行朝さんとの一コマ
本当に珍しく親子で晩飯を作り出した。
千種と千紗さんだ。
どんなことを話しているのか、たまに千種が笑い声をあげたり、むくれたりしている。
さすがの千種も千紗さんには振り回されるらしい。
狭いキッチンで二人の話を盗み聞きする気になれず、なんとなく外に出る。
外では行朝さんがタバコを吸いながら月を見上げていた。
そう言えば…行朝さんがこの町にいた頃に喫煙していたのを見たことがなかった。
今夜は月も痩せていて、雲がなくても明るいとは言えない。
「リハビリはどうなんだい?」
「…順調ですよ。土曜日の試合ではベンチ入りしましたし」
「今年の高高は強いらしいね」
「光太郎クラスの打者が数人入ってきました」
「贔屓選手が増えるわけか」
行朝さんはゆっくりと笑顔をつくる。
ふと気になった。
俺の母は行朝さんと同世代のはずだ。
家は目の前。しかも早名姓。
そう。それこそ幼馴染ではないのだろうか。
「小さい頃から母と知り合いでしたよね?」
俺の意図を汲み取ってくれたのだろう、行朝さんは
「たぶん…一番気を許してくれただろうね。清さんも…もしかしたら華さんも」
この人の静かな包容力は目立たない。
だが確実に包み込んでくれる安心感があった。
おそらくそれは…千種に正しく受け継がれている。
遺伝とかでなく環境なのだろう。
「僕はたいした野球選手じゃなかった」
始めの頃に千紗さんから高校球児だったと聞いたことがあった。
「平凡そのものの。だから最後の大会でさっさと負けてすることがなくなってから困ったよ」
きっとそれは本当のことだろう。
「高良では男は女の…引き立て役みたいなものだ。なんとなく分かるかな?」
まだ一年半にもならない俺でもそれは感じている。
「有り体に言って男は生活費さえ稼げばいい。そんな雰囲気さえあったかも」
時代は変わったけど、と付け加えた。
「僕は…てっきり清さんが巫女になるものとばかり思っていた。それくらい…彼女の表層しか見てなかった」
「いずれ…彼女との縁談があるのだろうと漠然と思って大学に行ったんだよ。だから彼女も作らず無気力に生きていた時に千紗に出会った」
「時々あの時清さんがなにを思っていたか知りたくなることがある。なんせ早名の本家と類縁のうちだからね。ある程度彼女にも思うことはあったんじゃないかって」
「千紗は…とにかくバイタリティがあったよ。強くて活発で。引きづられて過ごしているうちに千種が授かった」
その頃には結婚していて行朝さんたちは高良に来たのだと言う。
「正直一太くんとはほとんど面識はなかったんだ。なんせ彼はプロ野球選手だったし、そのうちアメリカに行ってしまったから。その分葉くんが高校生でここにいたが」
「彼女…清さんがいろんな人と縁を結びたがっていたことを知らなかったよ。ひとえに君を思ってだろうけど…。千種にしてみたら大変だろうね」
軽く笑う行朝さん。
「大丈夫」
後から千種の声。
「慣れたわ」
ご飯できたから早く入ってと急かす。
もうちょっと母の話を聞きたかったけど…今度にしよう。




