28最後の仕上げ
◆◇◆
「……?」
気がつくと、どこかの部屋に寝かされていました。
ここはどこでしょう? 私はジャスティーナです。
うん、意識はしっかりしていますね。
自分の体も確認しますが特に怪我などはありません。
次はベッドから離れ、部屋の中を確認。
部屋の中には、そこそこ良い家具が並べられています。
貴族の邸宅か高級ホテルの一室、といったところでしょうか? ただ、長年使っていなかったような感じがします。
窓の外を確認しようとしましたが、窓には外から板が打ち付けられていました。
設置型の魔動ランプに灯が付いているので、視界は問題ありません。
部屋のドアを確認すると、もちろん開きませんでした。
私は仕方なくベッドに座ります。そして、こうなる前の記憶を探りました。
たしか、夕暮れカフェに行って、その帰りに酔い潰れていたターフ子爵を見つけた。
介抱しようとしたところで、カールさんが現れ、彼に引き寄せられた……。
「つまり、カールさんがここへ連れてきた?」
あの心臓の跳ね方は、獲物を前にした興奮。それと、……恨み?
まさか、カールさんが呪いをかけた本人?
とにかく、状況を確認しなければ。
私は特異魔法を使って、周りの様子を探ることにしました。
◆ベンジャミン・ターフ視点◆
ベンジャミン・ターフが目を覚ますと、見知らぬ部屋にいた。
広くて、寒くて少し埃っぽくて、薄暗い。
天井が高く、貴族の邸宅によくある玄関ホールのようだと思った。夜会を主催した際の、会場になる場所だ。
だが、なぜか既視感もある。
ベンジャミンは、自分がなぜこんな場所にいるのか、理解できなかった。
意識を失う前は、確か、馴染みの酒場で酔い潰れていた筈だ。音れの内に渦巻く、恐怖を紛らわせるために……。
「おや? お目覚めですか? ターフ子爵。二日酔いは直しましたので、頭痛などはないかと思いますが」
女の声が響く。知っている女の声だ。
「お、お前、は……」
「オリビア・ピエリス。あなたの昔の婚約者の妹、ですね」
「そして、チャールズ・ピエリス。あなたの義弟になるはずだった男ですよ〜」
「ヒィ──!?」
慌てて起きようとしたが、両手両足がベッドに拘束されている事に気づく。
「ヒィッだなんて、酷い反応です」
「昔はリビー、カールと呼んで本当の妹弟のように、可愛がってくれてたじゃないですか〜」
「お、お前らが、ノーリーン達を──!?」
「そうです。いや〜、姉の恨みを晴らすのに、三年もかかってしまいましたよ〜。まあうち二年は気づかなかったのですが……。
あなたにお子さんが生まれる前で良かったです。だって、ご両親揃って亡くなってしまうなんて、可哀想ですからね!」
「な、なんで、こんな事を……」
「おや? まさか覚えていない? 姉様にあんな酷い事をしておいて?」
「せっかくだから、この人にも聞いてもらいましょうね〜!」
カールは、近くのソファーにかかっている布を剥いだ。
その下には、ベンジャミンもよく知る人物、ジミー・モスがいた。ダニー・モスの弟だ。
「〜〜〜〜っ」
猿轡をしているので、言葉を発することはできない。
「ああ、苦しいですよね? 口のやつは外しますね〜」
「……っ」
ジミーは猿轡を取られても、恐ろしくて声を発することができない。
「心配しなくても、アンタのことは殺さないから安心してね〜」
狂気に満ちた目のカールに言われて、ジミーは更に青くなった。
「さて、ではベンジャミン・ターフ子爵が我が家に行った事を説明しますね」
白い壁に映像が映し出される。
魔動投影機を使っているようだ。
そこへ、活画が映し出される。
ピエリス子爵家長女エミリーと、ターフ子爵家跡取りベンジャミンの婚約が整ったのは、二人が七歳の頃だった。
理由はベンジャミンがエミリーを気に入ったことと、彼女の家と共同で事業を始める予定だったからだ。
それから十年後、二人は貴族学園に通い始めるが、ベンジャミンは他に愛する人ができてしまった。男爵家の令嬢ノーリーンだ。
彼はノーリーンと浮気を繰り返し、それは学園を卒業してからも続いた。
ベンジャミンはノーリーンと結婚する事を希望したが、ピエリス子爵家との事業は動き始めてしまった。
このまま、婚約を解消するにも、自分の有責になる。
そこでベンジャミンは、ダニー・モス、イーモン・ファーンの仲間と共謀して、ピエリス子爵家を没落させようと考えた。
実際、ピエリス子爵家は生活には困ってはいないが、裕福ではない。
少し綻びが生じれば、破綻は容易だった。
ベンジャミンはまず、ピエリス子爵の領地の水源に毒を混ぜた。
といっても、死ぬほどのものではない。しかしそれによって、領民は次々に倒れた。
当時のピエリス子爵はすぐさま調査をして原因を突き止め、その結果を役場に提出した。
次に、役所に勤めるミック・サプリングに金を積み、書類の改竄を命じた。内容は、ピエリス子爵が支援金目当てに、意図的に毒を撒いたという内容だ。
ピエリス子爵はこれにもすぐに抗議した。しかし、それを覆すには多額の費用を払って裁判を起こすしかない。
そんな大金はピエリス子爵家には無いため、ベンジャミンは馴染みの金貸しと嘘をつき、評判の悪い裏ギルドの金貸しを紹介した。
改竄された書類の内容は覆ったが、ピエリス子爵家は金貸しに無理な返済を迫られ、破綻。
毒を撒いた犯人も有耶無耶に。
こうしてベンジャミンは無事、ノーリーンと結婚することができた。
「ここまでっだったら、私達も諦めました」
「貴族の足の引っ張り合い、潰し合いに負けだんだってね」
「でもあなた達三人は、エミリー姉様をさらって三人で一晩中、襲って穢しましたよね?」
「──っ」
「は? ベンさん……?」
「その時に、姉様に違法薬物を摂取させ、その影響でエミリー姉様は死んだのです」
「それを片付けるのに、何も知らないジミーさんを使ったのは流石に可哀想ですよね〜」
「は? え?」
「覚えていませんか? 三年前の冬。いきなり呼び出されて、何かをターフ子爵の領地にある湖に捨てたのを……」
「……あ」
ジミーには心当たりがあったようだ。
魔動映写機ではその様子が活画で再現されている。
そして、驚きと軽蔑をこめた目で、ベンジャミンを見た。
「故に、我々の恨みを理解してもらえましたか?」
活画はエミリーが湖に捨てられる場面で終わった。
「……な、なんでオレ以外の奴も……」
「ミック・サプリングとティモシー・サップ、ノーリーン夫人はまあ、巻き込まれた形ですからね。練習台になっていただきました。
イーモン・ファーンは情報をいただくためですね。楽に死ねる薬があるとわかると、ペラペラと真実を話してくれましたし、『梟』にも余計な事を話さないでもらえました。
実にクズで、助かりましたよ」
オリビアは、感慨深気に頷いた。
「あ、ちなみに、楽に死ねるというのは、呪いが今すぐ解けて、すぐに死ぬことができるもので、痛みと苦痛は普通に感じるんですけどね! むしろ呪いで死んだ方が痛みをほとんど感じない分、楽だったんじゃないかな〜?」
カールは戯けたように説明する。
「残念ながら、一人分しか作れなかったんですけどね。時間がなくって。
まあ、ダニー・モスは口封じのためにすぐに命を奪ったのはちょっと、残念でしたね。あの黄緑王子、なかなか厄介でした」
「なので、あなたには直接呪われた理由をご説明して、恐怖に慄きながら呪いを長く味わっていただこうと思った次第です!」
「い、一体、いつ俺たちに呪いを? どうやって?」
ベンジャミンはそんな事を口走る。
どうにかして、自分の恐怖心を紛らわせたかったのと、なんとか時間を稼ぎたかったのだ。
「おや、三ヶ月ほど前のザンの仮面舞踏会で、あたしとお会いしましたよね?」
とオリビアが語る。
「え? ……あ」
ダニー・モス、イーモン・ファーンと共に参加した、約三ヶ月前のザンの仮面舞踏会で、確かに三人は一人の女と出会った。
仮面をしているというのに、どうしても魅力的に見え、なんとか四人で休憩室へと誘い込んだのだ。
その後は、四人で楽しむ予定だった。彼らは一人の女性を三人で嬲るのが好きだったのだ。
女は焦ることなく、ルームサービスを頼んだ。そんなサービスがあったのかと驚いた三人だが、それよりも女の機嫌を損ねてはいけない。
女の誘いに乗り、運ばれてきた赤ワインと食事をいただいた。
独特な風味の赤ワインは意外にも悪くなかった。
だが、三人の意識はそこで途絶え、気がつくと女は消えていた。
「まさか、軽い魅了魔法でここまで、簡単に釣れるとは思いませんでしたよ」
「おいしかったですか〜? エミリー姉様の赤ワインは?」
「エミリー、の?」
「あの赤ワインにはね、エミリー姉様の血液が原料の、呪薬が入っていました。呪いの材料には恨んでいる本人の体の一部が、最良ですからね。
まあ、本人が恨んでいなければ何も無いのですが、いやぁ、エミリー姉様は相当恨んでいるのですね、あなた達のことを」
「……ミック・サプリングとティモシー・サップはどうだ? 仮面舞踏会には参加していないだろ?」
「ティモシーは酒場で相席になった時に、ミックは脅して飲ませました」
「ノーリーンは……」
「たまたま、夜のお店に来たのでその時に」
とチャールズ。
「夜の、店?」
「あれ? 知りません? 最近流行ってる女性向けの夜のお店。本番行為はNGですが、それ以外はオッケーな女性向けに性的サービスを行うところ。あ、男娼ではないですよ? 一応」
「……」
ベンジャミンは確かに 、今年に入ってから、夜にノーリーンがどこかへ行くのは知っていた。
だが、まさかその先が、そんないかがわしい店だとは……。
「さて、ネタバラシも済んだところで、そろそろお時間です。最後の仕上げといきましょう」
部屋の天井いっぱいに魔法陣が現れ、そこから顔が三つ、腕が三対ある巨大な半透明の女性が現れる。
その顔は、ベンジャミン達が命を奪った女性──。
「エミリーっ!?」
エミリーはベンジャミンの顔を見ると──嬉しそうに笑った。




