殺人日記(序)
12/25
私は今日、人を殺しました。
最初は興味本位でした。だって分からないし気になってしまう。所謂人間の性というヤツなのだから仕方がない。
誰のせいかと問われれば、きっと私のせいだ。
誰がためかと問われれば、それもきっと私のためだ。
結局の所、人間というのはそういう生き物なのである。
───世のためだ。
───人のためだ。
そんな空想めいた言霊を、当たり前のように吐き捨てる。
意味なんて無いのだと知りながらに、人類は考えを止めない。
私は憎い。
私は人間という種を酷く憎んでいる。
いつからだったか、どうしてだったか。
───判らない。
ずっと答えを探している。
それはそうと───死体はどこに埋めようか。
12/26
友人に言われて気がついたのだけれど、どうやら昨日はクリスマスだったらしい。
忘れていたのは、悔しかったからではない。
共に過ごす恋人がいないから、知らないフリをしていた訳では無い。───だって言うのに、彼は五月蝿かった。耳を塞いでも塞いでも、その煽り口調は止まらなかった。
─────まぁ。だからと言う訳でも無いのだが、
また、書きに来てしまった。
最後に聞いた言葉はなんだっけ。
最後に喋っていた言葉はなんだったけ。
忘れてしまうのも無理は無い。
人間に備わる機能の一つ、失念。
それは、記憶の器に注がれた液が、硬い床に落ちてしまう事。──で、更に床で蒸発してしまえば、何も無かった事になる。
では、そうだな。
訂正しなければいけない。
忘れてしまったというのは、語弊があった。
そもそも私の記憶の器には、そんな液体注がれていないのだ。
12/27
今日は珍しいモノを見た。
里菜ちゃんに、新しい兄弟が出来たので見に行ってみる事にした。
歳は七歳。性別は女。名前は、確かサラかサナのどっちがだったと思う。
可愛らしい容姿をしていた。
自分でも素直に驚いた。初めての経験だったからだ。この種を見て、そんな事を思う日が来るとは考えていなかった。
目はまん丸で、長いまつ毛をしている。
鼻筋はしっかり通っていて、年齢に不釣り合いなくらいに唇は艶かしい。
喋りかけてみたのだけど、その生体反応は悪い。
あぁ、だの。うん、だの。
本当に人間かと疑いを持った。
───興味が湧いてきた。
私の知る人間とは、最も愚かな生態系でありながら、有象無象に罵詈雑言を浴びせる簡単な生物だ。
なのに、コレは違う。
見たコトが無かった。
何となく、鏡なんて見なくても、私の頬が緩んで裂けそうなのが自分でも分かる。
シスターに話を聞いた。
元の親から虐待を受け続け、村では迫害を受け、完全に壊れてしまったのだそうだ。
この時は、新しい発見だと思った。
ヒトはコワレルのだ───
新しい遊具が手に入った気分だった。
折角なので、少しだけ遊んでみることにした。
当人曰く、何も感じない。全てがどうでもいい。だそうなので、心が崩壊していると勝手に結論付けた。
とりあえず、右手の甲の皮を、ハサミで切ってみる事にした。
家庭科用の糸切りばさみしか無かったんで、それで代用する。
やっぱりてんで切れ味が悪い。
───無反応だった。
左手も切ってみた。
次はアイスピックで腹部の中心を刺してみた。
力無く吐血して、少しだけ声が漏れた。
───面白い。
次は耳の中を刺してみた。
また少しだけ声が漏れる。
───興味深い。
だって常人じゃない。いやきっと人間じゃない。
次は何をしようか。
何を思ったのか、私は右手を振りかぶった。
失望した。
アレだけ傷をつけても声を出さなかったモノが、殴ろうとしただけで、泣き叫んで後ずさったのだ。
けれど上手く歩く事は愚か立てないようで、身体を這わせてる逃げようとしている。
この時既に、私の興味は地に落ちていた。
なんともつまらない。
やっぱり、人間は壊れたりしないんじゃないか。
12/28
今日は猫を殺してみた。
何かが違うと思った。
それで、いつもとは違うものが得られると思った。
けれど───なんらいつもと変わらなかった。
血液だって同じ色だったし、声だってちゃんと漏らした。多分痛覚もある。人間より高いのか低いのか、そんな疑問すらどうでも良くなる。
そのくらい、無意味な時間だった。
そう言えば、もうすぐ年が明けるらしい。
新年か。
これから先、何が待っているのだろうか。
兎にも角にも、今年は良い一年だった。思い返すとつまらない事だらけで、退屈な日々だった。──だがそれでいい。それ自体が、人間を人間たらしめている。




