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箱庭の終焉、その鍵を君が持っていた  作者: 桜柚
第3章 【干渉者編】
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光を狩る者、追う者【4】



「何事だ、騒々しい」


「も、申し訳ありません、閣下。急用でしたもので……!」


軍人は敬礼をし申し訳なさそうな表情を浮かべる。


「急用? 何かあったのかい?」


「それが、」


「それは俺から、説明した方が早いだろうな」


軍人の背後から現れた青年にリーグは目を見開く。一方、ホヴィス達を取り囲むように武器を構えていた軍人達は一斉に武器を仕舞い、慌てたように青年へ敬礼した。


「へっ?」


軍人達の突然の行動にリテアとキッシュは唖然となる。ただ、ホヴィスはそれを静かに見つめていた。


赤みがかった金髪に緑色の瞳。凛とした顔立ち。だが、着ているものは随分野暮ったい。

一房にまとめて結っている髪を揺らしながら、青年は部屋に入る。敬礼を向ける軍人に手で応じリーグに話しかけた。


「よ! 久しぶりだな、リーグ。元気だったか?」


「一応、元気だよ。しかし、ロラン。わざわざ何をしに来たんだい?」

 

ロランと呼ばれた青年はニッと笑い、リーグにある物を突きつけた。


「お前が探していた例の物だ。そして、奴等について多少分かったことがある」


青年の言葉にリーグは笑みを返し、ありがとうと礼を述べる。そして2人は何やら小声で話し込んでいった。その様子をただ呆然と見送っていたリテアは小さく息を吐いた。


「いきなり乱入してきて、何だってのよ……」


兵士の態度からして、あのロランという青年は身分が高いのだろう。将軍であるリーグと同等に話しているということは、国の要人か同僚なのかもしれない。


リテアがちらりと目線を横に向けると、ホヴィスは人差し指をひょいと動かした。どうやら、耳を貸せと言うことらしい。


「何よ」


「お前、この状況をどう見る?」


「どうって……」


リテアは言いかけながらハッとする。周りにいる数人の兵士達は武器を仕舞い、緩い体勢を取っていた。頭も切れ、それなりの体術も会得している厄介なリーグも青年と話し込んでいる。

逃げるには打って付けの状況だ。だが、


「……下手したら、死ぬわよ?」


ボソリと呟いたリテアにホヴィスは笑みを浮かべる。


「大丈夫だ。オレ達が動いたとしても、あいつはオレ等を殺しはしない」


「は? 何でそう言い切れるのよ?」


「長年の勘だ」


ホヴィスは何やらキッシュに合図を送る。それを受けたキッシュは、床に降り入り口に向かって走っていった。


それを見送ったホヴィスはギュッと掌を握り締め緩く息を吐く。ゆっくり手を開くと、そこには何かの球体をあった。


――爆弾に似た白い球体。


それは、


「催涙弾並の、代物だ」


部屋を漂うのは霧。ホヴィスの星術で作られた、視界を防ぐのに役立つ物質から派生したものらしたい。


(……なーにが、催涙弾並の代物よ。ただの霧じゃないの)


ホヴィスがそれを床に叩きつけてから、リテアは巻き込まれないように静かにその場に立っていた。リテアは文句を呟いてから現在地を確認するように、外側に立つ壁に手を当てたその時、キッシュがリテアの肩に飛び乗る。


≪や! リテア!≫


「キッシュ?」


≪いい? リテア、今からオイラが言うように行動して。時間ないから早くね≫


小言でキッシュはあることを伝える。リテアは驚いたように目を見開き、逡巡の後分かったと頷くと能力を高め始めた。





戦闘の音が漸く止まった。リーグはハァと大袈裟に息を吐いて、霧の向こうにいるであろうホヴィス達に話しかける。


「気は、済んだかい? 全員倒した所で悪いけど入り口は塞がってる。逃げようにも、私とロランを倒さなくてはならない。無理だろう?」


リーグの言葉に、群がる軍人を片手で薙払ったホヴィスは鼻で笑う。


「オレ達がてめえ等に勝てないとでも? ハッ、随分と舐めてくれてんじゃねぇか」


「んー、一応心配してあげてるんだよ。さ、大人しく席に戻りな?」


ホヴィスは恐らく笑顔を浮かべているであろうリーグに舌を出して拒絶を示し、クッと笑みを溢した。


その笑い声にリーグは眉を潜めた。


「……何が可笑しいんだい?」


「いや、おめでたい奴らだと思ってな。悪いが、脱獄させてもらうぞ?」


「何を言っている。扉は閉まって、」


ドガァァァン!!!!


地面が割れるような音が鳴り、部屋が縦横に揺れる。その時、霧に混じって砂埃が舞い上がった。


それを見てリーグはハッとし奥へと視線を向ける。霧で見にくいものの、そこには光が差し込み庭先が見えていた。


「へぇ、壁をぶち壊したのか。凄いじゃん」


惨状を見て嘆くどころか軽やかに言う青年、ロランをリーグはギッと睨みつける。


「感心してる場合か! 追うぞ!」


「はいはい」


ロランは笑いながらその重い腰を上げた。






部屋を何とか脱出したリテア達は、再び広い敷地内を走り続けていた。


「でッ? この後、どーやって外に出る訳?」


「さあな」


「さあな……って、ちょっと!! 早くしなきゃ、追いつかれて、また捕まっちゃうじゃない! 早く考えなさいよ!」


「うるっせぇな。今、必死に考えてんだよ! 横入れすんな、小娘(ガキ)が」


「なんですってぇ!!」


2人のやり取りは、一向に収まる気配はない。キッシュはホヴィスの肩に乗り、両耳を必死に押さえている。そして深々と息を吐いた。


≪ああ、もうー!! 煩いよー。しかも、こんな風に騒いでいたらさぁ、直ぐに気付かれるじゃん……≫


キッシュがそう呟いたと同時に、前方の脇道から軍人達が押し寄せてくる。


「いたぞ!」


武器を構え駆けて来る軍人の数は、先程の比ではない。その多さにキッシュはザッと青褪めた。


≪ほらぁ、言わんこっちゃない!≫


「うるせぇな。さっさと済ませればいいんだろうが」


肩にいたキッシュを振り落とし、ホヴィスは迫りくる軍人の人垣へ突っ込んでいった。


≪ぐふッ! 痛いッ、しかも、酷い!! リテア助け、≫


キッシュはそう言いかけて止まった。

何故なら、リテアは1人の青年と対峙していたから。そう、あの部屋にいたロランと呼ばれていた青年と。


一瞬の空白を置いて、2人は動き出した。青年の手には武器はない。どうやらリテアと同じように格闘専門のようだ。


繰り出されるリテアの技を軽やかにかわし、青年ーーロランは微笑んだ。

 

「女の子にしては、なかなかやるね。久しぶりに楽しいかもしれない」


「こっちは、何も楽しんでいないんだけど?」


「つれないな。ま、いいけど」


ロランは顔面に当たりそうになったリテアの足蹴りを止め、一息吐く。


「なぁ、ここは大人しく捕まってくれないかな、俺の為に」


「誰がッ……!?」


リテアはロランの隙をついて腹部を狙うが、簡単に止められてしまう。そして、両手を後ろ側に回されしっかりと拘束された。


普段ならこんなヘマしたりしないし、直ぐに解くことが出来るのだが、先程、力を使った所為で、身体がかなり重い。動かすのも苦痛だった。


「離して……!」


「嫌だね」


伸びてくるのは1本の腕。これにとどめを刺されるのかとリテアが思わずキュッと目を瞑った瞬間だった。唇に何かが触れた。とても柔らかく、何とも言い難いこの感触は。


(……まさか、)


リテアはそろりと目を開く。すると目の前にはあの青年がいて、自分の唇を奪っていた。ロランはゆっくりと唇を離し、鮮やかに笑う。


「……はい、ごちそうさま。もしかして殺されるかと思った?」


そんな無粋な真似俺はしないよーと、カラカラと笑うロランの言葉を聞き流しながら、リテアは掌を力一杯握り締めた。


一瞬にしてリテアの纏う雰囲気が変わる。それに気付いたのはキッシュただ1人。ミシッと音が鳴った拳を見て、ヒッと思わず声が上がる。


「……を、し……」


「ん? 何?」


「何してくれてんのよぉぉぉ!!!!」

 

バチィィィン!!と、手加減全く無しのリテアの平手打ちが、敷地内に小気味良く響き渡った。






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