ミサンガ
「綺麗になったのと…なんだか雰囲気変わったね、ちーちゃん」
目の前の美少女はそう切り出した。
元来が活発であろうことを覗かせている。
「いつ以来?」
千種は探るように返事をする。
なんせ…自称お嫁さんだからな。
「そんなに緊張しなくていいって」
芽さんはそう言って、さらに
「ヒーローなの?」
と続けた。
なんだ、それ。
「あたしの旦那」
俺の知らない色の目をして千種は答えた。
「うーん…そっか」
芽さんはそう言ったきり黙った。
千紗さんはいつの間にか隣の部屋に行き、この部屋には3人。
「高良大が志望校なんだよ」
少ししか話をしていないが、目の動き、表情を読む限りやはり千種の親戚と言った感じだ。
つまり…怜悧である。高良大がどの程度の学力を必要としているかまだ調べていないけど、橋本さくらさんから聞く限り千種ならまず受かるんじゃないか…くらいは聞いている。
「それで下見と言うか…たまたま千紗おばさんと話したら、じゃあ一緒に行きましょうかって」
「あたしのお母さんからいつも早名くんのこと聞いていたから…水泳も、甲子園も」
あー、珍しい俺のファンかも。
調子に乗るなと千種の厳しい視線。
分かったから怒るな。
「もう夫婦なんだ」
噛みしめるように芽さんは笑う。
「この間幼馴染からね、いつまで待てばいいのかって聞かれて」
あ…そういうこと。
なんとなく山形を思い出す。あいつは並々ならぬ努力をしてる。
「早名くん、怪我は?」
そういうことならはっきり言っても構わないだろう。
「千種に未練があって戻ってきた」
芽さんが千種の髪に目をやる。
「伸ばすの?」
成人式までは…と千種が答える。
「悪者は嫌だな」
ポツリと彼女は呟いた。
「澪ちゃんや親戚の子に伝えるね。千種ちゃんがもう離さないよって」
・・・
千紗さんが部屋に戻りこれからホテルに行くと言う。行朝さんも戻ってきたようだ。
今晩芽さんは一人でホテルに一泊し、明日千紗さんたちと地元に戻る予定らしい。
アパートの前で見送る俺たちに芽さんは最後にこんな言葉を残した。
「黄色いリボン。綺麗だね」
果たしてこの地の風習を彼女は知っていたのかどうか。
短くなりしばらく使わなくなったリボンはさり気なく片隅に置いてある。
「あなたのお母さん…心配だったのかなあ」
まだ性別も分からなかったはずだけどな。
だけど…。
「お父さんたちすぐに戻ってくるって」
夕飯の準備に気を取られ始めた千種の右手首には、黄色いミサンガがさり気なく巻かれている。




