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地獄耳のジャスティーナ 〜音量調節魔法は意外と結構、強いです!?〜  作者: 彩紋銅


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10テスト合格と事件について

 目を閉じ、耳を澄ませて、周りの音に意識を集中させます。


『さあ、今朝仕入れたばかりの新鮮な魚だよ!!』


『あと、必要なのは……』


『こいつは隣国で流行っている珍しいフルーツだ。試食してくれ』


『美味しいわね。いくつかもらおうかしら』


『うわーん!』


『あらあら、いきなり走るからよ』


 馬車が止まっているのは、黒い時計のモニュメントが目印となっている広場です。商店が立ち並ぶ場所なので、お店の方や買い物客の会話などが耳に届きます。


 どうやら、こっちではないわね。

 別の方向に意識を集中させます。


『ねえ、新しくできたカフェ行きましょうよ!』


『いいけど、人多くないか? 初日は整理券配ってたぞ?』


『最近変な魔法具売ってる店、多くないか?』


『わかる! オレの知り合いも、違法のやつ掴まされて、危うく捕まるところだったらしい』


『スターチャームの新作が出たそうよ!』


『見に行ってみましょ』


 スターチャームは、アクセサリーのブランドですね。新作出はちょっと気になりますね。

 っと、いけない。こちらも違う。


『ああ、なんで彼女は浮気をやめないだろう?』


『そんな女、別れろよ。お前、金ヅルとしか思われてないって……』


『ちょっと、どうしてくれるの! このドレス高かったのよ!?』


『も、申し訳ございません……』


 こちらはお労しい会話が多いけど、こちらも違いますね。


『今日は午後から雨らしいよ?』


『マジ? こんなに晴れてるのに? 配達は早めに行った方がいいかな?』


『お姉さん美人だねぇ。これからオレたちとお茶しない?』


『見てわからない? うちの店今、めっちゃ忙しいのよ? あんたらこそヒマなら手伝ってくれない?』


『──おい、聞こえているか? ジャスティーナ嬢』


「!」


 これは……。


『聞こえているか? ジャスティーナ嬢。僕はパーシーという。『梟』の一員だ。聞こえているなら、何か返事をしろ。……できるかどうかは知らないが、何かサインを送れ』


 これが、テストの声?


 私は、エルドレッド殿下とロナルド様を見ます。


「どうだ? 見つけたか?」


「はい、おそらく。パーシーという方が、私の名を呼んでいます」


「おお! では、我々にも聞かせてくれ」


「はい」


 私はその声を、お二人にも聞こえる様に調節します。


『ジャスティーナ嬢、聞こえているか──』


「確かにパーシーの声だ!」


「答えてもよろしいですか?」


「できるのか!? いやまあ、できると思ってはいたが!」


「ええ。聞こえる範囲なら大丈夫です」


「是非やってくれ!」


「では──」


 私は自分の声を、パーシーさんにだけ聞こえる様に調節して、届けます。


「初めまして、パーシーさん。ジャスティーナです」


『うわ!? なんだ!?』


「貴方の耳にだけ届くように、私の声を調節しています」


『な、なるほど、エル様が言っていた通りのお嬢様ってことか……』


 どうやら声が届いたようです。


 ……エル様って、エルドレッド殿下のことでしょうか?


「ジャ、ジャスティーナ嬢! 俺の声もパーシーに届く様にしてくれ!」


 エルドレッド殿下は、子供の様に目を輝かせながらはしゃいでいます。


「わかりました。では──」


「おい、パーシー聞こえるか?」


『え? エル様? ジャスティーナ嬢と一緒にいるんですか?』


「ああ。ロナルドもいるぞ! 時計広場に停まっている黒い馬車の中にいる。

 君のいる場所から見えるだろ? 君も早く来い!!」


『ああ、はい。わかりました、すぐ向かいます。

 ジャスティーナ嬢、魔法は解除して大丈夫だ』


「あ、はい」


 言われた通りに魔法を解くと、パーシーさんの声は聞こえなくなりました。


 それから五分と経たずに馬車の扉が叩かれます。


「パーシーです。入ってもよろしいですか?」


「おう。入れ!」


 エルドレッド殿下の言葉に、馬車の扉が開きました。


 思っていたよりも早いです。声の場所から、到着までもっと時間がかかると思ったのですが。


「パーシー・ホスタ。『梟』の一員っす」


 パーシーさんは、意外にもとても若い男性でした。

 少なくとも私よりは年下。妹のルイザと同じくらいに見えます。

 ルイザは私の二歳年下なので、十六歳か十七歳くらいでしょうか?

 茶髪に赤い瞳の、ごく普通の少年ですが、どことなく気品があります。服装は、貴族の平服といった感じです。


 パーシーさんは私の隣に座りました。


「パーシーは元々、特殊諜報部隊『鴉』の一員だったんだが、その部隊は解体されてしまってな。

 それで『梟』にスカウトしたというわけだ」


「エル様、いきなり人の秘密をバラさないでくれます?

『梟』はまだしも、『鴉』の方は、バラしちゃダメなやつっスよ?」


「もう無いんだから大丈夫だろう? それに、ジャスティーナ嬢はすでに仲間だからな! 問題無し!!」


「エル様、適当なこといってますね?」


「そんなことはない!」


「しかし聞いていた以上のスペックですね、彼女」


「え?」


「だろ? さて、テストの方は合格でいいな」


「ええ!?」


「というわけだ。よかったな、ジャスティーナ嬢!」


「あ、ありがとうございますぅ〜?」


 あら〜、合格してしまいましたわ〜。


 マズイですわ〜。


「では、早速、詳しいことを話そう」


 これ、もう逃げられないやつですわ〜。


 ◇


 その後、馬車の中で改めて事件について詳しく説明されました。


「肉体が崩壊する奇病、仮に『崩壊病』と呼ぶが、実際には病かどうかも分かってはいない。

 おそらく呪いの類だろうが、名前がないと不便なので、そう呼ぶことにする」


 とエルドレッド殿下。


「こちら、資料です」


 ロナルド様が資料を渡してくれます。


「ありがとうございます」


「診察した医療師の見解では病原体の類は見つからず、肉体自体は健康そのものという判定が出たそうだ。

 つまり、肉体自体が己の肉体が崩壊していることに気づいていない、あるいは──その状態が自然だと認識してしまっているのかもしれない。

 治療師の治癒魔法も受け付けなかったという、記録もある」


 エルドレッド殿下の説明と資料によると、現在、この崩壊病に罹患している、あるいはしていたのは四人。


 ティモシー・サップ、男性、三十歳。

 ミック・サプリング、男性、三十四歳。

 イーモン・ファーン、男性、二十四歳。

 ノーリーン・ターフ、女性、二十五歳。


 発症したのは、大体三ヶ月ほど前から。

 指先から徐々に崩壊していくが、痛みはほとんど感じないとか。

 そして重要な器官が崩壊し、死ぬまで意識はあるというのは王宮で説明された通り。


「ティモシー・サップは裕福な平民や下級貴族向けの質屋だ。外翼区に店を構えている。独身だが内縁の妻がいるそうだ。

 ミック・サプリングは東部政庁(役所)に勤めている職員。役職は財務監査官の補佐。目立ったところはないが、周りの評価は真面目な人物だったそうだ。家族は妻子がいる。

 イーモン・ファーンは男爵家の三男。家の金で遊び歩いている様な人物だ。独身で婚約者もいない。

 ノーリーン・ターフはターフ子爵家当主の妻で、唯一の女性だな」


 う〜ん、この説明だけを見ると、繋がりが分かりませんね。

 強いて言うなら、みなさん東部に住んでいることくらいでしょうか? 年齢層も微妙に違いますし……。


「そのうち、ティモシーとミックはすでに亡くなっています」


 と、ロナルド様。

 最後には肉体は完全に崩壊し、赤黒い泥の様なものがベッドに残されていたと、資料には記されています。

 どうしようもないので、その泥をシーツごと棺に納めて火葬したとか。

 火葬なのは、病の可能性を考慮してでしょうか。


 何にせよ、悍ましいですね……。


 そして、イーモン・ファーンとノーリーン・ターフは罹患していますが、まだ生きてはいるそうです。

 しかし、すでに自力では動けない状態とのこと。

 それぞれの家は貴族なので治療も医療も十分に受けられるというのに、回復の兆しはないそうです。


「とりあえず、それぞれの家族にでも話を聞こうと思う。ジャスティーナ嬢はそれに同行して、特異魔法で探って欲しい」


「わかりました」


 もう、こうなったら、腹を括りますわ。


「あ、その前に。ジャスティーナ嬢。仕事の時は俺のことをエルと呼ぶ様に」


「エル様、ですか?」


 流石に敬称はつけますね。


「そうだ! ジャスティーナ嬢はそうだな。ジャスと呼ぼう!」


「あ、はは、ありがとうございます。エル様」


 そんなに嬉しそうにされると、断れませんわ〜。


 そうして私たちはこのまま、患者の家を尋ねる事になりました。








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