姫の住処はゴミ屋敷
「まさかここまでとは……」
目の前の惨状に思わずそうつぶやいてしまった俺は何も悪くないと思う。
むしろこの程度の狼狽え方で済んだのを褒めてもらいたい。
つーか、いくら事前に「散らかってる」と言われたとはいえ、流石にテレビやネット画像でしか対面したことのないいわゆる「ゴミ屋敷」的な何か程だとは思うまいて。
……いや、これが男ではなく女の部屋か。生まれて十数年で幻想壊されたのは良かったのか悪かったのか。あれ? 目から少し汗が出てきた。
「……何やってんの?」
「いや、人生の世知辛さを少し噛み締めてたところ」
「意味わかんないわね」
いつの間にか後ろにやってきた彼女こそこの家の主。学園ではそれなりに人気がある女子生徒。
トレードマークのサイドポニーを揺らして腕を組んでジト目でこちらを見ているのが様になっている。
……この姿を見ればきっと一部生徒から女王様と呼ばれること請け合いの貫禄があるのだが、こいつは外面がガンダニュウム合金の上マグネットコーティングまで施してるので、世間では「姫」などと称されてさえいる。
俺からすると誠に遺憾であるとしか言えない。……全く度し難い。
「いや、流石にこれは酷すぎるだろ?」
「別にこれでも死にはしないわよ?」
「いや、普通は病気になるだろ。胞子とか飛んでそうだぜ」
額を袖で拭うリアクションを取りながらボケてみた。
「そうね、この前キノコが生えてきてたしね。有り得なくはないわ」
「ツッコミも無ければスルーどころか乗ってきた……だと?」
衝撃だった。あまりの残念さに思わず帰りたくなった、こいつと出会う以前に。
……俺の粉々に打ち砕かれた「オンナノコ」に対する幻想を返せ。
「で、こんな所に呼び出して何の用だ?」
「立ち話もなんだから入ったら?」
「……いや、どう考えても座るスペース無いだろコレ」
玄関入って五歩程からクライムさせられる勢いなのに。
「え? いや、だってあんたが片付けるからスペースできるでしょ」
「なんか確定事項で言ってますが無茶振りにも程があんだろ?!」
「だって私片付けられないし~」
「は? ならどこで寝てんだよ」
「……流石にベッド周辺は片付けてるわよ。でも、アンタうら若き乙女の寝所に立ち入る気? ヤラシイわね」
「うわ殺してぇ。……その戯言を真に受けてやるから手伝って片付け方を覚えろ。流石にこれ、次やらせたらお前を俺の女性というカテゴリーから外して本気でしばくからなマジで」
「……仕方ないわね」
納得はしてないっぽいが、流石に俺の言葉が本気だと分かったらしく渋々だが約束した。
どうやら性別を超えた殴り合いと言う肉体言語での対話はせずに済んだみたいだ。一応、こいつは約束したことは守るからな。……約束させないとどんな重要なことでも守らな可能性がすこぶる高いが。
……しかし俺、なんでコイツと友達なんだろ。下心すら抱けないのにデメリットしか無い交友関係を続けるとか、ドMじゃあるまいし。
「……おまえ、もしかして用があるとか話がとか言っといて片付けるに片付けられなくなったこれの処理のために呼んだ訳じゃないよな?」
「ハハハ、ソンナワケナイデスヨ」
これが、俺の通う学園でその言動から「高嶺の花」や「姫」等と持て囃される高倉響音の実態である。
書いた後で「高嶺の花」のアンサイクロペディアみて笑いました。