山門飛梅のケジメ
ヒメさんとの口頭契約が終わると、ヒメさんは姿を消した。
あれこれと思慮を巡らす千種に、概要を説明するだけでサボりの一限目の時間を目一杯使った。
その構図の単純さに千種は怒り、呆れた。
そして俺は…発熱した。
ほんとに二限目から保健室である。
怒りながらも千種は俺に付き添い、二限目も俺といた。
急変が起こったのはそのあたりだったらしい。俺はあまり記憶にないのだが、心配したマロさんとキントキさんが二限目終わりに保健室に来て、知らせてくれたと言う。
ヒメさんと田中秀吉が揃って早退した、と。
千種は混乱したらしい。
そしてすぐにヒメさんから千種宛にメッセージが届いた。
もう二人の前に田中秀吉を立たせることはしないからと。
どういうこと…と返信した千種には
「とにかくごめんなさい」
と一度答えがあったきり、次のメッセージは未読のままとなったらしい。
教室の中だけなら大丈夫だろうと千種は判断して、俺を保健室に残し三限目からは授業に戻った。
それでも休み時間ごとに現れてはずっとそばに付いていたそうだ。
・・・
夕方ころやっと目が覚めた。
熱はどうやら落ち着いたようだ。
まだ関節が痛い。
「そんなに授業が嫌か?」
そう言って監督が保健室に入ってきた。
相変わらず口の悪い。
「普段から寝ているし、あんまり変わりませんよ」
「おまえは…」
呆れて監督は俺をベッドのまま、脈や喉、熱の有無なんかを診た。
一応医者だもんな。不安だけど。
「うん、大丈夫だろう。たぶん授業への拒否反応だろうな」
実は藪なんじゃ…と思ったのは内緒だ。
「おまえの復帰初日だからな。早く来てみりゃ案の定保健室だって聞いてな」
…すみません、ありがとうございます。
「おまえに何かあったら薫さんに叱られるんだよ。40過ぎて怒られてみろ。そりゃ…効くぜ」
…薫さん、怖いんですか?
「もっと怖いもんはいっぱいあるけどよ、丁寧に努力してんだから、こんなことで信頼失くすわけにいかないんだよ」
…ぶっちゃけましたね。
「真っ当な交際ってやつ、悪かねえよ」
・・・
なかよし水泳会は現在閉店中につき(全員、合宿に行ってる)、千種も時間がある。
だからまあ…帰りも一緒なわけで。
監督に車で送ってもらったから、すぐに着いたんだけどね。
大変な一日だったな。保健室で寝ていただけの気もするが。
千種にヒメさんからの返事はまだないと言う。
どうするつもりなのか。
一回だけ千種にメッセージが来た。
『千種も俺も心配なく登校してほしい』
それだけだった。
この結末だけは先に言っておこう。
その日からヒメさんも田中も登校することはなく一週間が過ぎ、ヒメさんは戻ったものの、田中はあの日付けでこの学校を去った。
急な退学だったと言う。
不思議と惜しむ者はいなかった。




