崩れていく「幸運」
病院に戻るとそこには葉さんがいた。
いくら東京からとは言え、この数時間でここまで…。
「その髪…」
あたしの意図を瞬時に読み取っていた。
「まだ心臓が蘇生してないって…。機械で動かしてるんだって」
事態は変わっていなかった。
彼の死が近かった。
・・・
地元選出の国会議員が倒れた。
・・・
幸平の心臓が自力で動き出す。
その報はあたしたちにもたらされた。
(吉と不吉は表裏)
(バランス…)
内なるミコさんの呟き。
ひとつ目の山を過ぎた。
・・・
神社の宮司が娘に刺殺された。娘は執拗に幾度となく刃物を突き立て、神社に火を放った。
・・・
複数の骨折と内臓のダメージの処置が始まる。
既に夕刻に近い。
それでも着実に彼が生きようとしている気配を感じる。
彼は…生きることを選んでくれた。
魂がもしあるなら…悟りなどよりあたしを選んだ。
これを、と通りかかった看護の人に渡す。
一つ結びにして。
黄色いリボン。甲子園に行く彼に御守りにと端を切ったが、まだ十分に長く。
衛生上果たして届くかは分からないが、この地に住まう大人はその意味を知る。
ええ、と彼女は了承し、受け取ってくれた。
誰の判断か、彼の近くにそれは置かれたと後に聞く。
・・・
日が落ちる頃、伝統的なキイロバナの栽培家庭で奥さんが首を吊った。
放蕩家で家庭を省みない夫が帰宅し、風に漂う妻を見つけた。
実質的に一人で家業を支えていたと言う。
・・・
手術が終わり葉さんが呼ばれた。
すかさずあなたも一緒にと言われる。
「あなたしか」
いないのだからと。
児島と刺繍された白衣を着た医師がいた。
「奇跡的に心臓が普通の人より丈夫で持ちこえていますが」
今晩が山です、と告げられた。
もう願わない。
・・・
長く苦しい夜が明けた。
彼の意思は今も流れてくる。
あたしを求めている。
ずっといるから。
そう答え続けて。
あなたが求めるから。
あたしはここにいる。
あなただけに答え続ける。
そして…彼の意思が変わった。
待っててくれ。
直後、容態が安定の方向に向かい始めたと、リボンを渡した看護の方がまずあたしに話しかけた。




