山形の試合
心の準備もしていないだろう山形が心底驚いたように
「バスケ部の俺が先発?さすがにふざけてるって相手に怒られるだろ」
と、まさかの常識発言。
「相手は優勝候補のひとつだ」
落ち着いた雰囲気で沢村が整理する。
「ならなおさら…」
「山形くんの見せ場は今日よ!チャンスなんていきなり来るものなの」
折井は無茶な論理を振りかざし山形を黙らせた。
「…通りでマリに来いとか連絡があったわけだぜ…」
試合前のミーティング。
相手は攻守にまとまる県内一有名な野球名門校だ。
「いつもみたいに投げてくればいい」
田所のアドバイスとも言えないような発言。
一応全員が練習ではバッピをする。
少ない練習回数の山形も同じだ。
俺の入院期間中にも何回かしてると昨日聞いていた。意外にコントロールが良く(スピードは犠牲となってる)、その長身から投げ下ろされる角度は厄介らしい。そして変化球は…とりあえず長い指を生かしたフォークボール。
「ワンバンでもいいから低めに」
田所の2つ目のアドバイス。
スピード差があって変化はそこそこ。
「まっ正体はチェンジアップだ」
…そういうことね。
・・・
名門校の監督らしく対応は早かった。
試合開始からすぐに球の見極めが始まる。
一回り目で目を慣らし、2巡目から状況に応じてバッティングしてくるのだろう。
名門校の監督すら折井の術中にはまった。
すなわち…山形は始めから打者9人と決められていた。
労せずしてうちは3イニングを0点に抑えることができた。山形がかなり低めに集めることができたことが理由だ。
スタンドではマロさんが応援していたこともあるだろう。
把握していないが…マロさんが来た試合で山形は必ず本塁打を放っていた。今日はまだ三振1つだが。
両軍無得点のまま4イニング目へ。
五明がマウンドに上がる。
「時々市川が乱調気味になるとあいつが出てきたんですよ」
そう児島訓が解説してくれた。
リリーフには慣れているらしい。
五明はいわゆる身体能力で投げるタイプだった。球のキレやスピードにばらつきのあるタイプ。それでもレベル自体高いから、打ち返すには打者にも能力が求められる。
…そしてなにより、田所が老獪だった。
ランナーを1人出したが四番打者に対して最後は真ん中のスライダーを見逃させた。
あ然とする四番。
この試合のハイライトだった。
こちらも山形の本塁打(!)を含め長打で得点を重ねる。
五明も一回り以上相手を封じ…7回にて7対0。
すなわち、コールドゲーム。
完勝と言っていい内容となった。
山形はその夜マロさんから祝福をもらったらしい。
男泣きに泣いて連絡があったと黄田が後にボヤいた。




