【3-1】:新たな控室
「この先は移動しながら話しましょうか。皆さんエレベーターに乗りますよ」
エレベーターホールを目指し、悠人たちは加納を先頭に廊下を歩き出していた。
先程来た道を通り、ビルの中央部に向かうと、数基のエレベーターが並んでいた。
「あ、ここさっき通った場所だ」
「そうだっけ? 広くて迷いそう……」
「ビルの中心部にありますから、見慣れたらすぐですよ」
そのうちの一基に四人が乗り込むと、加納がボタン付近に立ち、全員が乗ったのを確認して扉を閉めた。
「三階から上が主に所属タレントや制作スタッフの活動エリアになりますが、皆さんは音楽部門所属なので五階ですね」
五階行きのボタンを加納が押すと、エレベーターがグングンと上昇し始めた。
ガラス張りの壁から、悠人は外の光景を何気なく眺めた。
「そこに貴方たちの専用控え室がありますので、今はそちらに向かっています」
「控え室? しかも専用って、大分リッチじゃね?」
悠人は驚きに外から視線を外し、加納を見た。
「今までとは比べようがないね……」
隣では快が感心したように静かに呟く。
そして、ランプが点灯し、軽快な音と共に扉が開いた。
「着きました、皆さん降りてください」
加納に促され、四人はエレベーターを出る。
「この先に控え室があるのですが、奥の方なので少し歩きますよ」
加納が先頭を歩き、ゾロゾロと四人が後ろに続いて廊下を進む。
廊下には疎らに人が出入りする姿が見られた。
すれ違うのは、社員らしき人や、テレビで見たことのある有名アーティストたち。
悠人たちは緊張した面持ちで挨拶をすると、相手は和やかに、時に慌ただしい様子で見送りながら挨拶を返してくれる。
「うわー。めっちゃ緊張した……」
胸を押さえながら歩く快。
「俺、あのアーティスト好きなんだよな」
煌は、チラリと奥にいる男性の姿を視線で捉えた。
四人がポツポツと雑談しながら廊下を進んでいると、不意に加納がとある部屋の前で立ち止まった。
「ここがこのNOXUSビル内での貴方たちの待機室ですね」
扉の前には「新人アイドルグループ専用控え室」の紙が貼り出されていた。
悠人は固唾をのむと、加納が開けた扉の後に続いて中へと入っていく。
「中、めちゃくちゃ広くね……?」
悠人は呆然と立ち止まる。
そこに広がっていたのは、以前までとは比べようもないほど広々としたスペースだった。
扉を開けて右手側にはメイク用の鏡と椅子。
煌がその前に立ち、乱れた前髪を指先でそっと直す。
「ふーん、ここで俺らのメイクとかも出来るんだ」
「そうですね。この部屋には担当のメイク係が来て、支度を整えてくれますので」
「ああ、あっちには衣装掛けもあるし、姿見も大きめだからチェックしやすそうだな」
加納と煌の二人が控え室の設備について話す中、最年少組の二人は奥へと進んだ。
二人は揃って物珍しげに控え室の中を見渡す。
そして、漣は奥にある和室のような上がり畳のスペースにふらりと立ち寄った。
「……ここなら寛げそうだな。それに、コンセントもちゃんとあるし」
漣は右端の壁に備え付けられていたコンセントを目敏く確認すると、満足そうに頷いた。
そして快は、漣とは反対側に位置する作業用のスペースにいた。
長テーブルにパイプ椅子の並ぶ機能性の良さに、快の目は釘付けになっていた。
「作詞するのにここなら使いやすそう。……うん、日当たりも良いしね」
快は一面ガラス張りの窓際に寄り、心地の良い日差しを浴びていた。
アスファルトの上を走る交通量の多い地上、そして聳え立つビル群をぼんやりと眺める。
自由気ままな三人の行動を余所に、悠人は出入り口となる扉の前で佇んでいた。
「新人にしては破格の待遇過ぎないか? これ」
「いえ、人数に合わせたデフォルトですね」
加納の淡々とした言葉に、悠人の口端が僅かに引きつった。
「これでデフォルトなら、芸歴長かったり人気な人達はもうモデルルームじゃない?」
「楽屋裏から一気にグレードアップしたな」
「流石、天下のNOXUSエンターテインメントだな、金回り良すぎるだろ」
快、漣、そして煌の三人が口々に感想を言い合う。
「控え室はこんな感じですので、皆さんお好きにお使いください」
悠人は居心地の悪そうな、何とも言えない歯痒さを覚えた。
「それと、今回は軽い打ち合わせなのでここで済ませます。皆さん中央のソファ席に集まってください」
加納が控え室の中央にあるテーブルの横に立ち、ソファへ促すように全員へ声をかける。
煌と悠人、快と漣が二組に別れ、それぞれ向かい合うように着席した。
「まずは一番最初に、皆さんの活動名について説明します」
「活動名? バンド名みたいなもんか?」
あらかじめ用意していたのか、加納が持っていた鞄の中から数枚の紙が挟まれたバインダーを取り出した。
「はい。今後、皆さんはBLACK CROWNではなく――」
「STARDUST NOISEです」
悠人はテーブルの下で静かに拳を握りしめていた。
次回▶︎定期更新:金曜の20時。
ページ下部の『☆』や『ブクマ』で、評価・応援していただけると、
世界の熱狂度が上がります。
面白いと思っていただけたら、ポチッとお願いします。
お読み頂き、ありがとうございました!




