喪失のストレス
思えば…授業中の居眠りは予兆ではなかったのか。浅い眠りとも言えないような休息しか取れないことをあたしが気づかなかったこと…何が嫁だ。あたしは猛烈に…。
馬鹿だ。
そして…。
悔恨は後にしよう。
できることは?
誰に相談する?
半覚醒とも微睡みともつかないこの人を、どうやって人の営みに戻せるだろう。
この人はあたしの髪を撫でる。
愛おしいとその手が伝えてくる。
あたしは知ってる。
普段脚だなんだと言っているが、この人は髪を、あたしのこの少し茶色のような薄い色の、腰まで届く…あなたを想って伸ばした髪を…まるであたし自身のように愛してくれていると。
「苦しくない?」
「どうした?」
その目はあたしを捉え、あなたの瞳の中にはあたししか映っていない。
「いつから眠れないの?」
何を言っているんだとばかりに不思議な顔をする。
質問を変えよう。
「今夜はいつもみたいに寝れたの?」
あなたは少し思い出す仕種をして、
「いつもみたい?変わらなかったと思うよ」
あなたの手を取る。
「ねえ、自分の鼓動が早いと思わない?」
ああ…とあなたは心臓のあたりに手をやる。
「以前からだよ」
「いつ頃からとか覚えてる?」
あたしが心配していることに気付いたのだろう。
「毎晩こんな感じだから…大丈夫だよ」
大丈夫なわけない。
「ねえ…いつから…教えて…」
あたしの必死のお願いに再び考えこむ素振りをして
「両親の葬儀の後かな…」
支えであったろう、折井若葉ちゃんが引っ越した後だ。間違いない。
今さらその葬儀の夜に彼女がいてくれたことに感謝する。
葉さんは…愛情表現が不器用な人だ。おそらく表現が難しいほどに弟を大切に思っているはずだが、年齢差と住む場所が違ったばかりに、幼かったあなたが葉さんの愛情を理解できていただろうか。
ひとまずの結論を出そう。間違いはいつでも直せる。
おそらくあなたは、喪失のストレスで今も苦しんでいる。
あたしではすべての傷をふさぐことはできない。
葉さんにいただいた色紙の言葉。
「傷口をふさぐ絆創膏になりたい」
それでも。
何度でも繰り返す。
あたしはあなたのためだけに生きている。




