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高良フェノミナン2nd  作者: カラー
第4章:退院後の日々

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37/79

退院の日と翌朝

 退院の日。

 ひっそりと病院を後にした。

「また来いよ、とは言えねえか」

 監督のなんとも言えない激励を背にして、千種とのアパートに向かう。

 既に着替えなんかは光太郎たちが前日に運んでくれて、バッグ一つの気軽な出立だ。

 見送りがあるわけでなく、ほぼ2カ月過ごした病院はいつものようにそこに座っていた。


 付き添いは…千種一人である。

 入院期間中にたくさん人が来たからな。むしろこれくらい少ない方が清々しい気持ちだった。


 アパートに着く。

 正直それほどアパートに長いこと住んでるわけじゃないから、帰ってきたと言う実感に乏しい。

 それでも。

 千種が大切にしている色紙、小物類なんかを見るとやはりここが千種との住まい…そう思える。


「ね、幸平」

 声に目をやると、千種は髪に手を当てて

「少し伸びたと思わない?」


 毎日のように見てきたけど…そういや少し伸びた、のか?

 人の髪って一日にどれくらい伸びるんだろうね。

「前と同じになるっていつになるんだろうな」

 髪を俺の指で梳きながら聞いてみた。

 俺の指が心地よかったのか、千種は目を細めつつ

「成人式くらいになればいいな」

 と甘えた声で答えた。

 そんなに先なんだ…。


 今日だけは動かなくていいからね、と千種は甲斐甲斐しく動いてくれた。

 夜もまたそうであり…一つになった後

「ずっと…ずっと待ってた」

 どういう種類かを想像する間もないほど潤んだ瞳で、そう囁いた。


 ・・・

 翌朝。

 軽く走りたい。

 ウェアに着替えていると、千種も同じ姿。

 どこ行くんだ?

「今朝は一緒」

 あら。運動能力は秀でているが、基本千種はあまり自分から体力づくりが熱心ではなかったはずだ。

 何のために?

「こういう節目にまた女難ありそうでしょ?」

 …ないと思うぞ。


 そんな訳で二人で走り出した。

 さすがに2カ月はブランクが長く、千種についていくのがやっと。

 ふと以前まで待ち合わせにしていた場所に光太郎がいた。

「よ。待ってたのか?」

「たぶん幸平さん、すぐに走るんじゃないかって期待してまして」

 さすがに早名…室賀さんと一緒とは思わなかったすけど、と付け加えた。


 千種は室賀千種となっていた。


 なんだか変な感じ…とは当初言っていたものの、サナメ/早名女の呪縛がかなり鬱陶しかったのだろう

「こんなことしても幸平が早名のままなら、逆戻りしちゃうね」

 と笑っていた。

 いつものことながら千種の笑顔に救われる。


 三人で行くコースの途中に旧千種邸。

 そしてその前には建ちつつあるアパート。

 喜美子ばあちゃんの家が取り壊され、意外に広かった土地に三階建てのアパートが建設途中であった。

 一階は薫さんの料理屋が入る予定。

「特にさくらさんが猛特訓中らしいですよ」

 結菜から聞いたであろう情報を早速光太郎は俺に横流ししてくれた。

 大変なことだ。長女も…あるいは三女も。


 千種は黙って建築物を眺めている。

 一人で中学の三年間、この家の庭を守ってきた。

 その姿を想像しながら、肩に手をやる。


 ふと振り返ったその姿は…去年初めて会ったこの場所に相応しく…。

 紛れもなく自身の足で立つ、千種そのものだった。



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