監督登場
「お詣りも終わったし…新人は帰るか?」
千種へのお詣りが済み(本人は嫌がったが、やがて恒例となる)、もう部活終了だ。
…なにしに来たんだろう。
新人ナインはお互いに目を合わせ、誰か発言するのを待っている。
まあ、児島か…五明だろうな。
流れを作ろうかと俺が発言しかけたところで、
「なんだ、おまえら来てたのか」
初日集合の連絡もされない、寂しい大前監督だった。
「初日なんでお詣りに」
沢村の謎理論。
「なんだ、そりゃ?俺もいろんなチームに所属したがそんなことしたことねーぞ」
そうでしょうね。
ノリなのか、監督も千種に祈っていた。誰も分からないだろうが…明らかに千種は機嫌が悪くなっていた。
本人にしてみれば迷惑この上ないだろうけど、確かに半分くらいは正しい行為だ。なんせこの地の神様が千種の中に人格として宿ってるんだからな。
「有給大丈夫なんですか?」
まずはこの話題。監督はニヤリとして
「新年度だからな、まだ未消化だ」
おおお…と俺たち2年生。
無事乗り切ったんですね。
「新人がたくさんいるらしいからな。少し調べるつもりで来たんだが…」
監督、自己紹介を。
「あー。大前宝だ。おまえたちが絶対に入れない頭のいい大学を出て、プロ野球に入ったが下手くそで二軍のまま引退した。スカウトも少しやったぞ。遊佐晶は俺が引き当てた」
おおお…と新人ナイン。
この監督…自慢と自虐が入り混じって妙な味がある。
「今は医者だ。監督はボランティアだから、ほとんど休むぞ。だからな…ほどほどに勝ち抜け。間違っても全国優勝とかするなよ」
あーそれで有給…と新人は納得したようだ。
「せっかくだから全員挨拶してくか?その後、練習がてらプレーをスカウトの目で評価でしてやるよ」
おまえらへのお年玉だと監督は言った。
有給が使えるようになってかなり機嫌がいいようだ。
機嫌てば千種は…あら…いない。
呆れてどこかに行ったのか。千種に限って危険なことはないだろう。学校の中だし。
こういう時にうまくやり過ごしてくれるのは、俺にとっては千種の美点だ。自分勝手な感想だけど。




