婚約手形
芽さん…木島芽さんは俺たちと同じ高2だと言う。
なんでも千種のはとこ…まあ有り体に言って遠縁らしい。
千種自身も数度しか会ったこどなく、直近でも三年前の共通の法事が最後らしい。
長い髪、整った顔立ち、千種より大きめな胸、どこか洒落た制服に身を包みスカートは限りなく短い。
まあ間違いなく物語のヒロインになりそうな容姿だった。
で、どうしたら俺の嫁なんですか?
「まだ芽ちゃんがお母さんのお腹にいる頃こっちに気分転換がてら遊びに来たことがあって」
ずいぶん前の話だ。
「少し前みたいな感覚なんだけどね。年は取りたくないものね」
ずいぶんお綺麗ですよ。
「あの人より幸平くんにしようかしら」
「お母さん!」
千種がだんだん苛立ちはじめた。
「高良で清さんに会ってね。その時に異性の子供ならお付き合いさせるのも悪くないわね」
そんなふうに話が弾んだそうだ。
いやまさか…。
「将来の楽しみってほどではないけど、ことあるごとにあの綺麗な清さんの子供さんなら楽しみだって芽ちゃんに話していたらしいの」
お腹にいる時から。
そう千紗さんはいたずらっぽく話した。
胎教ってやつか?
それにしても今日来たってことは…。
「そのまま信じていたらしいの」
「だってそんなこと…」
千種が反論しようとする。
「わたしも知らなかったの」
あー誰も悪くないパターンか、これ。
「だって芽ちゃん、一言もそんなこと言ってなかった…」
数年に一度しか会わない親戚に小中学生がそんなこと話さなくても不思議じゃないよな。
「そうだけど…」
無益な議論を千種は避けた。
「千種がいますので…って最初はきちんと芽ちゃんのお母さんにも言ったのよ」
だけど割と素直なその人は、せめて娘の縁かる人に会わせてあげたいと、千紗さんに懇願したそうだ。
亡き母の約束は千種との縁にも生きている。そう思うと無碍にもできないわよね。
そう千紗さんは説明を終えた。
「葉さんもだけど、幸平くんへの思いが不思議とみんな一途なのよね」
千種も然りと。
清さんの持っていた雰囲気のせいかしら、と千紗さんは続けた。
今さらだが俺の母は既に亡く、その真意は分からない。
「世の中の人全員がそうではないけどありがちな話だと思うわよ」
ただ…その後の環境や年月でたいがい忘れちゃうものでしょうけど、と千紗さん。
千種は姉が幾年もかけて本人に俺の幻影を醸成したものだ(洗脳と姉は以前に表現した)。
千紗さん自身は千種に影響を及ぼしていない。
そういうものなのでしょうね。
「せめて16年?17年の思いに決着をつけることくらいはさせてあげないと」
千種の母親として。
そう千紗さんは言った。
娘の幸せを願うからこそ憂いを解消すべきものなのだと全容を話す。
「じゃあお嫁さんって…?」
自称よ、と千紗さん。
自称ってことは…とまだ言葉を発しない芽と言う名の美少女を見る。
彼女は微笑みを絶やさず俺を見ている。
千種は困っているようだ。
明確な意思が分からなければどう反応していいものやら分からないだろう。
「あーそうそう」
まだなにか?
「千種を身籠ってる時になんか親戚が頻繁に訪ねて来た時期があってね。ちょうど清さんが里帰りしてる時で」
なんだか猛烈に嫌な予感がしてきた。
千種が俺の手を握る。
「なぜかみんな子供がいるか妊娠していて」
奇妙な偶然だな。
「みんな女の子なのよね」
まじか。
「……何人?」
思い切るように千種が尋ねる。
「多くないわよ」
指を折って人数を数えている。
千紗さんの指は中指で止まり
「3人かしら」
俺はその時の母が婚約手形を乱発していないようにと、咄嗟に祈った。
みなさま良いお年を。




