30決着
◆エルドレッド視点◆
──時間は、少し遡る。
「──ふむ、見つけました」
ジャスティーナの父、イライジャ・サルビア伯爵は、少しうるさそうな反応をしつつそう言った。
「本当か!?」
「ええ。あのバカ娘、どういうわけか、衝撃波を発生させたようです。おかげで場所の特定も容易でした。
あ、耳から血が……」
「しょ、衝撃波?」
「魔力は隠匿できても、音はそうはいきませんからね。
……ディアドラがうまく調節してくれなければ、私も気を失っていましたね。とにかく場所はここです」
イライジャは耳の血をハンカチで拭いながら、机の上に広げられた地図上にその位置を記す。
そして、パーシーが持ってきた回復薬を飲み、負傷はすぐに治癒した。
イライジャは〝天耳通〟という特異魔法を持っている。
この特異魔法は、周囲の音を聞き取り探ることが出来る。
ジャスティーナの〝音量調節〟と違うのは、聞くことに特化しており、自分だけしかその音を聞くことができず、音量を調節することもできない。
しかし、知覚できる範囲はジャスティーナよりも上である。
また、イライジャだけでは王城周辺までしか正確に知覚することはできないが、妻ディアドラのサポート系特異魔法、〝絶対調律〟により、その範囲を国全土に、ほぼ行き渡らせる事ができる。
「──意外と近い場所だったな」
そこは、王都東部のとある邸宅──故ピエリス子爵家の王都の邸宅だった。
「この邸宅は曰くがあるので、買い手がつきませんでしたが、最近とある人物が購入していますね」
ロナルドが、手元の端末を操作しながら答える。
彼が操作しているのは、魔動通信機を応用した情報端末で、一般的な便箋と同じサイズだ。
「誰だ?」
「オリビア・ピエリス。ピエリス家の次女ですね。現在はリビーの名で冒険者をしています」
「なるほどな。転移は可能か?」
「無理ですね。屋敷全体に結界が張ってあります。騎士団と魔法師団を向かわせてはいますが……。
近くまでなら可能です」
「そうか……」
「〜〜っ」
その時、イライジャがまた、うるさそうな仕草をした。
「どうした?」
「バカ娘がまた何かしたようです。建物が崩壊しないうちに迎えに来ましょう」
「何?」
エルドレッドはロナルドに目を向ける。
「──ああ、はい! 確かにジャス様の魔力の反応があります!
なぜか結界の影響が無くなっているのが、気になりますが……。おや?」
「どうした?」
「転移用の目印の反応がありますね? これは、王族専用のものです……」
「──ああ、そうか! ロナルド、俺は先にジャスの元へ向かう。あとは頼んだ!!」
「エルドレッド様!?」
何かを思い出したエルドレッドは、ロナルドが止める間も無く、転移の光に包まれ──消えた。
◆◇◆
「──エルドレッド様!?」
「黄緑ヒヨコ王子!? まさか、一人で来たのか!?」
な、なんでこんなところに!? というか、デジャヴですわ!!
カールさんも驚いています。というか、黄緑ヒヨコって……。
あら? 最近似たフレーズを、別の場所で聞きましたね?
「無事か、ジャス。とりあえずアレを倒せば良いのか?」
「あ、はい! アレは人工精霊らしく、心臓部のパーツが弱点です。ですが、体の周りを防護壁と同じもので覆っているので、普通の攻撃が効きませんでした!」
私の特異魔法は、使用する音自体は魔法ではなく、普通の現象なので音の攻撃は普通の攻撃になります。多分!
「わかった。……と、その前に。
お前、ジャスティーナに近いぞ? もっと離れろ!!」
「おや、私が離れると、防護壁を展開できないんですが……」
と言いつつ、カールさんは私に近づきます。
「嘘つくな! お前──ザンだろ!? 俺を黄緑ヒヨコと呼ぶ不敬者は、お前くらいしかいない! それなら、離れてても防護壁くらい張れるだろうが!!」
ええ!? 衝撃の事実が、こんなところで明かされました!?
カールさんはザンということ? いえ先程のカールさん(?)言葉からカールさんの肉体をザンが使っているということでしょうか?
謎ですわ〜。
「おや、バレてますか。流石、黄緑ヒヨコ王子です!」
「その呼び名、やめろっ!!」
「あ、あの、お二人とも、そんなことをしている場合じゃ……」
この間にも、人工精霊は暴走しており、オリビアさんがなんとか対処しようと戦っています。
そのおかげで、注意はそちらに向いていますが……いや、オリビアさん、結構強いですね!?
「チッ、お前のことは後だ! 逃げるなよ?」
「あっはは。まあ、ジャスティーナ嬢は守りますよ」
あ、これ逃げるやつですわ。
エル様は暴走する人工精霊を見据えると、腰に携えていた剣を抜いて上段に構えます。
「おい、そこでチョコマカしている魔法使い! 離れろ!!」
「なっ、エルドレッド殿下!?」
エル様の言葉に、オリビアさんは人工精霊から離れました。
そしてエル様が、その剣を振り下ろす!
明らかに距離はありますが、剣から光が迸り、人工精霊を切り裂きます。
す、すごい! どんな魔法なんですか!?
『──っ!?』
その隙にエル様は一気に人工精霊との距離を詰め、その心臓部を光の剣で貫きました。
その刃は、確かに心臓部にまで届きましたが、それでもすぐに人工精霊は止まりません。
人工精霊は口から赤黒い液体を吐いて応戦。ターフ子爵に吐いていたやつですね……。
攻撃力はそこまでないのが救いですが、当たりたくはないですね……。
「はあ!? まだまだ元気だな! あの液体なんだ!?」
エル様がその液体を避けながら、愚痴っています。
「あの液体は血液に似た呪いの元ですが、対象者以外には特に効果はありませんのでご安心ください」
「そうか。で? どうして心臓部を破壊したのに動いている?」
「おそらく、エミリー姉様の魂が、魔力として使われています」
オリビアさんが、近くに来てエル様に助言します。
「姉の魂を?」
「この呪いの術式を始めたのは、姉のエミリーです。
私と弟のチャールズはそれをどうにか無効化しようとしてきましたが、自分たちだけでは無理でした。
しかし、呪いが成就しなければ、この国全体に崩壊の呪いが降りかかる。
そのため仕方なく姉の恨みを晴らしていました」
「……つまり、姉の魂を引き剥がせばいいのか?」
「ええ。すでにすべて恨みは晴らしていますので、それは問題ありません」
「では……」
エル様は剣を鞘に収めると、何かに集中するように目を閉じました。
そして再び目を開けると、その瞳は金色に輝き、背中には金色の翼が展開されました。
それは思わず、息を呑むほどに神々しい姿でした。
そして飛び立つと右手に光を纏い、鉤爪状になった手で人工精霊から何かを引き剥がします。
その瞬間、人工精霊の姿は霧のように消え、真っ二つになった心臓部が床に落ち、真っ二つに割れました。
『ア、アア……』
エル様の手には、禍々しい色の球体が乗っています。あれが魂?
「君たちの処遇には同情するが、ここまでやったら、冥界神にもお目溢しはされないだろうな。
まあ、あの世で苦労しろ。
そして罪を償い、転生したら、次は幸せになるんだな……」
『ギョアアアァ……』
エル様が、光る手でエミリーさんの魂を握りつぶすと、彼女の魂は砂のように崩れて消えてしまいました。
「さて、後はオリビアに任せますか。ジャスティーナ嬢、また会いましょうね!」
「え? わぁっ!?」
花びらの嵐に包まれたかと思うと、カール、いえザンの姿はすでにありませんでした。
「ジャス、大丈夫か!?」
「はわわっ!?」
魔法を解いたエル様が駆け寄ってきて、私を抱きしめます。
そして、無事であることを確認されました。
「怪我はないか? 変なことされなかったか!?」
「は、はい、大丈夫です〜。でも、エル様は、どうしてここに?」
「ジャスが俺の指輪を、持っていてくれたからな」
「……ああ、そういえば!」
私は、ポケットに入れていた指輪を、取り出します。
エル様からもらったこの指輪は、転移魔法の目印になるのでした!
ただのお守りじゃ、ありませんでした!!
「無事で良かった!」
そう言ってエル様は、優しく微笑んだのでした。
◇
その後、王宮が派遣した騎士団と魔法師団が到着し、オリビアさんは抵抗もせずに拘束されました。
ターフ子爵とジミー・モスさんも無事保護され、体に異常はないようです。
もちろん私も。
カールさん──いえ、ザンはやっぱり逃げたみたいで、エル様は大層怒っておりました。
お二人は貴族学園での同級生らしいですし、何か因縁があるのでしょうか?
そういうわけで、なんとか事態は収束したのでした……。




