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第九話 悪役令嬢の決意


夜のギルド本部。街の灯りが窓越しに揺れ、広場には人々の喧騒が残るものの、深層で起きた混乱の余韻は徐々に落ち着きを見せていた。


三田由紀子は、窓際に立ち、遠くのダンジョンの入口を見つめていた。十七歳の少女には似合わぬほどの凛とした姿勢だ。彼女の目は冷たく、光を放つような鋭さを帯びていた。


「……やはり、あの力は隠されていたのか」


由紀子は小さく呟き、拳を握る。昨日の深層任務で目撃した光景が脳裏に蘇る。聖女の桜子が必死に浄化を行う中、突如現れた力が魔物を一掃した場面。誰も、あの力が誰のものかを知らなかった。


「力を隠すのは卑怯ですわ」


由紀子は自分に言い聞かせるように、さらに低い声で続けた。戦える者として、目の前の事実を受け入れられなかった自分の心を奮い立たせるための言葉だった。


深層での出来事を思い返す。聖女は限界を超えても戦うことはできない。だが、その隣に立つ回収員の青年――来生雅也の動きは、戦場を操るかのように的確で、まるで影から守る者のようだった。


「なら、わたくしが暴きます」


由紀子は決意を固め、静かに扉を押してギルドのロビーへ足を踏み入れる。廊下にはまだ回収員や探索者たちが忙しなく動いている。


彼女の頬は、少し赤く染まっていた。怒りでも焦りでもない、決意の色だ。桜子への嫉妬、そして自分の力を認められたいという願望――複雑な感情が混ざり合い、由紀子はそれを力に変えた。


「雅也……あなた、隠しているのね」


廊下の端で彼を見つめ、由紀子は小さく一歩踏み出す。冷たい言葉の奥に、ほんのわずかな感情が揺れていることに、雅也は気付くことはない。


「……目立ちたくないだけだ」


雅也は淡々と答える。力を持つ者としての自覚があり、しかしそれをひけらかさない。


「ふふ……なら、わたくしが真実を引き出してみせます」


由紀子は微かに笑みを浮かべた。その笑みは挑発でも、侮辱でもない。決意と覚悟が表情に宿る、強さを示す微笑みだった。


夜風が廊下を通り抜け、髪をそっと揺らす。由紀子の瞳は、闇に吸い込まれそうな冷たさと、戦う者としての熱を帯びて光っていた。


「この世界で、戦える力を持つ者が隠れるなんて、許せませんわ」


そう言い残し、由紀子は深く息をつく。悪役令嬢の仮面の裏に秘めた、少女としての感情と戦士としての誇り――二つの心が交錯する瞬間だった。


ギルドの静けさの中、由紀子の決意は固く、そして静かに燃え始めていた。

この夜、彼女の行動が、物語の次の波を引き起こす予兆となることを、誰もまだ知らなかった。



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