止めた「願い」
国会議員が亡くなり、宮司が娘に刺殺され、キイロバナの栽培家の夫婦の一人が自殺した…。
高良の地に異変が起きた…と考える者はいた。
たった一日のできごとである。
彼らに共通する因子を探り当てるのは簡単な連想ゲームだ。
御地は神聖なるがゆえに御地なのだ。
単純な理由はその正当性を図らずとも人々に受け入れられやすい。
彼らは利益追求の団体を目論んだ。
結果はどうだ?
民意の代表は反故にされ、歴史の集積物は宮司家の一人に火を放たれ焼失、伝統的なキイロバナの生産はその技法をいくつか失くし…。
この時代にあって、およそ中世のような噂が囁かれる。
曰く…天罰。
・・・
「山を越えました」
児島先生は葉と千種に断言した。
ただ、快方に向かうかは予断を許さない。
死から遠ざかった現状なのだと。
そう伝えて、児島先生はこの場を離れる。長い時間の手術の後も幸平を診ていた。
葉さんと二人になる。
「何を願ったの?」
おそらくあたしの…力が働いたと考えているのだろう。
知覚できる類の力ではない。
あくまで葉さんの想像だ。
「ミコさん…あたし。どちらも…願わなくなりました」
あたしの予想外の言葉に葉さんは険しい表情を崩さない。
でもさすがに葉さんだ。
「ずっと願っていたことがあったのね」
その時の自我はあたしだったけども、ミコさんの意図は既に知っている。
「この地と民の平穏」
少し沈黙した葉さん。しばらくして
「ありがとう」
と頭を下げた。
「ここに来て以来、ずっと願っていたことなのね?」
そのようだった、とミコさんの答えを代弁する。
「幸平一人に全力を注ぐのは、他に及ぶ影響がはかり知れないから、力をまったく使わないことで運命を変えたのか…」
「そもそも死に向かう人を生き返らせる力は持っていません」
鮮やかな能力は幻想に過ぎない。
「願うことだけ…です」
それは確かに…巫女だよね。
神意を受ける役目もあるかも知れないが、やはり祈ることが本来の出番なのだろう。
…そんな風に巫女の役割を受け取ったと、葉さんは語った。
・・・
夜が明けた。
高良に起こった異変をあたしたちも知るところとなった。
もはやため息も出ない。
そして。
幸平はまだ意識を取り戻さない。
連載前に用意した三つ目のギミックは「願わない」です。
短い章となりましたが最終話です。
次回から幸平くんの物語に戻ります。




