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 俺は軽く会釈をして田中鈴の前に行き、彼女に会釈をすると『どうぞ』と促され緑の座面の丸椅子に座った。


 俺はボイスレコーダーを小さなテーブルに乗せ、メモを取り出し、改めて取材の協力を願い出た。


 すると彼女は少し愁いを帯びた表情をしていたが、ゆっくりと話をはじめた。


「あの、佐光さん。私の話を聞いてもあまり関係ないんじゃないかと思うんです」

「どうしてそう思うんですか?」

「だって、犯人の女性とは面識もなかったし……」


「我々記者は様々な人達から話を聞きます。だからといって俺は面白おかしく書いてやろうなんて思っていないので安心して下さい。ただ、あの時の状況を少しでも知りたいんです」


「……分かりました。私はあの日、友達三人と二.五次元のアイドル『イケメン執事総選挙』のチケットを取って見に行ったんです。


 ダンスと執事さん達一人ひとりのパフォーマンスが終わって、全員で歌を歌いはじめた時、前の女の人が悲鳴を上げて前のめりに倒れたんです。


 最初は誰かとぶつかって転んだんじゃないかって思たんだけど、血が、ぶわーって。横の人が怒りながら叫んでいて、よく見たら手に持っていた包丁? なんか、ナイフみたいなのを持っていたんです。


 そこから、私は隣に居たひなを押しながら『ヤバイ、ヤバイ』って言ったんです。


 それで距離を取ろうとして女が振り向いてこっちにナイフを振りかぶって切られました。


 興奮していたせいか痛みは無かったんだけど、ひなが私を引っ張ってくれたおかげで私は死なずにすんだんです。


 ひなの手も怪我しちゃったけど。私を刺す邪魔をしたひなにもナイフを向けた時、みゆきが団扇を投げたから犯人がみゆきにターゲットを変えたんですが、ちょうど反対にいた女性が私達に気づいて叫んだの。


 女はそのまま声をの方向を向いてその人に切りかかった。


 刺された女の人の悲鳴で周りが彼女に気づいて距離を取ろうとしたのがいけなかったのか分からないけれど、ナイフを振り回していたんです。


 私達は隣の人達を押して距離を取った時に警備員さんが彼女に馬乗りになったところまでは見たんだ。


 その後はひなとみゆきと一緒に病院に運ばれてきたんです」


 彼女は記憶にある流れを話してくれた。


「ひなさんは手を切られて、みゆきさんは怪我をしなかった?」


 俺は再度確認するように聞くと、彼女は思い出しながら答えてくれる。


「えっと、みゆきは怪我した私達を必死で引っ張って逃げた時に手と足をぶつけて打撲しました」

「そうだったんですね」


 こうして俺は読み込んだ資料との相違点がないかどうかを細かく確認していった。


 怪我をした彼女達と土井ゆかりの接点は全くと言っていいほど無かった。


 田中鈴達が煩くして土井ゆかりの邪魔をしたのかとも思ったが、そういう訳でもなかった。


 どういう事だ?


 土井ゆかりは突然キレたってことか?

 キレた要因は何だったんだろう?


 俺は疑問に思いながら取材を終えた。後は土井ゆかりの家族から彼女はどういう性格だったのか聞いてみたい。


「取材に協力していただいてありがとうございました。また何か思い出したらここの名刺に連絡をいただければ助かります」


「……はい。できればもう関わりたくないと思っています。だって犯人が刑務所から出てくるって思うだけで怖いから……」

「大丈夫。犯人はまだ当分塀の中だ。名前も顔も知らない君たちを襲うことはないですよ」

「それだと良いんですけどね」


 病室に居た人達にお礼を言って病院を後にした。


 彼女には話をしなかったが、先日、刑務所に取材した時、刑務官から土井ゆかり現在の状況を聞くことができた。


 彼女は最初、大人しい態度を見せていたようだ。最初に独房に入った時は模範囚のような感じだったらしい。


 日を追うごとに刑務所に慣れ、午前中は作業を行うようになっていたのだが、そこで他の受刑者に作業のおかしいところを指摘され、カッとなって襲い掛かったのだとか。


 現在は独房で作業を中止し、一人過ごしている。



 俺は被害者の取材を終え、そろそろ土井ゆかりに事件のことについて手紙で聞いてみることにした。


 なるべく相手を刺激しないよう丁寧な口調で書いていく。


 質問の内容は①事件を起こそうと思っていたのか?

 ②刺した女性達とは面識があったのか?

 ③何故女性達を刺したのか理由を知りたい

 ④被害者を刺してどう思ったのか

 ⑤被害者に対して感じることはあるか。


 他にも聞きたいが、少しずつ聞いた方がいいように思う。


 この三か月手紙をやりとりしているが、未だ土井ゆかりから自身から事件のことを語ったことはないし、謝罪の一つもない。


 まだ自分の中で折り合いがついていないのかもしれない。


 俺はそう考えながら手紙に封をし、ポストに投函した。


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