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高良フェノミナン2nd  作者: カラー
第1章:春の頃、人が来たりて為すことぞ

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2/16

入学式前

 本日は晴天なり。

 一年前は一人で日本選手権決勝だったからな。孤独な卒業式(水泳を)と、やむなく欠席した入学式を思い出せば、ずいぶんと楽しみな日であることは間違いない。

 張り切って日課のロードワークを光太郎とこなし(俺が引っ越したから待ち合わせする毎朝になっている)、さあ出かける準備…。


 ……。

 千種、なんでそんな余裕なわけ?

「在校生は入学式に参加しないんだよ」

「なんだ…じゃあクラスで待機か?」

「やる気に満ちている幸平には残念なお知らせがあります」

 …最悪休みなわけでは…

「春休み最終日なんだよね」


 えー。だって沢村が今日グラウンド集合って。

「何時に?」

「いや昼過ぎ」

「野球部だけ、ね」

 なるほど。


 なあ、千種。

「ん?」

 午前中にすることないんだけど。

「春休みだから宿題もないしねー…。ねえ」

 千種はおかしなことを言い出した。

 あたしたちも入学式に参加しようよ、と。


 ・・・

 別に俺は学校大好きなタイプじゃない。

 来なくて良いって言われてるのに行きたいわけじゃ。

「どっちにしろ午後は行くんだから、ね。それに…お弁当作っちゃった」

 ああ…。それが理由なのね。


「それにね、あなた一人で行かせて()()女の子と知り合う危険がありそうじゃない」

 …まっ確かに出会い運強いしな、俺は。

「女難だけどね」

 一年前は女運最悪だった。

「本気で怒るわよ」


 一年前の夜、目の前の女はあの家の前で一人俺を待っていた。10年の思いを抱いて。


 ・・・

「で、来たのはいいけど…どうする?」

「お昼にはまだ早いし…」

 出かける前に朝食だった。

「新入生を見に行こうか?」

 悪くない千種の提案。


 と言うわけでやって来ました、集会所の前。

 もう少しすると桜が咲いて、しかも休憩できるスペースもあるんだよな。あんまり知らないけど大学のキャンパスっぽいつくり。

 日も当たって気持ち良さそうだ。

「んーいい気持ち」

 日光の下で見る千種は神々しくさえある。

 まあ、名実ともに女神様なわけで…。


「どいてって言ってるんだけど」

 激しい罵声が聞こえてきた。

「ねえ、あの声」

 聞こえないふりしたかったんだが…。

「だから!」

 エキセントリックな性格だがあそこまで荒々しい声を出す美也子でなかったはずだ。


「いってらっしゃい」

 仕方ない…。


 いやいや声のする方に行くと、新入生の人混みにぽっかりと穴が空き…。

 あ、いたいた。

 えーと、由麻ちゃんをかばってるっぽいな。


「どうした、美也子」

「あ、兄さん」

「いとこだろうが」

「対して変わんないでしょ」

「そんで?」

「由麻ちゃんをナンパしようとしたから」


 長身の新入生に向く。

「ナンパ?」

「ただ連絡先を…」

 まあ立派なナンパだな。入学式当日に美也子でなくシルバーアッシュの橋本由麻ちゃんを見初めるとか、なかなか見所のある…

「なんで感心してるの?」

 美也子の正当なツッコミ。


 一応警告しとくか…と思った矢先に

「なにやってんだサトシ」

「あっ五明くん」

 ああ、中学の野球県大会優勝チームの四番で投手の五明寛くんじゃん。

「なんか説明長いですね」

 いろいろ必要でな。そんで知り合い?

「一応。あとでしめときますよ」

 五明くん怖い。

「勘弁してください、早名先輩」

 五明と問題野郎(ばかもの)の力関係はよく分かった。そして五明が先輩とへりくだったのだから、それ以上俺がすることもないだろう。


「そこの美人とかなりの美人、悪かったな」

 その違いどこよ。かなりって?

「シルバーの」

 あれ?美也子を指差すと

「美人」

 由麻ちゃんを指差すと

「かなりの美人」

 あ、五明ってなんかいろいろずれてるやつなんだ。こいつもめんどくさいリストに載せておこう。


「なんか人生でも指折りの失礼を受けてる気がするんだけど…先輩」

 気にすんな。今は多様化社会だからな。


 五明のところに市川瞬と後藤勇人がやって来た。ついでに早名組の児島くん、一条綾人と菅陽凪も。

「なにしてるんですか?早名先輩」

「五明くんにおめでとうって」

「挨拶ならまずうちらに…」


「幸平さーん」

 三馬鹿までやって来やがった。

「ようおまえら、おめでとう」

 五明が気づく。

「ロゼ太郎とブートキャリパーだよな」

「誰だ、おまえ?」

「○○中の…」

「あぁ、優勝メンバーが来るっておまえらか。悪いが名前は知らん」

「なんでおまえらが高高(ここ)に?」

「地元だから」

「マジか…。噂聞かないから東京あたりの名門へ行ったとばかり思ってたよ」

「残念か?」

「いやいきなり強くなりそうだな、ここ」

「そんでそこの…」

 五明くんは光太郎を見てロゼ太郎に聞く。

「あ…光太郎?早名先輩の弟分だ」

「あの早名先輩の!?」

 俺はそんなすごい人じゃないぞ。ロゼ太郎は続けて

「光太郎は投手としてなら俺らの学年で一番、打撃は…俺と同じくらいか」

「嘘だろ、おまえと?…なんでそんなやつがここに…」

「…そうやって何の因果か…えーと1、2…へえちょうど9人か」


 ・・・

 待つのに飽きたのか千種が自分からやって来た。

「美也子ちゃん大丈夫だった?」

「うん、姉さん」

 こんな美人が姉さんと慕う人!

 三人衆は恐れ入ったようだった。

「そう、俺たちこそ早名組」

「早名組…」

「早名千種組だ」

 デデーンと児島以下三人組。

「…いや、早名幸平組じゃないの?」

「まさか」

 と児島くんは笑う。

「一番強い人の名前に決まってるじゃないですか」

 この三人組は…!


「下の名前の組だと恐れ多くて」

「おまえら破門」

「いや別に幸平さんは…」

 どうしようと千種に目をやると、千種はため息を吐き

「じゃあ今から幸平は組長代理ね」

 と宣言したのだった。

 そして…早名千種組は俺を含めて10人となった。


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