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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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微かな真実と闇【7】


「……まさか、また?」


リーグの呟きにスティリアの身体がビクリと跳ねた。そして両手を握りリーグをキッと見据える。


「わ、私は必死に止めたんですよ! 最近は大人しくしていらしたのに……っ。今日、ふと目を離した一瞬の隙をついて……」


「脱走したと?」


涙を溜めた瞳でコクコクと頷きスティリアは顔を両手で覆う。


「追いかけようとしたら大量の犬が教会に入ってきますし、さらに神父が滞納した店の方々からの督促が届きますし。もう、対応するのに、私必死で……っ」


嗚咽を漏らしながら話すスティリアにリーグを始めリテア達に同情の気持ちが沸いた。


話が悲惨過ぎてかなり気の毒になってくる。

そんな目にあいながらも、笑顔を絶やさずに巡礼者や信者を招き入れなければならない。精神的にもかなりきつかっただろう。


「少しは自重してるかと思ったけど、全然懲りてないんだね。あの人は」


深々とため息をついたリーグにリテアは眉を潜め口を開いた。


「ねぇ。ここの神父ってどんな人物なのよ」


「何、気になるの?」


「気になるわよ。神父とあんた知り合いみたいだし? その上、そいつはかなりの変わり者みたいだしね」


アンタと同じで。

嫌味を含んだ言葉にリーグは軽やかに笑った。


「うーん、なんでそこに私が入るのかがわからないんだが」


「アンタの性格、見たら誰でもそう思うわよ」


うんざりといった風に息をついたリテアにリーグは失礼だなぁ、とぼやく。それをジーッと傍観していたキッシュは軽く尾を振ってホヴィスに飛び乗った。


≪そういえばオイラ達、なんで教会に寄ったんだっけ?≫


「……さあな」


まるで興味がないと言うかのようにホヴィスは教会の壁に寄りかかり、消えかけていた煙草を握り潰す。


「あいつの気まぐれに付き合わされただけじゃねーのか?」


≪そうかも≫


リーグは掴みどころがなく、いつも笑顔でいる。何を考えているのかすら経験豊富なホヴィスさえ分からないと言うのだから相当なやり手だろう。そんな彼が案内した教会。何かあるのかと思っていたが。


待っていたのは神父不在の大聖堂。出迎えたシスターは今や号泣の嵐に埋もれていた。


≪何なんだろ。この教会……≫


キッシュがそう呟いてホヴィスの頭に座り込んだ時だった。バタン!!と聖堂の扉が勢い良く開き誰かが室内に入ってくる。


「おやおや、客人ですか。暫く一休みしようと思ってたんですけどねぇ」


長い黒髪を揺らし男性は静かに笑った。突然、響いた声に皆の動きが止まる。そして視線を聖堂入り口にいる男性へと向けた。


「ああぁ!! 神父ぅぅ!!」


先程まで泣き崩れていたスティリアは勢いよく立ち上がると、神父の元へと駆け寄って行く。


「今まで何処に行ってらしたんですか! 色々と、ほんと色々と!! 大変だったんですよ!?」


瞳に涙を溜めて訴えるスティリアに男性はうんうんと頷いた。


「すみませんねぇ。次から気をつけますよ、はい」


申し訳なさそうな表情だが言葉が完全に棒読みだ。スティリアはさらに声を上げる。


「神父! 貴方、ご自分の立場を理解しておいでですか!? この聖堂の最高責任者なんですよ!!」


「んー、そう言われても好きで就いた職業ではありませんからね」


にこにこと笑顔でそう言ってスティリアの肩を叩く。それにスティリアはショックを受けたのか、再び泣き崩れてしまった。それを横目に男性は目線を前へと向ける。


「……男1人、少女1人。それに小猿に……。ははっ……、珍しい客までいるとはねぇ」


男性の瞳はまっすぐにリーグを捉えていた。


「久しぶりですね。リアス」


「その名で呼ばないでと言っているはずだけどね。……義兄さん」


リーグが発した言葉に何とも言えない沈黙が周囲を満たす。


「……義兄さん?」


リテアは思わず呟いてリーグと男性を交互に見た。見た目はまったく似てないし、服装だって軍人と聖職者だ。第一、あのリーグに兄がいるとは考えたくもない。そう思わずにはいられなかった。


だが、リテアは二人が兄弟という事実をすぐに認めることになる。


リーグは深く息を吐いて神父をじっと見据えた。


「ま、挨拶はともかく。何故、聖堂から出ていたのかな? 貴方には軟禁令が出され、安易に外出出来ないはず、だよね?」


棘のあるリーグの言葉に神父はニコリと隙のない笑顔で応える。


「あれ、そうでしたかね。色々と忘れやすい性格ですから、気にも止めてませんでしたが。……何か問題でも?」


にこにこと笑顔で繰り出される会話という名の攻防戦。それを目にしてリテアは納得した。

……この2人、絶対兄弟だ。間違いない。


黒さ全開のリーグにまともに抵抗出来る人など早々いない。なのに、この神父は。


リテアは軽く息を吐いて腕を組んだ。


「つーかさ、アタシ達、完璧に無視されてない?」


……確かに。リテアの呟きにキッシュもホヴィスも激しく同意した。グチグチと繰り返される2人のやり取りに、リテアの堪忍袋の緒が軽く切れた。


「だぁぁぁっ!! あんた達、いい加減にしなさいよ! いつまでアタシらを無視しとくの!?」


突然響いた大声に、リーグと神父は思わず口をつぐむ。だが、2人は懲りた風ではなくどこか清々しい。


「凄い声だねぇ。何? あの子、君の部下ですか?」


「違う違う。下僕だよ」


にこやかに笑顔でそう言い切ったリーグにリテアはダンッ!!と足を踏み鳴らした。


「誰が! 下僕よ!?」


「あれ? 違ったっけ? 前に部下じゃないって言ってたから、てっきり下僕になりたいのかと」


「誰が、あんたの下僕になるかぁぁぁ!!」


リテアの怒号が聖堂に響く。キーンと耳に響き渡る高音にキッシュは耳を塞いだ。


≪あー、リテアの馬鹿……≫


止めるどころか、自分がリーグと口論しているではないか。これでは話はますます進まない。


≪旦那ぁ、どうしよう?≫


「……ほっとけ」


我関せずというようにホヴィスは片手を振った。


≪でもぉ、≫


早く止めないと、ずっと此処に居なくてはならない。早く何とかしてアサト達を見つけなければならないのに。キッシュの指摘にホヴィスは深く息を吐いた。ホヴィスは何気なく、銃を手に持ちリテア達に向けて軽く発泡する。


ガイン!!と鳴り響いた音。それはリテアとリーグの間をすり抜け聖堂の壁にぶち当たる。真横をかすった銃弾の風を感じて、リテアはサァッと青ざめた。


「ちょ、オッサン! アンタ、いきなり何すんのよ! 殺す気!?」


「てめぇらが揉めまくってるからだろうが。話が進まないと苛ついていたくせに、自分まで参加してどうすんだ」


「う……」


ホヴィスの指摘にリテアは言葉を詰まらせる。そして気まずそうにプイッと顔を背けた。対するリーグは笑顔でホヴィスを見つめている。その視線にホヴィスは眉を寄せた。


「何だ?」


「いや、何、聖堂に向かって銃弾ぶっ放すなんて大胆なことするなぁと、感心していただけだよ」


にこにこと笑顔を振り巻くリーグをホヴィスは微かに睨む。


「本心じゃねぇだろ、それは」


「失礼な。本気で感心してるのに」


「下手な嘘は止めろ、短刀直入に聞く。……オレ達に何をさせるつもりだ?」


自分を鋭く射抜く、ホヴィスの瞳にリーグは目を瞬かせる。暫くして、その笑顔を崩し息を吐いた。


「……別に、取って食おうとはしてないから。安心してくれていい。ちょっとした実験をしたいだけだから」


ますます眉を寄せるホヴィスにリーグは意味ありげな笑みを浮かべる。


「ね、フレイ・アルヴェスト神父」


「はい?」


何処か遠くを見つめていた神父ーーフレイはリーグの視線とホヴィス達を見て何かを納得したように頷いた。


「あぁ、なるほどね。それで私の所に連れてきたんですか」


「うん、そう。宜しく頼むよ」


胡散臭い笑顔が二つ並び、何とも言えない空気がその場を包む。


一旦、怒りを抑えたリテアがふとフレイの後ろに何かがいるのを感じ取り目を凝らす。そこにいたのは若い男性。何故か血を吐いて倒れているロランだった。


「え、」


リテアが嫌な予感を感じ、視線を上に上げると見事な笑顔でフレイがリテアの肩を叩く。


「大丈夫ですよ。彼のように酷くはしませんから。一瞬で終わりますし」


「えっ? いや、あの、ちょ、」


リテアとホヴィスは有無を言わさずにフレイに腕を掴まれ、奥にと連れて行かれていく。

キッシュは逃れられると思ったがそうはいかず、しっかりとリーグに捕らえられた。


≪……一体、何する気ー?≫


「さあね」








「いやぁぁぁぁ!!?」


暫くして、奥の部屋からリテアの悲鳴が大きく響いた。






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