1夜会と浮気確定と暗殺計画
◆◇◆
「お姉様、わかっていますよね?」
「もちろんよ!」
私と妹は、誰ともダンスを踊ることもなく、豪華な食事にも目もくれず、ある人物を探しています。
まぁ、その相手がいないと、ダンスが踊れないんですけどね。最初のダンスを、彼以外と踊るわけにも行かないですし……。
「お姉様の婚約者の浮気を暴いて、証拠を確保する。アイツを見つけたら、すぐに私を呼んでくださいね?」
本日は、王宮主催の夜会。
王族や知り合いへの挨拶を終えるなり、私の婚約者は『友人に会ってくる』と言って早々に姿を消してしまいました。
そんな彼には現在、浮気の疑いがかかっています。
……まあ、学園時代から真っ黒だったという噂ですが。
「記録用の魔動具も持ってきているわ。ほら」
私は胸元の赤いブローチに触れ、対策が万全であることをアピールしました。
これは映像と音声を記録できる魔動具で、ラベンダー色のドレスにもよく映ています。
ちなみに、妹のルイザは対照的なローズタンドル色のドレスを纏っています。
「お姉様ったら、いつも変な噂ばかり記録して、容量をいっぱいにしちゃうんだから!」
「だって、どれもこれも貴重なお話なんですもの! 逃すなんてとんでもないわ!」
別にどこかへ情報を売るわけじゃありません。
あくまでも個人的な趣味です。……たまにお茶会等で、話題にしたりはしますが。
もちろん、本当にヤバい情報は漏らしませんけれど。
「だから、私を呼べと言っているのです。
……それにしても、挨拶が終わったらすぐに姿を消すとか、何を考えているのでしょうね。あのボンクラは」
妹のルイザは眉間に皺を寄せながら、周りを見回します。
秋の収穫祭を兼ねたこの夜会は、他の王宮主催の夜会と比べると比較的気安いものではありますが、婚約者を放置するなんて愚行は普通はしません。
決まった相手がいるのなら、せめて最初のダンスを一緒に踊るのがマナーです。
たとえ、他に愛する人がいたとしてもね……。
「ルイザ、あまり難しい顔をしていると、あなたの婚約者が見つからないわよ? 私のことより、ルイザの婚約者を探すことのほうが大切だと思うけど。我が家の跡取りは、あなたなのだし」
姉妹なので、紫色の髪と赤い瞳という色合いは同じですが、ルイザの方が色が柔らかく、顔立ちも可愛らしいので、殿方には人気があると思うのですけどね〜。
でも、訳あって現在、ルイザには婚約者がいません。
「それも、あの男がお姉様を選んだせいですけどね。おかげで、我が家の将来設計は見直しをしなければならなかったんですから!」
「そうね〜。ん?」
その時、私の耳はあることを捉えました。
『──様のご主人、また愛人を囲ったそうよ』
『え? すでに二人いませんでした?』
これは、どこかの旦那様の愛人のお話。
『クライヴ殿の活躍は、目を見張るものがありますな』
『ええ。さすが王太子殿下専属の護衛騎士です』
こちらは王太子殿下の護衛騎士のお話。
『見ました? ──様のあのネックレス』
『確かにかなり大きなダイヤモンドでしたけど、あのお家、財政大丈夫なのかしら? その、良くない噂を聞いたのですが……』
『もしかして、最後に散財を? 主人が時間の問題と言っていましたのよ?』
『そろそろ潮時でしょうか……?』
これは、とあるお宅の財政事情のお話。
フフフ、どんなに遠くの会話でも、私の耳には届くのです。
「お姉様? もしかして、周りの噂話を聞いてました?」
「い、いいえ? ナイジェル様を探してましたのよ? ホントですのよ?」
ルイザに疑いの目で見られたので、慌てて誤魔化します。
「……とにかく手分けをしましょう。魔動目印の準備は?」
「はいはい」
私は腕に巻いたブレスレットをルイザに見せました。
赤く丸い石がひとつあしらわれたシンプルなデザインで、ルイザも同じデザインの色違いをつけています。色は青。
これは、魔動目印という、お互いの居場所がわかる魔動具です。
通話などはできませんが、こういった夜会などでは結構便利です。通信機器を持ち込むのは、マナー違反なので……。
「では、見つかったら合図を送ってください。私も見つけたら送りますので合流しましょう。勝手に一人で突っ走らないように!」
というわけで、これからは自由行動ですね。
皆様の噂話を聞かせてもらいましょう。
あ、ついでに私の婚約者も探しますね!
◇
私はジャスティーナ・サルビア。
歴史ある伯爵家の長女で、家族は両親と妹が一人。
領地に魔の森があるから、少しばかり荒事に慣れているごく普通の伯爵令嬢です。
趣味は様々な噂話を密かに聞くこと。
特技、というか特異魔法は──。
『──おい準備はどうなっている?』
『問題ない。このまま──』
あら?
夜会会場から少し離れた場所で耳を澄ませていると、噂話とは毛色が違う、不穏な会話が聞こえてきます。
気になったので、その会話に意識を集中させます。
『王太子を亡き者にする──!』
ええっ!?
これは、暗殺の相談? 計画を練っている状態!?
王太子を亡き者にするって事は、王太子殿下の命を狙っているってことですよね!?
これはとってもマズイですわ!
なんとかしたいけど、私の特異魔法はあまりバラしたくないですし……。
それなら、偶然計画を知ったという体にするしかない!
それにはまず、会話している方々の近くに行かないといけませんね。
この聞こえ方の距離なら、会場から遠くはないはず。相手の周りの音を確認して……。
声の響きから多分、外。
水の音、草木が微かに揺れる音がするから、会場隣の庭園でしょうか?
あそこには噴水の設置された大きな池というか水路? がありましたし、悪巧みの音を打ち消すなら悪くない場所でしょうか?
そういえば、池の周りにはあちこちにガゼボがありました。
夜会の時は庭園もライトアップされるし、自由に行き来ができるので、親しい仲間でそこに集まっていても不思議ではないですね。
私が音を拾える範囲だから、そう遠くにはいないでしょうし。
「よし!」
私はドレスの裾を捌きながら、早足で庭園に向かいました。夜会用のドレスだと走れないので!
◇
『次期国王には、アンブローズ様ではなく、エルドレッド様の方が相応しいのだ』
『老ぼれどもは、古い与太話を盲信していて困る──』
『なんとしても、先生の悲願を叶えるのだ!』
……人数は三人でしょうか?
話し声を頼りに、庭園で謀反人達を探します。
といっても、王宮の夜会会場に隣接した庭園は広いのだけど。
庭園の中心にある噴水のある池はかなり大きく、その周囲にはいくつものガゼボが点在しています。池の周りを散歩するだけで、かなりの運動になるのです。
夜会用のゴージャスドレスを着て早歩きって、かなりきついですわ〜。
さて、この国には二人の王子様がいます。
第一王子のエルドレッド殿下と、王太子でもある第二王子のアンブローズ殿下。
そう、王太子はエルドレッド殿下ではなく、第二王子のアンブローズ殿下なのです。
理由は、この国の成り立ちに関係しています。
この国は元々、一人の男と一羽の小鳥によって興されました。
男は神の化身の金色の小鳥に導かれたとか、男自身がその小鳥の化身だとか、その小鳥がその男になったとかとにかく諸説ありますが、とにかく金色の小鳥に関係している人物なのだそうです。
そして、その始まりの男でもある初代国王は、その小鳥と同じような金髪をしていたので、同じ金髪であることが国王の条件となりました。
ちなみに、瞳や肌の色には言及はありません。
性別は男性の方が優先されますが、やむを得ない事情があれば、女性が王位を継ぐことも許されているので、他国よりはその辺りは柔軟です。
その影響で貴族などの跡取りも、女性でも特に問題なかったりします。
ただ、王様になるには金髪でなければダメなのです。
第一王子のエルドレッド殿下は若葉のような黄緑色の髪、第二王子のアンブローズ殿下は金髪だったので、それだけの理由で王太子は第二王子になったのでした。
まあ、第一王子派の方々からすれば、冗談ではないという話でしょう。
エルドレッド様は、周りを引っ張っていくような俺様系。アンブローズ様はとてもお優しい方ですが、少々気弱なところがあると言われています。
お二人とも優秀な方ではあるのですが、どうやらエルドレッド様を推す方々が多いようです。
まぁ皆さん、思うところはあるでしょうが、流石に暗殺はやりすぎです!
ちなみに、私は夜会などで挨拶をする程度で直接お話したことがないので、お二人のことは良くは知りません。年齢も違いますしね。
正直、相当アレな方でない限り、周りがしっかりしていればどうにでもなると思っています。
まあ、私が王宮の政に関わることがないから、そんな無責任な考えを持てるのでしょうけどね。
『なんとしても、今宵の夜会で──』
声が近くなりました。──って、今宵、仕留めちゃうつもりなの!?
マズイ、マズイですわ。早く、相手を突き止めないと……!
「ああ、ミキャエル、なんて美しいんだ……」
「ナイジェル様だって、とても素敵です……」
えっ!?
この声……、ナイジェル様!?
まさか、こんな時に自分の婚約者の浮気現場を見つけるなんて!
どっちを優先するべき!?
いえ、王太子殿下の命狙ってる輩をなんとかする方が先決ですね!!
ナイジェルの方は──そうだ!
大音量で実況されれば、ルイザや両親が気付いてくれるはず!
後のことは、家族に任せましょう!!
私は人気のないベンチで睦み合っている、ナイジェル様とその浮気相手の発する音を、大音量で響かせるように設定して二人に魔法をかけ、再び王太子殿下の命を狙う謀反人達の元へと向かいました。
ちなみに、本人たちは自分たちの発する音や声が大きくなっていることに二人は気づかない様に細工してあります。
実況時間が十分程度なのは、温情です。
ナイジェル様は私の特異魔法のことを知らないので、言わなければバレないでしょう。
私の特異魔法は〝音量調節〟。自分の周りの音の音量を、自由に変えることができます。
調節できる範囲は、私の耳に届く範囲の音。
遠くに居ても、周りがうるさくても、聞きたい会話だけを抽出して、好きな音量で聞くことができるし、他人に聞かせることもできるのです。
まあ、たったそれだけの特異魔法ですけど、噂話を聞くのにはかなり役に立つ魔法なのです。他にも色々と応用ができますし。
ちなみに、そのほかの魔法は一応全属性耐性がありますが、生活魔法レベルなので、生活が少し楽になるくらいの効果しかありません。
一応貴族なので魔力量はそこそこあるけど、それを活かす才能は私にはなかったのです。残念ですわ。
逆に妹のルイザは魔法の才能があるので、そちらの道に進む予定だったのだけど……。
『では、手筈通りに──』
わあああ! 超、マズイですわ!!
このままじゃ間に合わない!
もうちょっと、待って、そこに居て〜!!
『ああっ、ナイジェル様っ!』
『ミキャエルっ! 愛してる!!』
ナイジェル様と浮気相手の声が、大音量で辺りに響きます。
うるさいですっ!
自分で魔法かけといてなんですが、もう少し静かに致してくださいまし!!
『なんだ、この声は!?』
『痴話喧嘩、じゃないな。王宮主催の夜会で、破廉恥な……』
『……少し様子をみよう』
やった!
謀反人たちが足を止めました!
流石、私! 計算通りです!!
そのまま、勢いよく角を曲がった、その時──。
「ひゃあ!?」
「──っ!?」
私は誰かに激突し、そのまま抱きとめられる形になりました。
「も、申し訳ございません!」
顔を上げると、そこには若葉の様な、瑞々しい黄緑色の髪──。
「……気をつけろ。淑女が夜の庭園を走るものではない」
私を受け止めたのは、第一王子のエルドレッド殿下その人でした。




