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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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光者の資格【6】

仕留めるかのように、じんわりと近づいてくるノエルを見てサリエットは深く息を吐きノエルを見据えた。


「貴方達、相変わらず最悪な趣味してるわね……」


この状況下で笑っていられるなんて普通の神経じゃない。血を見て喜ぶなんて尚更よ。余程殺すことに慣れているのね。そう言うサリエットにノエルは微笑みサリエットへ杖をビッと向ける。


「あは、褒めてくれてありがとう。でも、あたしが欲しいのはそんな言葉じゃないしぃ。さ! 仲間になるか、能力を渡して死ぬか。選んで?」


「どちらも、選ばない。そう前に伝えたはずよ。貴方達の思い通りにはさせないわ。絶対に!」


サリエットの言葉にノエルから笑みが消えた。杖をサリエットの喉元に当てる。サリエットは微かに目を開いた。


「……どうして、そこまで強情なのかなぁ? せっかくあたしが丁寧に聞いてあげてるのに。そんなに死にたいの?」


「ッぁ……!?」


杖を喉にさらに押し当てられサリエットは息ができなくなる。


(……ヤバい! このままだと確実に喉を潰されてしまう。何とかしなければ……!!)


だが苦しさと呼吸が正常にできないせいか、上手く頭が回らない。剣を握る手から力が抜ける。それを見てノエルは歪んだ楽しげな笑みを浮かべ更に力を加える。


「ッ、」


「ほーら、死んじゃえ!」


もう駄目だ、とサリエットの意識が完全に途切れようとしたその時、だった。


『清らかなる流水よ、仇なす者を包み込め!』


大量の水がノエルに叩き浸けられる。その水圧でノエルの杖が押し流されサリエットは喉元は解放された。


「ッ、はっ……! うぇっ、げほ……!!」


サリエットは激しく咳き込み喉を押さえつつ息を吸い込む。そして呼吸を整え前を見た。そこには。


「……ヴァーチェ!?」


青い髪をなびかせノエルと対峙するヴァーチェの姿があった。ヴァーチェの術の影響か周りには雨が降り続いている。ヴァーチェは微かに目を細め息を吐いた。


『誰かと思えば、貴女だったんですね。ノエル』


ノエルもヴァーチェの存在に対してさして驚いた風でもなく、にこにこと状況を楽しむかのように笑っていた。


「むぅ。その言い方酷くなぁい? かつての仲間に向かって、その言い方はないんじゃないかな。ヴァーチェちゃん」


水滴を払い立ち上がりノエルはヴァーチェを見据える。


「聞いたよー? まだ無駄な悪あがきやってるみたいなんだねぇ。素直に従った方が楽なのにぃ」


『余計なお世話ですよ。私達は何があろうと、マスターの意思を果たすんです。そう決めたんですから。たとえ、何があろうとも』


ノエルはふぅん…と頷いて結んだ髪をクルクルといじる。


「ま、別にあたしはヴァーチェちゃんが敵でも構わないし? こうやって楽しめる戦いが出来たりするもん」


二・三歩下がりながらクルンと回りノエルは楽しげに笑った。ヴァーチェはそれに微かに眉を寄せながらも平静を装いながら話を続ける。


『ノエル。今回のことはイフォラッドの指示ですか?』


「うん。この世界を潰せって上から言われてるんだって。だからぁ、」


ふいに笑みを消しノエルは動き出す。それに反応したヴァーチェは床に落ちていた長剣でそれを阻んだ。


サリエットに叩きつけられるはずだった杖は長剣と交差する。ノエルは悔しげに舌打ちをしてヴァーチェを睨んだ。


「むぅ、邪魔よ! 退いて!」


『嫌です。これ以上、誰も狩らせません!!』


「だったら、……シン君!!」


ノエルの声に森の奥にいたシンがサリエットの背後へと回る。背中に携えていた大剣をサリエットめがけて振り下ろした。


「これで、あたし達の勝ちよ!」


『……それはどうでしょうか?』


「え?」


何かが擦れ激しく響いた音に二人は視線を横に向ける。降ろされた刃はサリエットに届かず宙で止まっていた。片刃の剣を両手に握り渾身の力でそれを受け止めたアサトによって。


「ッ! アサト、貴方……!」


驚くサリエットをチラリと見てアサトは視線をシンへと戻す。いきなり現れたアサトにシンは眉を微かに動かしただけだった。


「………あんた、適合者?」


「え? あ、まぁ、一応……」


「……ふぅん……」


シンは何かを探るようにアサトを見回して大剣を引いた。


「へ? うわっととッ!」


ぶつかっていた圧力が急に無くなりアサトは地面にずっこける。


「痛てて……」


「……ドジな奴」


そう呟いてシンは大剣を背中の鞘へと収めた。

顔をさすりながら立ち上がったアサトは目を瞬かせシンをジッと見る。


「あれ? 戦わないの?」


「戦いたいのか? ……売られた喧嘩なら買うけど?」


「いやいやいや! そう言ったんじゃなくて! 俺が言いたいのは……」


何で剣を収め退こうとしてるのかってことで。


「だって、さっきまでサリエットのこと殺す気だったのに」


不思議そうに尋ねるアサトにシンは息を吐く。


「別に。ただ……戦う気が無くなったから帰ろうかと思っただけだし」


「「……は?」」


シンの思いがけない言葉にアサトとサリエットは間抜けな声を出した。対するヴァーチェとノエルは深い息を吐く。


『……相変わらずなんですね。シンが気分屋なのは』


「あぁぁ! もう!! シン君の馬鹿ぁ!!」


ノエルは地団駄を踏みながら声を張り上げる。


「なんで勝手に止めちゃうのよぅ! きちんとやんなきゃ駄目でしょー!?」


ノエルの甲高い声にシンの耳元を押さえながら口を開く。


「仕方ないじゃん。やる気なくなったんだから。……じゃ、俺、先帰る」


「え!? ちょ、待っ、」


制止しようとするノエルを振り切ってシンはその場からかき消えた。シンに伸ばしかけたノエルの手が虚しく宙で止まる。


「……ッ、最悪!!」


いーっと唸ってからノエルはヴァーチェ達へ人差し指を向けた。


「こっ、今回は、仕方ないから見逃してあげる! 次はこうは行かないんだからっ!!」


良くある捨て台詞を吐き、水雨で濡れた髪を忌々しげに払いながらノエルも退いていった。




降り注いで雨が止み、辺りには静寂が戻る。アサトは安堵の息を吐いて力が抜けたようにその場に片膝をつく。


「アサト!」


慌ててサリエットが支えようとするが、アサトはそれを笑顔と手で制した。


「だ、大丈夫。ただ、ちょっと……体力使い果たしただけだから」


「使い果たしたって、どういうこと? 何があったの?」


「んーとね……」


『何者かが襲ってきた後、私達、地下水道に落ちたんですよ』


ヴァーチェは軽く微笑み身を屈める。そしてサリエットに視線を向けた。ヴァーチェの言葉に頷きながらサリエットがアサト達の姿をよく見てみると、服は泥だらけで身体や頬のあちこちに切り傷が出来ていた。


「痛々しいわね……」


『アサトは酔っていましたからね。なかなか本領が発揮出来ずに守りの攻撃しかできませんでしたから』


何とか敵を退け地下水道に落ちた後もアサトはまだ病んでいた。何とか脱出しようと上を見上げるが落ちてきたはずの穴は塞がっていて。脱出するのにかなりの時間を要してしまった。


「俺、満足に手伝えなかったからなぁ……ごめんね、ヴァーチェ」


『良いんですよ。結果的にはこうして、サリエットを無事助けられたんですから』


淡く笑みを浮かべるヴァーチェと苦笑を漏らすアサト。そんな2人を横目にサリエットの表情は曇っていた。


光術を使うヴァーチェ。そして適合者と呼ばれていたアサト。何よりもヴァーチェは干渉者と知り合いのようだった。


「ねぇ、二人とも……」


聞きたいことが山程あるんだけど?

サリエットの言葉にアサトとヴァーチェは顔を見合わせる。


「もう話すべきじゃないかな。ヴァーチェ」


『そうですね。これ以上隠していても意味ありませんしね』


一旦目を伏せてヴァーチェは心痛な表情を浮かべた。


『……これから話すことは貴女にとって酷なことかもしれません。それでも?』


「聞くわ。何も知らないままでいたくないもの。全てを解決させるにも情報は多くあった方が良いしね。それに……」


それに、多少のことでは私は動じないから。大丈夫。サリエットは乱れた前髪を軽く払い笑みを溢す。それにヴァーチェは表情を崩し笑顔で頷いた。


『では、お話しします。彼らの正体を。そして私達が何処から来たのかをーー』




ヴァーチェの口から紡がれた言葉。それはサリエットも理解するのに苦労する衝撃的なものだった。








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