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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第1章 【璃球編】
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異世界の訪問者【2】



プライドの高い男性軍人は、それが男性の罠だと気付きもせず、周りの軍人達へ次々を命令下す。


ただ、先程まで使用していた銃は使い物にならない。腰に常備していた剣を使って戦うしか術は残されていなかった。


銃と剣。どう考えても軍人達の方が分が悪い。接近戦になれば剣が有利だろうが、生憎、長身の男性は高層ビルの屋上にいる。

遠距離ということで銃の独壇場になっていた。


「凄い……」


拘束から解放されたアサトは、身体を起こし呆然と呟いた。


まるで軍人達を玩具か何かのようにあしらい、戦う長身の男性。正確な射的。隙を見せない素早い動き。それはもはや常人の行動ではない。戦い慣れている強者のそれだった。


喧嘩とか殺し合いには無縁なアサトだが、何となく分かる。この人は、この場に居る誰よりも強い。


長身の男性の戦いを暫く傍観していたアサトだったが、ある事を思い出し、周囲を見渡していく。

アサトの視界に映ったのは、壁沿いに横たわったままの小さな影、小猿が地面に倒れている姿だった。


アサトは右足に力を入れ立ち上がろうとする。だが、右足に力を入れた途端、アサトの全身に凄まじい激痛が走った。


「……ぐ、ぁっ!?」


右足は銃弾を受け大怪我を負っていた。安易に動かせる状態ではない。ポタポタと地面に滴り落ちる血を見て、アサトは表情を歪めた。


「……ち、くしょっ……」


凄まじい痛みだ。だが、アサトは歯を喰い縛り、その場から立ち上がる。油断すれば、直ぐ様突っ伏してしまいそうだが立ち止まっている暇はなかった。

軍人達の目は皆、長身の男性に向いている。逃げるには絶好のチャンスと言っていい。


アサトは右足に負担をかけないよう足を引き摺って、小猿の元へと辿り着く。そして、血に染まった両手をズボンで拭い、小猿を抱き上げた。


「だ、大丈夫か……?」


アサトの呼び掛けにふるりと身体を震わせ、小猿は小さく鳴いた。そして、アサトをじっと見据え何かを探るように、その大きな瞳を細める。


≪……鍵を……≫


「え?」


先程と同じように頭へ直接言葉が響く。それは余りに小さい声だった為、アサトが怪訝そうに首を捻っていると、小猿は痺れを切らしたのか立ち上がり、アサトの頬を叩いた。


小さいながらもそれは、良い音を鳴らしアサトの頬に見事な紅葉の葉を刻む。


「いたぁっ!?」


≪ボケッとしてないで、鍵を渡して!≫


「か、鍵?」


アサトは首を横に傾けた。鍵、鍵、鍵と、呟きながら記憶を辿っていくものの、いまいちピンとこない。一体、何の事だろうか。


≪さっき、オイラが渡した鍵だよ。早く!≫


「……ああ!」


吠えるように言葉を発した小猿に、アサトは頷きを返すとズボンのポケットに手を突っ込んだ。指に引っ掛けるようにして青色に輝く不思議なその鍵を取り出す。


≪ありがと!≫


「え? あ、ちょっと!」


小猿はそれをアサトから瞬時に奪うと、アサトの腕を擦り抜け軍人達のいる人垣へ走って行く。


突然の小猿の登場に軍人達は騒めき、小猿を追い払おうとする。そんな中小猿を見て、あの男性軍人は口端を吊り上げた。


男性軍人は小猿の進路を断つように短刀を向け投げる。短刀は小猿には当たらなかったが、小猿は短刀を避ける為その動きを止めた。

それを見計らい男性軍人は小猿を摘み上げる。


「おい! 貴様! そこから降りて来い!! この小猿がどうなっても知らないぞ!」


優位に立ったと笑みを浮かべる男性軍人を一瞥し、ビルの上高くに佇む長身の男はその行動を鼻で笑った。


「痛い目見るのはそっちだぜ、軍人サンよ。――やれ、()()()()


長身の男性がパチン、と指を鳴らすと同時に小猿の身体が輝き出す。次の瞬間、周囲は白煙に包まれた。


男性軍人は煙にむせながら周囲を見渡すが、視界は最悪と言える状態で何も見えない。


「ごほ……っ!? 一体、これは何事だ!」


「さあ、何だろうねー?」


突然、隣から響いてきた声に男性軍人は驚いて後退る。其処には見慣れない1人の少年が笑みを浮かべて立っていた。


橙色の瞳、茶髪に黒のメッシュが入っている珍しい髪色で、ぶかぶかのズボンを履いている。年は10歳くらいだろうか。


「貴様、な、何者だ!? 何時から、其処に居た!」


「いつからって……。さっきから居たんだけど?」


少年は男性軍人の怒鳴り声に眉を寄せ、頭を軽く掻く。そして、首元のチョーカーを男性軍人に見せ付けるように摘んだ。


「ねぇねぇ、これに見覚えなーい?」


首元に巻かれた赤いチョーカー。風が吹くとチョーカーに付いた鈴がチリン、と揺れる。


男性軍人はハッとして自分の手元を見た。先程まで捕まえていた小猿の姿がない。確か、あの小猿も同じような赤いチョーカーを付けていなかったか。

少年は男性軍人の疑問を肯定するかのように、笑みを浮かべる。疑問は直ぐに確信へと変わった。


「まさか、貴様は……!!」


「そのまさかだよー」


少年は片足を地面へ、利き手である右手を胸元に当て、笑みを携えたまま男性軍人を見据える。


「オイラはキッシュ。ディバスリーから造られた、DAM(ダァム)の1人さ」


「DAM、だと? 何だ、それは」


「おやぁ? DAMを知らないー? アンタ、ディバスリーは知ってる癖にDAMを知らないとは、下っ端軍人?」


人を馬鹿にしたように笑みを浮かべ続けるキッシュを見て、怒り任せに男性軍人は腕を払った。


「ば、馬鹿にするな! 私はこれでも士官の地位にいるんだぞ!?」


「あっはっは、そんなにムキになんなくても。ま、そんなの大したことじゃないし」


キッシュは徐に右手で拳を作ると、それをもう片方の掌に叩きつける。


「さーて、挨拶はここまでにして始めようか。旦那からお許しも貰ってるしねぇ」


「何を――!?」


男性軍人の言葉を遮るようにキッシュは軽やかに跳躍した。標的は男性軍人の周囲に佇む名も知らない軍人達。


一旦、地面に着地し、向きを変えると近くにいた軍人を、目にも止まらぬ早さで蹴り飛ばしていく。武器で攻撃してくる軍人にも怯まず、キッシュは自ら近付き倒していった。


再びキッシュが地に降りた時、其処には横たわる複数の軍人達で溢れ返っていた。只1人残された男性軍人は信じられないとばかりに、頭を振った。


「貴様、一体何をした……!?」


「何って、加減無くぶん殴って気絶させただけだけど? まぁ、アンタ等とオイラじゃ実力が違いすぎるからねー。仕方ないよ。さてと、」


キッシュは男性軍人を鋭く見据える。笑顔を携えているものの、その瞳は笑っていなかった。


それに気付いた男性軍人は軍人らしからぬ悲鳴を上げ、後方へと後退る。

だが、そんな悪あがきがキッシュに通用する筈もなく、感情のまま男性軍人に蹴りを喰らわせようとした時、頭上から制止する声が響いた。


「――待て、キッシュ」


その声にキッシュは、男性軍人の頭上寸前で足の動きを止めた。キッシュは小さく息を吐くと足を地面へ降ろし、長身の男性のいる高層ビルを見上げる。


「なあに、旦那。コイツに何か聞きたいことでもー?」


「あぁ。ちょっと、な」


そう言うと、長身の男性は長銃を手に携えたまま、ビルから躊躇いもなく飛び降りた。

今まで声でしか存在が分からなかった男性の姿が、月明かりに照らされ露になる。


黒に近い深緑の髪。瞳を隠すように掛けられたサングラス。軍服のような服の上に漆黒のロングコートを着ている。

時折、口に咥えた煙草から煙を吐き出すその姿が、何とも近寄りがたい印象を与えていた。


高いビルの上から飛び降りたというのに、男性は平然と地面に降り立った。どうやらキッシュと同じく、普通の人間と勝手が違うようだ。


長身の男性は男性軍人を一瞥した後、キッシュへと目を移す。視線を受けたキッシュは頷き、男性軍人の腕を掴み後ろへと強く捻った。


「いっ、いだだだだ!?」


「痛いよねー? 止めて欲しかったら、こっちの質問に素直に答えてねー」


「し、質問だとっ?」


「ああ」


長身の男性は口に咥えていた煙草を手に持ち直し、男性軍人を真っ直ぐに見据える。


「まどろっこしいのは嫌いでね、単刀直入に聞く。お前の所の隊に……いや、軍上層部に()()()と呼ばれる人物がいないか? もしくは()()()()()()と呼ばれる男が」


突然投げ掛けられた質問に、男性軍人は胡乱げな目を長身の男性に向けた。だが、直ぐに襲ってくる背中に回された腕の激しい痛みを思い出し、記憶を辿っていく。

何か考えるような素振りを見せた後、男性軍人は首を横に振った。


「……いや、知らん」


「その顔は、知ってる風だねー? てやっ!」


「い、だだだだぁぁぁ!!??」


男性軍人の関節が本来曲がらない方へと曲がっていく。ボキボキと、耳を塞ぎたくような音に、傍観に徹していたアサトは思わず顔を引き攣らせた。


容赦のないキッシュの攻撃に男性軍人は地面を手で叩き、激痛を訴える。だが、与えられる力は更に加速するばかりで、緩む事は無い。

長身の男性は力を加え続けるキッシュを横目に、痛がる男性軍人の顔を覗き込み


「何か知っているなら、全て吐いた方が身の為だぞ。それとも」


そう言って持っていた銃を男性軍人の額にカツン、と突き付けた。


「銃弾を、何発か喰らわねぇと話せないか?」


感情を抑えた低い声と、額に当たる冷たい銃口。自分を見据えるサングラスの奥にある瞳には、優しさの欠片も残っていなかった。


男性軍人の顔は瞬く間に青くなり、男性軍人は首を左右に勢い良く振ると重い口を開く。


「そそそ、そんな風に呼ばれる奴等には会ったことはない! 名だけは聞いた事ある程度だ!  ただ、その奴等と会話をしていた少年なら知っている!!」


「……少年、だと?」


反芻する青年に同意を示すように、男性軍人は首を縦に振ると早口で捲し立てる。


「あ、ああ!! 黒髪に青い瞳をした少年だ。その少年から、ディバスリーの事も聞いた! それさえあれば、この荒廃し、自然を失った地上を救えると!!」


「ふーん、なるほどねぇ」


男性軍人の言葉にキッシュは薄く笑い、握り締めていた拳に力を入れた。男性軍人の言う少年に心当たりがあったからだ。


「嘘は、言っていないよねー?」


「言っていない! 本当の話だ! 後は何も知らない!! だから、もう離してくれ!!」


軍人として誇りは何処にいったのか、恐怖に顔を引き吊らせ、命乞いをする男性軍人にキッシュは呆れたような視線を向けた。


「はいはい、離してはあげるよ。……はい」


キッシュは縛り続けていた男性軍人の両腕を漸く離す。やっと解放されたと男性軍人が息を吐いた瞬間、キッシュの蹴りが男性軍人の顔面に直撃した。呆気なく倒れた男性軍人へ向けて、キッシュは舌を出す。


「誰も見逃すとは言ってないしねっ。オイラを傷つけた罪は重いんだよ!」


一方、長身の男性は無様に地面に伏した男性軍人を一瞥し、手に持っていた煙草を口に戻す。その表情は何処か苛立ちが滲んでいた。


「キッシュ」


自分を呼ぶ声にキッシュは顔を上げた。キッシュの目が自分に向いた事を確認し、長身の男性は周囲に倒れている軍人達を意味有りげに指差す。


「コイツらの記憶を適当に削除しとけ。じゃねぇと、後々面倒なことになりそうだ」


男性の思いがけない言葉に、キッシュは嫌そうな表情を見せ首を横に傾けた。


「旦那ぁ。適当に消すんなら、別に消さなくても良いんじゃない? 面倒臭いし――」


キッシュの言葉はそれ以上続かなかった。銃弾がキッシュの真横目掛けて飛んできたからである。


キッシュの横を掠めた銃弾は、少しでもズレていたら片耳が間違いなく吹っ飛んでいただろう。銃口から出る煙を息で吹き消し、長身の男性はキッシュを見据えた。


「お前も一度、記憶を飛ばしてくるか? 銃弾はたっぷりある。遠慮しなくていいぞ」


「さてと! さっさとやっちゃいますかー! 旦那、待ってて下さいねー」


男性の言葉に嘘はない。逆らえば地に沈められると悟ったキッシュは、先程の否定的な態度を一変させ、駆け足で軍人達の方へ向かって行った。

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