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―黄昏時…後、花火―

作者: 秋呉葉


「柚…行くぞ。早くしろ」


「待ってよ優心兄ちゃん」


「ほら…早くしねーと、」

その時、ドドーンと大きな花火の音。



「あ〜!!…始まっちゃった…だから早くしてって、お母さんに言ったのに〜」



「母さんのせいにするな」

「うぅ…」


「…で?お前行かないの」

「行く!…お願いします」

「…はいはい、行くか。」

「うん!」





私はまだ知らなかった。


この純粋な曇りのない日が終わりを告げることを。






あなたの大きな背中をもう追い掛けることが出来ないなんて…。







ドドーン、ドドーンと響く夏の風物詩。


私は近所のお兄さん、優心兄ちゃんと花火大会に出掛けた。


いろんなお店、屋台?を、冷やかしたり、お兄ちゃんにりんご飴や綿菓子を買って貰ったり。


楽しかった。楽しくてしょうがなくて、お兄ちゃんを時々困らせたりしてみた。優しい、優心兄ちゃんは、私を心配して走り回って、見付けた時は「良かった」って抱き締めてくれた。


揺れる花火がはらはらと、落ちて、お兄ちゃんの顏を照らすのを私はずっと眺めていたけど、お兄ちゃんは「花火を見に来たんだろ」っていつも途中で肩車して私に背の高いお兄ちゃんの視界を見せてくれた。


実際、十歳は離れていたんだけどお兄ちゃんは私に、「柚をお嫁さんにしたい」って言ってくれていた。


笑うお兄ちゃんはとっても魅力的で六歳の私はずっと眺めていても飽きなかった


でも帰り道は少し悲しい。まだお兄ちゃんと一緒には住めない私の年齢を呪った



ある日、お兄ちゃんは私に「柚と付き合いたいんだ」と言った。私十歳の誕生日


もちろん返事は即答でOK。お兄ちゃんはとっても素敵な笑顔を見せて微笑んだ。「これは柚のだよ。」って誕生石のネックレスを見せ私の首筋に着けてくれた。お兄ちゃんとお揃い。


私とお兄ちゃんは誕生日が一緒だったから。



嬉しくて十歳の花火大会に着けて出掛けた。そしたらお兄ちゃんも着けて来てて「「以心伝心だね」」って二人で笑った。


家に帰りついてバイバイをしたら、お兄ちゃんがキスしてくれて、私は嬉しくて家でピョンピョン跳ねて、はしゃいでいたら家へ電話が来て、電話を取ったお母さんが無言で私に受話器を差し出した。



「もしもし!柚です。」と名乗るとお兄ちゃんのお母さんが悪い冗談と思いたい事実を泣きながら告げた。


「柚ちゃん…優心が!!」


背筋が凍る思いがした。


まさか私を送ったすぐ後に優心兄ちゃんが交通事故で死ぬなんて…。







花びらが舞うような金魚をせがんだこと。


風薫る季節が巡り、毎年、毎年は絶対に行く夏祭り。

揺れる花火に照らされる、お兄ちゃんの綺麗な横顔。

いつも遅れると言いながら待ってくれるお兄ちゃん。

水のほとり、お兄ちゃんと見た、小さな、小さな蛍。

追いつくのを待ってくれた大きな背中のお兄ちゃん。


いっぱいの思い出を作った毎年の夏、夏祭りの記憶。聴こえた雨音の淋しい響き


私を置き去りにしたまま、お兄ちゃんは想い出を残し私の前から姿を消した。


通り過ぎた日々を振り返る勇気はなくて霞む想い出。


…揺れる花火、はらはら。瞳閉じて想い出す、あなたの横顔。待ち望むは彼方。





あなたの住む所は晴れて、光る、同じ花火の花びらは見えてますか?


遠い水面、手をかざして。待ち望むは小さな蛍。







そして、綺麗な笑顔の花火

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