光を狩る者、追う者【1】
「ふふっ、これで10人目!」
燈色の髪の1人の少女が軍人数人を攻撃していた。星術にも似た不思議な術で。相手の軍人達は瀕死に近い状態だというのに、少女は攻撃する手を止めない。むしろ完全に、息の根を止めるつもりでいるようだ。
「……やめ、ろッ」
比較的意識のある男性軍人が、荒い息を吐きながら少女を睨みつける。それに少女は、声を上げてクスクスと笑った。
「い・や・だ・よぉ。だって、きちんと壊さないと、あたしがイッ君に怒られちゃう」
長いツインテールの髪を揺らしながら少女は杖を構える。
「だから、さようなら」
何の感情もなく、少女は杖を振り降ろした。一筋の雷撃が軍人達の身体に突き刺さる。そのまま、彼等の姿は塵となって消えた。
命が潰えるそれをただジッと見据える。少女の背後に、水色の髪の少年が静かに立っていた。
少年に気づくと少女は首を傾げる。
「あれぇ、シン君も終わったの?」
シンと呼ばれた少年は返事をせず同意するように頷いた。
「そっかあ、今回は手掛りゼロだよ。困ったなぁ……」
少女は手に持っていた杖を虚空に消し、プゥと頬を膨らませた。
「早く光を見つけないと、計画が全っ然、進まないじゃん!! イッ君を悲しませたくないのにーー!」
1人喚く少女をチラリと見て、少年は息を吐く。少女がこうなるのは日常茶飯事なので慣れてはいるが、耳元で騒がれると非常に煩い事この上ない。
「……まだ、帰んねぇの?」
ボソリと言った少年の呟きに少女は騒ぐのを止め、視線を少年に向ける。
「情報も何も、手に入れてないのに? 手ぶらで帰れるわけないじゃない!」
少女はクルンと巻かれた髪を何度もいじりながら眉を寄せた。
「まったく、3ヶ月前に会った時に無理矢理にでも連れ去ってたら、こんなことにはッ! ああ、もう! 何処にいるのよぅ、光空の娘はーー!!」
なかなか捕まえられない上に何度も何度も、あと1歩の所で逃げられている。叫びたくなる気持ちは充分に分かるのだが。
「耳、痛い」
誰かさんの大声でキーンと鳴る耳を両手で押さえ、少年は空を見上げる。
「あ、」
遥か東の方角。真夜中だというのにその方向は紅に染まっていた。
争いはもはやこの世界で止まることはない。力に魅せられた、かの者を止めるまで。少年は空を見上げながら耳を澄ます。何かを感じ取るかのように。
「……聞こえる」
泣き叫ぶ声。断末魔。狂気にまみれた金物の音。聞くに耐えないものばかりだが、自分にとっては心地良い音ばかり。フッと目線を少女に戻して少年は口を開く。
「ノエル」
「なあにッ!?」
少女は苛々を募らせたまま声を上げ少年を見据える。その視線を逸らす事なく真っ直ぐに受け止めながら、少年は言葉を続けた。
「そういや、今日イフォラッドが帰って来るんじゃない? 急がなくていい、」
「あーーッ!! 忘れてたーーッ!!」
少年の言葉を遮り少女は、怒りを鎮めワタワタと慌て始める。
「ど、どうしよう、まだ成果上げてないのにーーッ! イッ君に嫌われたら、あたし生きていけないぃ……」
浮き沈みの激しい少女の態度を少年は無視してテクテクと歩いて行く。真面目に付き合っていると、あっという間に夜が明けてしまうからだ。
「あ。ちょっと待ちなさいよー! シン君! 相棒のあたしを置いていくなんて、最低よ!?」
(だったら、四六時中騒がずに、もうちょっと落ち着いてくれればいいのに……)
少年は呆れたように息を吐いてその場から掻き消えた。少女も慌ててそれに続く。
そんな2人が去った荒野に1人の男性が佇んでいた。頭から身体を隠すように被っていた布がバサリと揺れる。
「なるほど。あれが、干渉者か……」
男性はポツリとそう呟いて、踵を返した。
「知らせなきゃ、な。早くあいつに、リーグに……」
仄かな月明かりが世界を包んでいた――




