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「当時の仲が良かった友達っていますか?」
「さあ? 居なかったんじゃないかな。だって気分で暴力を振るう子には近づきたくないだろう。小学生ともなれば無視をするし……」
「まあ確かにそうですね」
「ああ、でも、連絡は取っている子はいたかな。立花綾乃さんって子だ。高校は土井ゆかりさんと同じ高校だったはず」
「哲太さんと立花綾乃さんの繋がりをお聞きしても?」
「たまたま、駅の中を歩いている時にばったりと会って『森本先生?』って声を掛けられた。
立ち話をした程度だから深くは聞いていない。彼女はゆかりさんと小中と同じ学校だった。中学はクラスメイトでは無かったみたいだけど。
ゆかりさんと高校でばったりあって連絡を取るようになったと言っていたよ。どれくらいの仲かは分からない」
「分かりました。立花さんの方にも後日取材をして聞いてみます」
「俺が喋ったということは内緒にしておいてほしい」
「もちろんです」
俺は気になっていた兄の話も聞いてみることにした。
「ところで土井ゆかりの兄はどのような感じの子供だったんですか?」
「正樹さんはまあ、職員室で毎日名前が上がらない日はないってほどの子供だったかな。あれこそ今でいうサイコパスなんじゃないかって思っているがね。
俺は妹のゆかりさんより兄が先に全国のニュースになると思っていた。きっと他の先生達もそう思っていたはずだ。
俺が聞いた話では授業中に前の席に座っていた子の長い髪が気に入らなかったらしく、突然ハサミで髪を切ったとか、人の家の敷地に入って植木を塀に投げて壊したとか。
数えきれないほどあって全ては覚えていないな。ゆかりさんもそうだけど、正樹さんも暴力はルールとしては理解しているんだ。いるんだが、理解しているだけで歯止めになっていないというか……」
「理解しているが歯止めになっていないんですか?」
俺の疑問に彼は分かりやすく説明しようと考えている様子で顎に手を当てながら少し止まった後、話をはじめた。
「説明が難しいな。普通、幼い頃から『悪いことをしたらお巡りさんに逮捕される』って言われたり、自分で考えたりして無意識に暴力の抑止力になっているはずなんだ」
「そうですね。逮捕されるのは嫌だからとか、自分が痛いことを返されるのは嫌だからとかそれぞれの理由で暴力を振るうのを躊躇しますね」
「それが理由にならない。知識としての理解だけで終わっている。例えばこのテーブルを強く叩こうとした時、『青い色』と考えながら叩いたりしない。それと同じ。本当にそんな感じなんだ。全く抑止力になっていない」
「怖いですね」
「何をするか分からない子供。興奮すると、目が逝っている。学年主任が昔いた薬物の中毒者のようだと言っていた。
よく小説であるような常軌を逸したような感じなんだろう。ゆかりさんも興奮すると同じような感じだったし。近づかないことが自分を守る手段だと思えてくる」
「でも、当時からそんなにおかしい行動をしていたなら学校としても何か出来なかったんですか?」
「もちろん教育委員会には報告しているし、親にも電話や面談を通して伝えていたんだ。病院に掛かり、検査を受けるように勧めた。だが、親はまるっと無視をしていたが。
聞かないふりをしていたのか、問題だと思っていなかったのかは分からないです。ただ謝るだけ。だからといって『お宅の子は異常です。病院に行ってくれ』なんて言えないし。養護教諭や保健室の先生、学年主任、教頭でいつも会議をしていたな」
「そうなんですね」
俺は漏れがないようにメモを取っていく。
「……土井ゆかりは嫌われていたんですね?」
「そこまで嫌われていたようには見えなかったです。根はいい子だと思う。低学年の子には手を引いてあげたり、迷子になった子をクラスまで送ってあげたりはしていたし、よく笑う子だった」
「よく笑ういい子だった?」
「多少のいたずらはするけれど、明るい子と言えばいいかな。ただスイッチが入ると別人格のように切り替わってしまう。どこでスイッチが入るのか分からなかったから我々はいつもヒヤヒヤしていたよ」
スイッチか。
突然激高して暴力に及ぶのか。
「森本さんから見てやはり土井ゆかりは事件を起こすことは予見できていましたか?」
俺は朝生先生が予見していたように森本先生も何か感じるものがあったんじゃないかと思い質問してみた。
彼はフッと笑顔になり、答えた。
「あんな事件を起こすことは正直なところ思っていなかった。どちらかといえば彼女は痴情のもつれからくる殺傷事件や、ストーカーでローカルニュースに出るくらいかなと。どちらかと言えばお兄ちゃんの方が全国ニュースに出るかと思っていた」
「朝生先生も同じようなことを仰っていました」
「だろうな。ずっと接している先生が気づかないわけはないから」
「お兄ちゃんの方が深刻だったんですか?」
「どっちも問題児だったが、ゆかりさんが攻撃する範囲はあくまで近くにいる人だが、お兄ちゃんの方は地域の住人にも迷惑をかけていたからね」
「そうなんですね」
そこから少し森本哲太と雑談をしてコーヒーを飲み取材を終えた。
自分の好きな相手が取られると思って相手を攻撃した。
彼女は良くも悪くも幼少期から攻撃する範囲が変わっていないのだろう。兄の方は大人になってから事件を起こしてはいない。
その違いはなんだろう?
そして俺が考えていたほど森本さんの口からは母親のことは出なかった。
彼の知る土井ゆかりの母はいつも忙しいと子供に関心が薄く、父親の存在は殆どない。話を聞いても家庭の内情が全く見えてこないな。
ここまで見えないのも珍しい。
もともと先生という職業は勤務時間が長く、保護者からのクレームも多いので有名だからな。森本先生も相当ストレスを抱えていたんだろう。




