パワープレイ
結果が分からないまま俺と千種は自分たちの教室へ戻る。
とにもかくにも千種になりゆきを尋ねずにはいられない。野次馬上等だ。
「屈伏」
恋の行方とは似ても似つかない単語が聞こえてきた。屈伏?
「外堀どころか全部堀を埋めちゃったの」
なんとなく逃げ道をすべて塞いだというイメージが浮かぶ。
詳しく聞くタイミングはまた放課後か夜になるんだろうが、攻め一辺倒の上に短時間で(俺が姉さんと話しているわずかな時間)で認めさせたってこと?
「そう」
五明が埋められた図が浮かぶ。
恋の駆け引きはあるかもしれないが、まるで命のやり取りをするような…。
「出会うタイミングが違えばあたしだって…」
独り言は聞こえなかったことにしよう。
・・・
ミコさん、トヨさん姉妹特有の性格ゆえか、あるいは美也子本人の特性なのか。珍しく昼寝をしないで授業を過ごした。
結局授業を聞いていないのには変わりがないのだけど。
俺は野球部、千種はプールへと放課後に行き、顛末を千種から聞いたのは結局夜だった。
疲れているだろうに千種は夕飯をちゃちゃっと用意してくれて、今日もありがたいことだ。
風呂掃除、洗い物なんかは俺がすませ、いざ物語を聞かんと欲す。
「漢文の授業真面目に聞いてたのね」
BGMに最適なんだ。
「100%無理」
千種の解説が始まる。
無理って付き合うことだよな?
「五明くんが想定してるわけないじゃない?」
そりゃそうだ。
「後はごり押し」
え、パワープレイ?
「もう国民的アイドルスポーツキャラなのよ、美也子ちゃん」
そうしなきゃならない理由があったからな。
「幸平なら?」
千種が国民的アイドル…。
物語つくらなきゃな。上手くいっても、例え失敗しようとも。
「あなたはそういう運命なのだと自覚させること」
五明は確かに…主人公キャラだな。
てことはだ…結末がどうあれ、一度は付き合わなきゃならないじゃん。
「うん。だからパワープレイ」
詭弁だろ。
「美也子ちゃんが本気だから、あたしは構わない」
五明が可哀想じゃないのか?
「生半可な気持ちを伝えてるわけじゃないもの」
そんなに?
「だからあなたは浮気者なの」
これ以上は藪蛇になる気がして、俺は黙った。
明確に美也子が道を間違えたら正す、それを千種に伝えて。
五明に俺が必要以上に肩入れする気はない。
きっかけは確かに強引だけど、あの美也子が相手を傷つけるほど愚かだとも思っていなかった。
・・・
だけど…ある意味似た者同士だよな。千種と美也子。
「失礼ね」
さらに失礼を重ねる千種。
男にしたら少しも気の抜けない存在じゃん。
「浮気者のくせに」
そっと黄色いミサンガを撫でる。
「そうやってご機嫌取りするから疑うの」
口では言いつつも
「髪を切らなきゃ良かったかなあ」
珍しく後悔めいたことも言う。
あの覚悟で俺は戻って来れたから。
本当に感謝している…と伝える。
「このタイミングでそんなこと言われたら…後悔できないじゃない」
髪が伸びる分、俺たちの物語が進んでいくんだからさ。
「美容院には行くわよ?」
あ、俺が用意していた冗談なのに。
「もっと愛してよ」
ストレートな要求。
正直どうすればいいのか、分からないよ。
少年漫画のように俺たちの戦いはまだ…。
「始まったばかり、とか言わないでよね。打ち切りは嫌」
まだまだ続きます。




