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高良フェノミナン2nd  作者: カラー
第1章:春の頃、人が来たりて為すことぞ

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10/16

一年の新人

 なんとなく動物園の檻の中に入った気分だ。

 結菜と二人、水泳部に興味を持つ数十人の前に立つ。

「結菜…どんな気分だ?」

 驚いたように俺を見つめる結菜。

「結菜!」

 千種が結菜に向かってなにかを合図する。

 たぶん意図が通じたのだろう。

「まさか幸平が名前呼ぶなんてね」

「おまえだって…呼び捨てだろ」

 大杉を美樹と呼んでいたが、結菜には俺は頑なに…橋本と呼んでいた、そのこだわりがなくなっていた。

「一年経ってまさかあなたから名前呼ばれるなんて、思わなかったわ」

「嫌なら戻すけど」

「…ううん…それでいい」


「また深く考えなきゃ分かんないけど、たぶん同じスタート台に立ったわけだ」

「もうあなたを追いかけてるわけじゃないのよ」

「だから…だな」

「ええ、それでたぶん…いいはずよ」


 何人かガタイの良さげな男女が近づいてくる。

 えーと…男が4名、女が3名か。

 これは、多いのか?

 男たちは中川、仁田、根津、野村と名乗った。

 とりあえずよろしくな。

 そして女性陣は…前田、武藤、本村。

「えっとみなさんマジの方?」


 どんな聞き方だよ、と思うがまあコーチの言葉もあって、この場に来た理由は改めて聞くまでもないだろう。

 素直に全員が頷く。

「はじめまして。経験者の方ばかりだと思うから簡潔に自己紹介するわね。橋本三姉妹の真ん中、結菜です。背泳ぎです」

「そんで俺が甲子園で…」

「幸平、まじめにやれよ」

 いつの間に、コーチ。


「男子は今年から発足だから、おまえたちが一期生だ。俺はまあ…案内係と助っ人だな。早名幸平。よろしく」


「この面子は入学前から聞いていてな。俺が相原浩一だ。みんな頑張ろう」

 はいっと非常に良い返事。

 うむ。初心忘るべから…。

「幸平、あなた初心あったの?」

 うるさい嫁まで口をはさんできた。

 結菜が千種を紹介する。

「なかよし水泳会のマネージャー、早名千種さん。すごく有能なの。それで…」

「幸平の嫁」

 また言い切ったな。


「遠縁の親戚同士だから同じ名字。ちなみに籍はまだだけど、結納交わしたほんとに夫婦よ」

 結菜があっさりと言う。

 高校生で…と誰かが驚いたように口に出す。

「かなりレアケースなんだけどね、この二人」


 そのうち気にならなくなるから、と結菜はまとめ即席の挨拶会は終了した。

 一年生の面々はまず夫婦が良く分からないまま、部屋を後にする。

「あんな感じで良かったのか?」

 橋本に尋ねてみたが

「大丈夫でしょ」

 とお気楽な答え。

 とりあえず、俺たちもよろしくな。

「ええ」


 後でふと気になったんだが、美也子と由麻ちゃんの姿が見えなかったな。なかよし水泳会だから不参加だったのだろうか。



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