五明くんと登校
姉の懐妊は千種を通して行朝さんたちに伝えられた。特に千紗さんは感慨深そうだったと言う。高校生の頃から知ってるもんな。
いずれは千種も…?
全然想像できない自分がいる。だいたい父親は…。
「認知しないつもり?」
いかにも爆発しそうな視線で俺を見つめる千種。
いいや、我が子に罪は…。
「娘だったらだだ甘の父親になりそうなくせに」
…まだ分かんないだろ。
とにかく結婚、出産と言ういわば人生のハイライトを意識せざるを得なくなった。
その時俺は何をしているのだろう。千種とどんな関係にあるんだろうか。
「もっと好きになっている」
狂おしいほどの真っ直ぐな言葉。
・・・
さて、義兄にお祝いのメッセージを送ろうと思うんだが。
果たしてどう書けばいいんだろ。
右に座る千種に聞く。
「素直に書くのが一番だけれど…。もうすぐ僕も続きます、とか?」
せめて高校卒業までは駄目って千紗さんに念を押されてるぞ。
「そんなのやった者勝ちよ」
無茶言うな。働くのはやぶさかでないけど、俺も高校卒業はしたい。
その後も脱線する千種を押し留めてなんとか無難なメッセージを送ることができた。
試合後の日付が変わろうとする頃、義兄は丁寧に返事をくれた。
・・・
次の日の朝、いつもより少し早く部屋を出ると告げられた。
用事はなかったはずだけど。
通学路を割と早めにはずれ、普段は使わない道を行く。これ玲先生のアパートに向かう道だ。
美也子か?
「うん」
わざわざ迎えに行くんだ。
「んー、少し違うの」
?
説明不足のまま玲先生の部屋の近くで美也子と落ち合う。
なにか憑き物が落ちたようにすっきりした顔を美也子はしている。
トヨさん、どっかに行ったのか?
「憑き物ではない」
千種からの低い声。ミコさんか。
最近器用に突然出てくることができるようになったみたいで…俺には不都合だ。
憑き物扱いは彼女たちには失礼に感じるらしい。
美也子に合流してすぐ。やや重たげな足取りで現れたのは五明くん。
明確に付き合うことになったのか、誰からも明言されてないなと思いつつ
「よう、朝から仲良く登校か」
「…あんまり気が進まないですけど」
やはり美也子の勢いに押されたのかと思う。
「まさか五明と朝一緒に登校することになるとはな」
「昨日まで考えてなかったですよ。…幸平さん」
うん?
「あの二人を普段から相手してるんですよね?」
同情してくれるか?
「なんて言うか…重たいものに全速力でぶち当てられてる感じです」
あいつら感情の量が普通より多いからな。
「一般人のつもりなんですけどね」
好むか疎むかはおまえ次第だけどな…悪くないぞ。
「達観してるんですね」
ただ慣れただけだ。
千種の狙いは明白で。
五明と美也子が付き合いだしたことと、バックには俺たちがいること。
文字通り美也子と五明が先に行き、後から俺たちが続く。
その立ち位置で想像できることは多くない。
千種のお墨付きを…彼女たちに与えたのだった。
「なあ、一つ気になるんだけどさ」
由麻ちゃんってどうなんだろ?
「あたしの立場的に由麻ちゃんと接触しないほうがいいかな。幸平、今日中ね」
どうやら今日は探偵までこなさなければならないようだ。




