33黄緑ヒヨコ王子
◆◇◆
「数日後にさ、面白いことを起こすから楽しみにしてて欲しい!」
そんなことを言うのはカールさん……、ではなく、その姿を得たザンでした。
カールさんの姿で表情がまったく違うので、少し違和感があります……。
「……いきなり来てなんです?」
私は警戒心マックスで対応します。
だってここは、私の家の邸宅の庭園。
この日は午後に仕事がなかったため、早上がりだったのです。
両親とルイザは不在だったので、久しぶりに庭のガゼボで一人、アフタヌーンティーを楽しんでいたらこれです。
敷地内には結界も張ってあるんですけどね……。
私は侍女たちをチラリと確認します。
顔が青い。
どうやら、何らかの魔法で動きを封じられているようです。
「ん〜? 君に伝えたいことがあってね。──彼からの伝言だよ」
ザンは、勝手に紅茶を注ぐと、勝手に飲み始めます。
「彼から? ……カールさんですか?」
「そうだね。では、『夕暮れカフェで初めて会った時に一目惚れしました! 仮面舞踏会で一緒に踊れたのは人生最後の思い出です!! ありがとうございました! 巻き込んでしまってごめんなさい!!』……だってさ」
「……そう、ですか。それだけを伝えに?」
「まあね。後は、未来の同僚にご挨拶ってところかな?」
「未来の?」
「う〜ん。肉体があるって素晴らしいね。こんなに美味しいものも食べられるし! さて、そろそろお暇しようかなっと」
お茶菓子を一通り食べたザンは、席を立つと指を鳴らしました。
同時に花吹雪が舞い、視界を遮ります。
「え? ちょっ──!」
花吹雪が止むとザンの姿は消え、侍女たちも動けるようになりました。
未来の同僚って、どういう意味です?
◆◆
数日後、国中にある活画がばら撒かれました。
題名は『ピエリス子爵家の悲劇』。
私がピエリス子爵の邸宅で聞いたものに、少し手を加えたもので、追加されたのは、エミリーさんが呪いをかけ、妹弟がそれを実行し二人は死んだという部分です。
魔法具についてはぼかされていました。
すでに存在しないピエリス子爵家の名前は出てきましたが、それ以外の関係者の名前はぼかされていました。
ただ、事情を知っている人々には、誰のことか分かるようになっていました。
その結果、ベンジャミン・ターフ子爵は領地へと引っ込んでしまったそうです。
さて、さすがに人心を惑わす恐れがあるため、王宮としては『ピエリス子爵家の悲劇』の映像データは回収対象。
しかし、同じ過ちを犯さないで欲しいという考えもあったので、図書館の禁書保管庫などには残っていたりするらしいです。
しかし、一体誰がこんなものを制作して、ばら撒いたのかというと……。
「楽しんでもらえたかな? 黄緑ヒヨコ王子さま!」
……多分この人ですね。
謎の貴族、ザン・フィーバーヒュー。彼はなぜか今、エン様の執務室にいます。
実に三日ぶりですね……。
一応、彼が我が家に来たことは、エル様たちにも報告済みです。
「なんで、俺の執務室にいるんだ?」
「司法取引をしたんです。黄緑ヒヨコ王子の面倒を見る代わりに、この国に協力するって! まあ、流石にこの国も魔族を敵には回したくないでしょうしね!」
「なんで、司法取引の代償が俺の面倒を見ることなんだ……?」
「このところの、やらかしのせいじゃないですかね?」
と、ロナルド様。容赦ないですね。
「ぐぬ……」
「それに、ジャスティーナともっと仲良くなりたいんでね〜」
「え?」
なんで?
「ダ、ダメだぞ! ジャスとは俺が婚約するんだからな!!」
「ちょっ!?」
「そうですか。では、両家で話し合わないといけませんね……」
なぜ、ロナルド様は乗り気なのですか?
それよりも、ザンを仲間にして大丈夫なのですか!?
「じゃあ、私は愛人でもいいよ?」
そう言いながら、ザンは魔法で作った花を辺りに撒き散らしています。
すぐに消えるのですが、少々鬱陶しいですね……。
「ダメだって言ってるだろ! お前、勝手にジャスの邸宅へ行ったみたいだな!
今度やったら、なんかこう……。酷い目に合わせてやるからな!! あと、無駄に花を撒くな!」
「いえその、私の意見も〜」
エル様、酷いことの内容が思いつかなかったのですね〜。
「ジャス様も大変っすね〜」
そんなわけで、特殊調査部隊『梟』に新しいメンバーが増えました!?
「まあ、ザンのことはどうでもいい。今は違法魔法具の氾濫について──わっぷ!?」
その時、空いていた窓から強い風が吹き込み、ザンが撒き散らしていた花が、一気にエル様の顔をかすめていきます。
「ヘ……ハ……、ハッチョンッ!」
と、エル様。
意外にも可愛らしいくしゃみと同時に、ボワンッと謎の白い煙が執務室内に発生!
「わわ、なんですか!?」
「エルドレッド様!?」
煙が晴れ、エルドレッド様の姿を確認すると……。
「けほっけほっ、一体なんだ……」
煙の中から現れたのは、黄緑色の、手のひらサイズのヒヨコ(?)でした。
その周りには、エル様が着ていた服が散らばっています。
「え? エル様は!?」
まさか、転移したのでしょうか?
服が散らばっているということは、──全裸で!?
「ジャス様、落ち着いてください。エルドレッド様なら、目の前にいます」
「え?」
ロナルド様の言葉に、黄緑色のヒヨコに目をやると──。
「驚かせてすまない、ジャス。俺は無事だ」
「ヒヨコが喋った!? いえ、この声、エルドレッド様!?」
「そうだ」
「な、なぜ、そんな姿に!?」
「疲れが溜まりすぎると、昔からこうなるんだ。慣れてくれ!」
「ええ──っ!?」
どういう理論です!?
「あ〜、こうならないように、ギリギリを攻めていたのですが……」
と、残念そうなロナルド様。
「あっはははは! その姿がまた見られるとはな!」
大爆笑のザン。
「えーと、こうなると戻るには……」
ちょっと、面倒くさそうなパーシーさん。
「ザン、笑うんじゃない! あと、ヒヨコではない!
……とにかく、姿が戻ったら、ジャスとは婚約を結ぶぞ!」
「ええ──!?」
私の叫び声は、王城に響き渡ったのでした……。
第一部・完
二部は四月ごろ、完成予定です! (未定)




