
私の枕元に例のぬいぐるみが置かれていた。
なんだか微妙な気持ちになった。今の私には、それはあまり価値の無いものだったから。
部屋から出ると、兄が嬉しそうな顔で「どうだった?」と聞いてきた。
「……ありがとう」
「そっか。よかったよかった」
こんなものいらないと言うのは簡単だった。
けれど、何よりも難しかった。
「意外とかわいいよな、こいつ」
記念に写真を、と携帯電話を取り出す。
同じキャラクターのストラップが揺れる。
私は、ぎゅっとぬいぐるみを抱き締め直す。