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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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光者の資格【5】













同時刻ーー屋敷近隣の市街地。

サリエットはそこで市民に事情を説明し、協力を求めていた。此処の住民は何かと団結力が強い。協力を請えば素直に応じてくれる。


「サリエット嬢の頼みなら何だって聞くとも!」


「何よりダリア様のピンチとありゃ、俺達が動かにゃいかんだろ!!」


気合いの入った声を聞きサリエットはあはは…と苦笑を浮かべた。一先ず近隣の避難は彼らに任せておけば大丈夫だろう。一旦、屋敷に戻るべきか。それともロディカ軍の行方を少しでも追うべきか。自分としては行方を追い羽交い締めにして根掘り葉掘り聞きたいところなんだけども。


屋敷にはダリアやユゥイ、それにアサト達や知り合いが大勢いる。手伝わないなんて自分の性格が許さない。


「よし、そうと決まれば早く戻らなきゃ!」


くるりと向きを変え砂埃の舞う屋敷に足を伸ばした。その時、だった。


――…し……のくに……がないと……くれにな……


「ッ……!?」


何の前触れもなく直接頭に響いてきた声に全身の毛が逆立つ。サリエットはバッと顔を上げ周りを見渡すが、周りにいるのは急ぎ足で通り過ぎる住人達だけだった。


「何なの? 今の声は……」


風に混じって流れてきた声。聞き慣れたような知っている声質だった。何処かで聞いたような声なのだが、一体誰だったか……。

ふとサリエットの脳裏に淡い水色の髪の少女が浮かび上がる。


「そうだ、ヴァーチェだ!」


言葉に出してサリエットはハッとした。

そうだ。あの特徴的な発音。なまったような古語。ヴァーチェに間違いない。

しかし、なんでヴァーチェの声が頭に聞こえてきたのだろうか。確かヴァーチェとアサトはベランダにいた筈だ。


そう、考えながら首を傾げていると何かが崩れる音が響いた。


「屋敷が倒壊するぞー!」


「皆、急げ! 早く離れるんや!!」


「高台へ! 引火した! 巻き込まれるぞ!」


怒号にも似たその声にサリエットは眉を寄せ屋敷を見つめた。紅に染まる屋敷。あそこに戻れば全て分かるかもしれない。


屋敷へと続く道を確認してサリエットは高く跳躍する。近くの屋根に着地したサリエットを見て街の人々は声を上げた。


「サリエット!? どうするつもりなんや!」


「戻った方がいい。怪我をしてしまう!」


皆の心配を他所にサリエットは笑顔で手を振った。


「大丈夫よ。私、そんなに貧弱じゃないから」


サリエットは息を吐くと高く跳躍し、風に乗りながら屋敷に向かって行く。自分を止める声が再び聞こえたがそれに振り返ることはなかった。





◇◇◇






緩やかな風に乗りサリエットは屋敷近くへと降り立つ。燃え盛る炎の中、二つの人影がそこにあった。


「アサト、ヴァーチェ!?」


サリエットは無事を確かめるように名を呼ぶ。

だが、そこにいたのはーー


「ふふっ。みぃつけた!」


橙色の髪を揺らし佇む少女。そしてその少女の背後に眠たそうにしている少年だった。

彼らには見覚えがあった。以前、自分を狙って奇襲してきた者達。光術を星術と呼び、光者を適合者と呼んだ。


「干渉者……」


サリエットはそう言い背中の剣に手をかける。一方、少女ーーノエルは不服そうに眉を寄せた。


「むぅ。その干渉者って言われ方、嫌いだなぁ。好きで干渉してる訳じゃないのよ? イッくんの命令で仕方なくやってるんだから」


「仕方なく? の割には派手にやっているじゃない」


「そりゃあね。壊して盛大に盛り上げないと面白みがないもの」


でも皆弱いし張り合いなくてつまんないけど。

そう言ってくすくす笑うノエルにサリエットは怒りを覚える。


「ふざけないで! 人の命を何だと思っているの!?」


干渉者の介入でどれだけの民が、軍人が犠牲になったか。焼けた大地、逃げ惑う人々。

争いの絶えない日々。平和な日など数えるしかない。戦火は治まることはなく全世界へと広がっていく。


悲惨な状況ばかりが目につく。そんな世界を三年間見てきたサリエットにとってノエル達の態度がどうしても許せなかった。


「貴方達の目的は私の持つ能力でしょう! なのに、何故国を世界をも巻き込むの!?」


「えー? 仕事だからだよぅ」


ノエルはぷくぅと頬をふくらませつつ髪をはらった。


「あたし達は詳しくは知らないんだけど、適合者見つける&世界を捻じ曲げるっていう暗黙のルールがあるからね。きちんとしないと怒られちゃうもん」


「……何、それ……」


自分達の目的の為ならば何をしても良いって言うの?こんな卑怯なやり方で……!

ギリリ、と唇を噛み締めるサリエットにノエルはさらに楽しげにこう言い放つ。


「あ、そうそう。実を言うとクレヴィニスタの内政に干渉したのもあたし達だから」


神官と軍人数人をそそのかし帝国と手を結ばせた。世界を巻き込む戦争の発端、全ての元凶が――


「干渉者……?」


「ふふ、そうよ。面白かったなぁ…城中が真っ赤に染まっていくんだもの。見ているだけでワクワクしてたもん。直接手を下せなかったのが残念だったけど」


何もできなかった自分を嘲笑うかのように話していくノエルを見つめながらサリエットは剣の柄をギュッと強く握りしめた。


守りたい、かけがえのない人々がいた。

大好きな父といつも傍にいてくれた兄弟。そして自分を育んでくれた浮遊大陸。

私はあの国が何よりも大事で、大好きだった。

早くに亡くなった母との約束の為にも立派な王女として国を支えていくはずだったのに。


なのに、それは無惨にも崩れ去った。


下の弟は九歳という幼さでこの世を去った。もうすぐ行われるはずの収穫祭を誰よりも楽しみにしていた。死ぬべきだったのは私だったのに。原因の一つを作ってしまった私が何故、生きているのだろう?


それは、兄と交した最期の約束があるから。

だから、私は――


剣の柄を握りしめていた掌から血が滴り落ちる。それを軽く払い、サリエットは瞬時に動いた。


「貴方達を倒して、皆の仇を討つ!」


そして必ず国を再興させる。

それが王家の生き残りとしての意地と私が果たすべき責務。


迫り来る刃。だがノエルは何もせずにただ笑っていた。剣の切っ先がノエルに届こうとしたその時、強硬な刃によって阻まれた。

そこにいたのは水色の髪の少年、シンだった。


「ッ!?」


「ナイス、シン君」


ノエルは攻撃を防いだシンに礼を言ってサリエットに向かって舌を出して見せた。


「残念でーしたっ! あたしを倒すにはまずシン君と戦ってもらわないと、ね」


軽く息をついてシンは大剣を軽々と片手で持ちサリエットを見据える。その瞳は息を呑む程冷たかった。


「……ノエル。戦うのは別に良いけど、色々と喋り過ぎ」


「う……」


おそらく、先程のノエルが話してしまった情報のことを言っているのだろう。本来なら話すべきではない事実だ。それなのに、話したということは、生きて返すつもりがない事を意味する。


「他所見……危ないよ」


突然近くで響いた声にサリエットは思考を一旦止め頭上を見る。前方にいたはずのシンが大剣を手に目前へと迫っていた。


「ッ、やば……っ!?」


サリエットはとっさに横へ飛び去り回避する。が、完璧に避けれた訳ではなかった。微かに引き裂かれた頬から滲み出る紅の血。それを指で拭い、サリエットはシンをキッと睨みつけた。


シンはそれを平然と受け止め眠たそうに、退屈そうに欠伸をする。


「弱いのは相手したくない。本気で来なよ」


「上等じゃない。あとで後悔しても知らないから」


サリエットは背中に携えていたもう一つの剣を取り出し両手に剣を持った。それにシンは軽く目を細め観察するようにサリエットを見る。


「行くわよ!」


そう言ってサリエットが動き出すと同時にシンも大剣を構え直し、地を蹴った。


ガキィン!と金属独特の摩擦音が響く。その華奢な身体からは考えられない程の力でシンは剣に圧力を加え、押さえてくる。


「んの……、馬鹿力……ッ!!」


片刃で防ぎきれずに両手の剣で押さえたのがまずかった。剣を封じられているも同然でシンに押され続けていた。


背後には燃え盛る屋敷。これ以上下がれば火傷だけじゃ済まないだろう。下手すれば一瞬であの世行きだ。漂ってくる煙に軽く咳をしてサリエットは力を緩めないシンを見つめる。


「ねぇ、女だからって舐めてない?」


望み通り本気を出してあげる。

そう呟くとサリエットは一気に魔力を解放した。そして両手を引いてシンの体勢を崩す。その一瞬の隙を見計いサリエットは彼を魔力を込めた足で蹴り飛ばした。


「シン君!」


慌てたように叫ぶノエルの横を通り過ぎ、シンは近くの森林に叩きつけられる。


シンが飛ばされた森林は叩きられた衝撃で土煙が上がっている。それを見たノエルはサリエットを睨んだ。


「なんてことをしてくれたのよぅ! シン君に酷いことをするなんて許さないんだから!」


「酷いことをしてるのは貴方達の方でしょう。許されないことをした……!」


そんなサリエットの言葉を聞き流しながらノエルは杖を取り出しサリエットに向ける。


「何? やるの?」


「……」


ノエルは無言のままサリエットの足元をチラリと見てフッと笑った。その嫌な笑みにサリエットはゾクリと寒気立つ。剣先をノエルからそらさないまま彼女を睨みつけた。


「何よ……」


「あははっ。やるのはあたしじゃないよ。……シン君!」


「ッ!?」


次の瞬間、サリエットの足元に何かが絡みついた。それは薄く伸ばされたチェーン。それは森林の方から伸びておりシンから向けられたというのは容易に想像ついた。


舌打ちし、チェーンをほどこうとするが動くとチェーンがギリリと、片足を締め上げていく。


「痛っ……!!」


じわり…と血が滲むサリエットの足元を見てノエルは愉快そうに手を叩いた。


「またまた残念でした! 油断するから、そうなるんだよ~?」


ノエルは鼻歌を歌いながらサリエットに近づいていく。

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