兄妹
「先輩、美也子になにかしたんですか?」
やや強めの語気で前田さんが俺に質問する。
そう言われてもな…。
たぶん昨夜の話に関係したことだろうが、いきなりすぎて想像がつかない。
中学時代にこんな時は(ほとんどなかったが)優しく髪を撫でてやったものだけど。
ほんと後のことを考えずに、その時は反射的にその黒髪を撫でていた。
「「「「!」」」」
他の女子が驚く。
俺の行為に、そして受け入れる美也子に。
時間にして20秒もなかっただろうか。
目を閉じている美也子。
わずかだが落ち着いたようだ。
いけね、反射的にしたけどまた千種に…。
『女神様』は笑顔だった。
「怒らないの?」
「兄が妹を元気付けているのをどうして?」
どうやら千種は俺と美也子の関係を、周りにとって理解しやすい兄妹に落とし込もうと意図したようだ。
ああ、それが俺も納得できる答えなのかもしれない。
・・・
勢いが削がれて一年女子’sは気まずそうにお互いが視線を惑わす。
「市川くんたちでしたよね?」
前田さんは気を取り直して奥にいた市川たちを呼んでくれる。
…って五明も一緒に来ちまった。
それにしてもずいぶんスポーツ関係多いな。
「2年もでしょ?」
そういやそうだな。
特段スポーツコースがこの高校にあるわけではないんだが。
さては…管理がめんどくさいから一纏にしてしまえ…と企んだな。
泉田先生の顔が浮かぶ。
「珍しいですね、先輩から来るなんて」
落ち着いた感じの後藤が質問してくる。
気質的に中学優勝チームの主将はおそらく後藤だったのだろうな。
にしても、さてどうしようか?
そもそも情報収集が目的なのであって、五明本人がいたらなにもできないぞ。
「五明くん、少し時間がほしいんだけど、いい?」
千種が突然切り出した。
予想外過ぎるだろ。
五明は不思議そうにしたが、「はい」と簡潔に答える。
千種からの申し出を俺と美也子は文字通り目を丸くして、お互いに見交わす。
およそ千種の行動パターンになかったはずだ。
「それと美也子ちゃん、幸平が逃げ出さないようについてきて」
え。俺…ヤバいのか?
そんなわけで当事者たちと(五明は完全に巻き込まれただけだが)一緒に、俺たちはプール近くの死角のスペースへと向かうこととなった。
あードキドキする(他人事)。




