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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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光者の資格【2】



ティスディ大陸北東部ウィルタ自治区。始まりの街リスエラ。高山地帯を経て深き森の中にある、その街は活気に満ちていた。城壁をくぐった途端、雰囲気が一気に変わり商店街ならではの賑やかさ、華やかさが広がっている。


「ほぇぇ……」


物珍しそうに、街のあちらこちらを見渡すアサトを見てサリエットは何処か可笑しそうにくすりと笑う。


「何? そんなに珍しい?」

 

「うん。こんな賑やかな街、初めて見た」


アサトの生まれ育った離球はドームに囲まれた街。全てが用意された、人工的な街だった。自然のものは何1つない。創られたな物ばかり。


様々な店はあることにはあったが、キャッシュレスで支払うし店員は大概ロボットか人工知能ソフト。こんなに賑やかではなかった。


「これが本来の()()姿()なんだなぁ……」


活気があって、声が飛び交う。人々が笑顔になれるそれが本当の街の姿だと。

あの街は平和なようだけど犯罪は多いし常にギスギスしていた。心の余裕がないというか、変わり映えのしない日常にストレスが溜まっていたのかもしれない。


空気が澄んだこの世界に来て、切実にそう思う。


「戦時中じゃなかったら、もっと賑わってたはずよ。でも、アサト。こんな街ぐらいで感動するなんてほんと貴方達は何処から来たの?」


「あははは……」


別世界から来ました! なんて、言える訳もなく。ヴァーチェからの視線を受けながら誤魔化すしかなかった。アサトはサリエットから視線をそらし何か話題はないかと、周囲を探る。


アサトの視線にふと、酷く騒がしい場所が映る。明らかに他とは違う大きい綺麗な建物。その内部で激しい音が響いており、何やら騒がしい。


「何だろ?」


商人同士の取引とはまた違う、激しい怒号が飛び交っていた。人だかりも数十人を超えている。アサトの問いにサリエットはあぁ、と意味ありげな深い息を吐いた。

 

「喧嘩よ、喧嘩」


「喧嘩!?」


「そう、恐らくーー」


ガッシャアアン!!!!


サリエットの声を掻き消すように建物の窓から、軍服を着た数人が外へと投げ出される。その中の1人がアサト達の近くへと落ちてきた。ゴキッと嫌な音が聞こえた気がする。


「ひっ!? ちょっ、これ、一体何なのさ!!」


アサトが悲鳴を上げ、思わず逃げ腰になったその時だった。


「ほら! とっとと出て行きな! あんたらみたいな、役立たずの駐在軍人なんかいらないんだよ!」


体格の良い中年女性が残りの軍人を摘み出し大声を上げる。投げ出された男性ーー軍人達は痛む身体を押さえながら女性を睨みつけた。


「そんなに拒否することはないでしょう! 我々は帝国からの好意により、この街を守るとそう言っているというのに!!」


「はッ! 今まで幾千の街や民を殺したあんた達が言う台詞かい? 軍なんか、いらないよ。この街はアタシらで守っていくからね!!」


「しかし……!」


尚も畳み掛けようとする軍人の肩を叩き、それ以上の行為を初老の男性軍人が止めた。


「中尉、もういい」


「しかし、少将閣下!」


初老の軍人は他の軍人達を手で制し、女性へ目を向ける。


「ラーズウェスハ婦人。考え直して頂けませんか? 我々は、ただ支援をしたいだけなのですよ」


「武器を携えながら、ゾロゾロと来られても市民の不安を煽るだけじゃないか。街を治めるアタシとしては迷惑なだけだよ」


腰に手を当てうんざりしたように言う女性を見て初老の軍人は息を吐いた。


「……仕方ありません。今日の所は引き上げます。ですが、」


細められていた瞳が僅かに開き女性を捉える。


()()()()があることも忘れずにいて下さい」


「ッ…!」


微かに女性の顔色が変わったのを見て初老軍人は緩やかに微笑み、踵を返した。


初老軍人はふと目線を横に移す。そこにはアサト達の姿が。彼は顔を隠すようにユゥイの後方にいたサリエットに意味深な笑みを見せ、その場から完全に去っていった。


「……あの少将、見覚えがあったわね」


サリエットは小さく息を吐いて、ユゥイを見る。案の定ユゥイは不安気な表情をしていた。


「サリエット……」


「大丈夫よ。……多分」


そう信じるしか、今は残されていないのだ。






軍人達が去った街――

破壊された窓硝子。散らばった備品を見て体格の良い中年女性は深々と息を吐いた。


「まったく、冗談じゃないよ。あの子達がいない時に軍人が街を管理するなんざ……」


女性に賛同するように周りの者は頷く。


「軍人なんか、あてにならん! 市民を守ると言いながら市民に牙を向けるんだ」


「先日もうちの倅が、難癖付けられて連行されそうになったんだからな」


そうだそうだと沸き起こる喚声に、中年女性は複雑な表情を向ける。そう。それはそうなのだが、この気持ちが増大するのは良くない。再び争いの火種となる可能性もある。

何とかしなければ、と思うが彼等の気持ちを無視して前に進む事だけはしたくなかった。


「暫く来ない間に、この街も随分様子が変わってしまったわね。ダリア」


思考を打ち消すように響いた声にダリアと呼ばれた女性は顔を上げた。目線の先にいたのは懐かしい知人、だった。


「サリエーぜ!? ……いや、()()サリエットだったね。良かった無事だったのかい」


驚いたように自分に駆け寄ってきたダリアと手を取りサリエットは微笑む。


「えぇ、何とか。色々と失ってしまったけれど、私は元気よ」


そうかい、とダリアは呟いてざわめく民衆の中で佇んでいるユゥイとアサト達に視線を向けた。


「おや、見慣れない顔が2人いるね。ユゥイの隣にいる、あの子達は誰だい?」


「あぁ、彼等は私の友人よ。ディスラートの難民に近い境遇の、ね」


「難民に? ははーん、訳ありかい」


サリエットの言葉にダリアは意味ありげに頷いて、上を指差した。


「ま、ここじゃなんだから部屋にでも上がっといてくれよ。お互い話したいことが沢山あるだろう?」


「そうね、そうする」


サリエットはアサト達を手招いてダリアに指示された2階へと上がっていった。

それを横目にダリアは集まっていた民衆達に早く家に帰りなと、帰宅を促していく。


だが皆、なかなか帰らない。むしろサリエットが来たことで彼女に色々と話を聞いてもらいと口々に言い募る。


ダリアは深々と息を吐いた。


「……あの子が、無事だったのは喜ばしいことなんだけどねぇ……」


現在の世界情勢からして、彼女の存在は危うい。それに最近、帝国軍が何やら騒がしくなってきた。彼女の存在が公になれば戦況は大いに揺らぐだろう。


「なんだか、嫌な予感がするよ」


ポツリと呟かれた言葉は誰に聞かれることなく、風に乗って消えた。

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