表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
千の双子  作者:
5/7

光と影

「お祭り、ですか?」

「ええ。景通様と見に行くの。千影は行く?」

「・・・・・・いえ。どうぞ見に行ってきてください」

町で毎年催される秋の収穫祭に、千影は毎年参加していない。

千早もそれを分かっていながら毎年こうして声を掛けてくれる。

その日になると決まって母に用を言いつけられるせいもあったが、今年は少し具合が違う。

「景通様とはどうですか?」

「―え!?やだもう、まだ全然そんなんじゃないんだってば」

でも二人で祭りを見に行くほどには進展している、か。

千早は耳まで真っ赤に染めておろおろとしている。

「・・・頑張ってくださいね、姉さん」

「・・・・うん・・・・・・」

千早はこくっと頷いた。



「じゃあ、行ってくるね」

「はい、楽しんできてください」

精一杯綺麗な格好をした千早は元気に手を振って駆けていった。あの先では景通が待っているはずだ。

「・・・さて」

今年も多分、いつもと同じく収穫した茄子の仕分けだろう。先に始めてしまおうか。

そう思って一旦家に入ると、

「・・・・・・母様」

そこに立っていたのは母だった。

「・・・何をしているの」

「え・・・茄子の仕分けですけど・・・」

母は首を振った。

「今日は、いいわ。・・・これ」

渡されたのは財布で、いつもより少し重い。

「・・・これで、お祭りに行ってきなさい」

「え・・・・・・・・・でも」

気が付くと、母の腕にしっかりと抱き締められていた。

「母様・・・」

「ごめんなさい・・・母さん弱くてごめんなさいね・・・。すべて、あなたに背負わせてしまった・・・」

「―ッ」

漏れたのが自分の嗚咽だと気付くまで、しばらくかかった。

「・・・・・・かあさ・・・まぁ・・・・・」

子供のようにしゃくりあげて母に縋りつく。力強く抱き締め返された。

しばらく、泣き声は止まなかった。



夕暮れ時。

千影は戸口に立つ。

「・・・母様、いってきます」

「・・・いってらっしゃい」

まだどこかぎこちないけれど、それでもこんなささいな会話が出来るのが嬉しかった。

千影はゆっくりと母に背を向けると、歓声の湧き上がる町へと歩き始めた。


◇◆◇


屋台の並ぶ表通りはとても賑わっていた。

冷やかしつつそれぞれを見て回っていると、簪の件で千早がお世話になった店の奥さんの屋台があった。

「あ、先日はどうも、姉がご迷惑をお掛けしまして」

奥さんは鷹揚に手を振った。

「いいのよ。久しぶりに見る可愛い子だったしねえ。―どう、見ていかない?安くしとくよ」

「そうですね・・・」

奥さんは簪をひとつ手に取ると、

「これ、どう?お姉ちゃんが買ったやつの色違いなんだけど。あんただったらこっちのが似合うんじゃない?」

「え?同じものでもいいんじゃないですか?」

「双子だからって似合う色は同じじゃないのさ。お姉ちゃんは茜、あんたはこの色」

緋色の簪を手に取ってしげしげと眺める。

「双子でも性格はそれぞれ違うだろう?それと同じさ」

「・・・そうですね。―これ、いただきます」

「はい、毎度あり!」

そう言った奥さんの笑顔は、さぞ綺麗だったであろう昔の面影を思わせていた。


◇◆◇


「姉さんたち、どこだろう・・・」

邪魔をするつもりはないが、まったく姿が見えないのはさすがに心配だ。おまけに一緒にいるのはあの景通である。

もう日は暮れていて、祭りは更に盛り上がりを増してきている。人が多くなってから探すのは骨が折れそうだ。

そんなことを思いながら辺りを見回していると、視界の端に茜色を捉えた。

視線を動かすと確かに千早と景通で、二人手を取って神社の境内に入っていくのが見える。

何かが起こるような予感がして、千影は二人の後を追って神社へと向かった。



幹の太い樹の背後に隠れて様子を窺う。距離があるので声までは聞き取れないが、もし景通が何かすればすぐに動ける。

景通が何事か言って、千早がくすくすと笑った。

千早が返した言葉に景通も微笑む。いつもの、千影に見せるような張り付いた笑みではない、本当の笑顔なのが分かる。

やはり景通は、千早の光に焦がれている。


―光は影を感知できない。だけど影の方は光を感知できるんだ。決して届かないけれどね。


それでもこうして景通が千早と共に居るのは―

景気のいい音をたてて花火が上がった。

千早が驚いたようなそぶりで空を見上げる。

続けて何発も色とりどりの花火が上がっていく。

それを見て微笑んだ千早の耳元に景通が何事か囁いた。驚いたように景通の方を振り返った千早の頬は赤く染まっていて。

もう一度景通が何かを言うと、千早はややあってから頷いた。

景通はゆっくりと、千早の桜色の唇に、


―口づけた。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ