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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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光者の資格【3】










2階にある客室へと通されたアサト達は、出されたお茶を飲みながら一息吐いていた。部屋の中をグルリと見渡しながら、この街の成り立ちなどをアサトがユゥイに聞いていると部屋の扉が開く。


「随分待たせたね。皆、なかなか帰ってくれなくてさ」


ダリアは片手に数枚の資料を持ち近くの椅子に座る。それを見て立っていたアサトとユゥイも椅子へと座った。手に持っていた資料を机に置きダリアは手をパンと叩く。


「さて、改めて自己紹介しようかね。アタシはこの街を治めているダリア・ラーズウェスハというもんさ。宜しく」


朗らかに笑うダリアにアサトとヴァーチェは笑顔で返す。


「えと、俺はアサトです。で、こっちがヴァーチェ」


ヴァーチェの言葉は普通の人には聞こえない。故に会釈だけで挨拶を済ました。ダリアは二人をニコニコと見つめながらふぅん、と意味ありげに頷く。


「見た目普通な子供にしか見えないけどねぇ。訳ありって、一体どういうことなんだい?」


「それは私から話すわ」


飲んでいた紅茶を机に置きサリエットはアサト達と出会った経緯と彼らがこの世界情勢を知らないことを簡単に説明した。一通りの事情を聞き終えたダリアは一息吐いた。


「だいたいの事情は分かったよ。しかし…世界を知らないとはねぇ……」


戦火にまみれた世界。いつどの街が被害にあってもおかしくない状況。そんな世界に何も知らない子供が2人。サリエット達が怪しむのも道理である。

ダリアに加えてサリエットとユゥイの視線がアサト達に向く。それにアサトは苦笑いを浮かべ、ヴァーチェは微かに首を傾けた。


「えーと、あの、ごめん。何も知らなくて、」


沈黙に耐えかねたアサトがそう言うとダリアは驚いたように目をしばたたかせる。


「何であんたが謝るんだい?」


「え。なんか、困ったような顔してるから悪いなぁと思って。あ、いけなかったのかな?」


パタパタと手を振るアサトにダリアはあははと大きく笑った。


「はははッ! あー、なるほどねぇ。サリエットが斬らずにこの子達を連れて来た訳が分かった気がするよ」


純粋過ぎるその心。少なくとも何かの意図があってサリエット達に付いた訳ではないのだろう。いきなり笑われ自身の頭をグリグリと撫でられアサトは頭を混乱させていた。


何が何だかわからない。

俺、変なこと言ったのかなぁ…?


ダリアは首を傾げ困った様子のアサトに気づき、ごめんよと詫びを入れる。


「まぁ、こっちの話だから気にしなさんな。さてと、あんた達今晩どうするんだい?」


ダリアの言葉にサリエットは暫し思案する。そして口を開いた。


「できるなら此処に泊めてもらいたいんだけどね、」


けど、色々と大変そうだし辞めといた方がいいでしょう?とサリエットが告げるとダリアは表情を歪めた。


「なーに言ってるんだい。忙しいのなんか理由になんないよ。あたしはあんたと色々と話をしたいんだからね」


「いや、でも、」


「泊まってくだろ? 断ると言うんなら、この街から永久に出られなくしてやっても良いんだよ?」


「………」


満面の笑顔でサリエットの肩を叩くものの言葉にはいくつもの棘が張り付いていた。断れば確実にそれは身に振りかかる。サリエットは過去の実体験からそれを理解していた。


アサト達が見守る中、サリエットは深く息を吐いて渋々頷く。


「……分かったわ。一日ぐらいなら泊まっても、」


「本当かい? なら、よし。一週間だね。了解したよ」


「ちょッ、ダリア! 誰も7日間だなんて一言も言ってな、」


ダリアはサッと立ち上がり、廊下にいる使用人達に声をかける。


「皆ァ、客人が一週間泊まるからね。勝手に外出されないようきちんと、手厚くおもてなしするんだよー!」


使用人達はダリアの指示に速やかに従い動いていく。それを横目にダリアは機嫌よく部屋を出て行った。サリエットがダリアを止める為に伸ばした手は何も掴むことなく下に降ろされる。


頭を抑えて深い息を吐くサリエットの肩に手を置いてユゥイは首を横に振った。


「ああなったダリア様はもう止められませんよ。諦めるしかないですね」


「うぅ……」


そんなサリエット達の様子を見ていたアサトとヴァーチェは互いに眉を寄せた。


「ね、ヴァーチェ」


『はい?』


「つまりはこの屋敷に泊まることになったんだよね?」


『そのようですね。何だかサリエットは嫌がっていますが』


何か不味いことでもあるのだろうか?サリエットはしきりに唸り、溜息を連発している。


「ああ、最悪……! やっぱりリスエラを飛ばしてスィーデェンに向かうべきだったわ」


「言っておきますが、この街に寄ると最終的に決めたのはサリエットですからね。僕に当たらないで下さいよ?」


「ぅ……」


サリエットが何か言いたそうに口を開いた時、部屋の扉が豪快に開け放たれる。


「さぁさ、皆! 先ずは飲もうじゃないか! 遠慮はいらないからね!」




暫くして、アサトとヴァーチェはサリエットが嫌がった理由を否応無しに知ることとなる。






◇◇◇




屋敷にある中庭の木に寄りかかりアサトはうなだれていた。


「う――、」


その表情にいつもの明るさはない。真っ青になりかけた顔からは時折汗が滲む。口元を抑えながら目を伏せる姿は何とも痛々しい。


『アサト、大丈夫ですか?』


ヴァーチェは使用人から貰ってきた水と薬をアサトに手渡しアサトの背中をさする。


「うー、大丈夫。うぇ、気持ち悪い……」


薬と水を飲み干してアサトはうんざりとした様子で眉をよせ息をついた。


『アサトはアルコール駄目みたいですね。匂いだけで酔ってしまうなんて』


「……サリエット達が強過ぎるんだよ…。何気にヴァーチェも普通に飲んでたよね」


あの後――、地獄のような時間が待っていた。


アサト達はダリアが持ってきたワインやら様々なお酒をこれでもかと飲まさせられた。

アサトは一口でダウンし、臥せっていたのだがヴァーチェやサリエットとユゥイは何なく飲んでいたのだ。サリエットやユゥイは慣れてる所為かも知れないが、ヴァーチェが動じないのにはかなり驚いた気がする。


未だにダリアの酒の振る舞いは続いていて、現在はサリエットが相手している。それを見計らいアサト達は逃げるように中庭へとやってきていた。


「……思ったけどさぁ……」


お酒って未成年が飲むもんじゃないでしょ?

なのに、何故自分達にお酒なんか飲ませたんだろう?アサトがそう問うとヴァーチェは苦笑する。


『おそらく、この地方では歓迎の際にはお酒を振る舞う習慣があるのでしょう』


「……この世界の文化って訳?」


『はい。ですから、子供だろうが関係なく飲まされるんでしょうね』


ある意味迷惑だよなぁ。それって。アルコールが弱い人とか異世界移住決定じゃないか。


「どうしてヴァーチェは体調何ともないの?」


『どうしてだと思います?』


質問に質問で返されアサトは不服そうな顔を見せる。ヴァーチェはそれにすみませんと苦笑を浮かべて理由を語り始めた。


『実は私は免疫があるんです。マスターがかなりのお酒好きなんで。よく晩酌に付き合ってたんですよ』


「へぇ、マスターっていくつなの?」


『17歳です。もうすぐで18歳になられますけど』


アサトは飲んでいた水を思いっきり吹き出し、咳き込む。袖口で口周りを拭いてヴァーチェを見据える。


「ち、ちょっと待ってよ! 17歳って未成年じゃん! 君のマスターは未成年で酒飲んでるの!?」


『未成年ではないですよ? ヴァルスケーヴィでは15歳で成人ですから』


「……マジで?」


『はい』


ちなみにDAMには年齢というものがないのでお酒に関しても自由なんですよ、とヴァーチェはそう言って朗らかに笑う。


「やっぱ価値観とか違うんだねぇ……」


アサトは頷きながら残りの水を飲み干した。

二人は夜風を受け、たわい無い話で盛り上がりながら時間を過ごしていく。アサトがそろそろ戻ろうかと立ち上がった、そんな時だった。


ザワリと、周りの空気が変わり不穏な気配が辺りを包む。それに瞬時に気づいた二人は武器を手に取り体勢を整えた。


「ぅぇ…」


しかし、アサトはまだ本調子じゃないようで口元に手をあて吐き気を抑えている。ヴァーチェはそれを配慮しながら、気配の元を探っていく。


2人や3人、ではない。数十人にいるだろう重く濃い気配だ。次の瞬間、空気がさらに鋭く変わる。そしていくつもの影がアサト達に襲いかかってきた。


「―――ッ!」


アサトの悲鳴じみた声は音にならず虚空へと消えた。





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