第4話:王都の陰影
王都の空は灰色がかった朝に包まれていた。
港町の光とは違う、石造りの城壁が重くのしかかる景色を見下ろしながら、私は密かに息を整える。昨日、王都の密室で確認した薬材の配置と使節団の症状の関連は、ますます複雑な様相を呈していた。
「雫さん、報告書を確認してほしい」
麟が差し出したのは、宮廷内の医務官による症例記録だった。使節団の一部が再び症状を訴えている。だが、今回の症状は微妙に変化している。赤い結晶の摂取量や順序が異なるせいか、発熱のタイミングや倦怠感の進行に差が出ていた。
私は資料をじっと見つめ、頭の中で組み合わせを試す。
「計算通り……いや、港の時とは少し異なる。誰かが介入した形跡があります」
麟が目を細める。
「王都の医術者……もしくは権力者の意図が介在している可能性か」
「はい。単なる実験ではなく、王都の誰かがこの状況を望んでいるのです」
私は薬箱を手元に置き、再び成分の順序と微量の差異を思い浮かべる。
午後、私は宮廷内の庭園で待ち合わせをした。
そこに現れたのは、港町で匿われた古い処方書を知る、元王宮侍医の老女だった。彼女の存在は秘密であり、私だけが知っている。
「雫……この処方書の一部が、今の事件に関わっている」
老女はそう言い、薄い紙の端に記された古い文字を指差した。
私は息を呑む。港町で確認した薬材と王都の密室で使用された薬材、その組み合わせが、失われた処方書と完全に一致している。
「つまり、誰かが意図的に港町と王都の両方で調合を再現したのね」
老女は頷いた。
「そう。しかも、この処方書は王都での権力闘争の駒にされる危険がある」
夕方、麟とともに王都の屋敷を回り、事件関係者の動きを確認した。
官吏や宮廷医師、商人たち……それぞれが微妙に薬の扱い方を知る立場にある。中には、港町から王都へ運ばれた薬材の管理を担当していた者もいる。
「これだけの知識を持った者が複数……計画的です。偶然ではありません」
麟が低く呟く。
「港町の事件は単なる前哨戦だった……」
私は微かに眉をひそめた。港町の事件で得た観察力が、王都の権力者たちの策略を読み解く鍵になる。
夜、宿屋の小窓から見える王都の街灯が、石畳に揺れる光を落としていた。
薬箱を開き、昨日と同じ成分を並べながら、私は思う。
港町と王都、二つの都市を繋ぐ陰謀の中心には、必ず“誰かの意図”がある。
港町で倒れた使節団の症状、王都の密室事件、そして古い処方書……全ては線で繋がっている。
「明日、核心に迫ります」
私は独り言のように呟き、筆を取り、観察結果を整理した。
港町での小さな事件は、王都での大きな陰謀の序章に過ぎなかった。
そして、港の薬師娘――私――は、この陰影の中で薬学と推理を武器に、真実を追い続ける。




