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おでむかえ

マンションのエントランスに、空き缶が置いてあった。

おまけに煙草の吸い殻が周囲に落ちている。

こんな塵の散乱、管理人が見落とすはずがない。

俺は深い溜息を零し、空き缶と煙草を拾い上げた。


動悸が、速まる。


エレベーターは、俺の部屋がある階で止まっていた。

呼ぶために出した指が力加減を忘れ押しすぎ、痛い。


動悸が、また速まる。


早鐘が耳元でわんわん喚く。


どうせ、居るのだ、落ち着け。


言い聞かせても治まらない。

立ち眩み、壁に手を。

よろめきながらエレベーターから降りると、秋風と一緒に獣の匂いがした。


口から心臓が飛び出そうだった。


くらくら、どきどき、それらに耐え歩く。


こちらをまっすぐ見つめる獣の眼が、薄暗がりに浮かんでいるのが見えた。

口元は歪んでいる、牙は無い。

そこそこの巨躯からは、凄まじいひとつの感情が滲み出ていた。

ドアの横に寄り掛かり、誰がどう見ても俺を待ち伏せている獣。

俺がどういう目に遭うのか誰も想像しないだろうけど、きっと羨望されるのだろう。

獣はなにせたいそう、うつくしい。


けど、俺は、敢えて、無視をした。


それに目もくれず声も掛けずドアの施錠を解除し滑り込もうとして、捕まった。

腕を取られ引っ張られ、後ろから抱き絞められた。

挨拶代わりにうなじに一噛み。

歯形を舌でなぞられ全身が熱くなる。


「な、やらせろよ」


獣はそれが当然とドアを開け、俺とその身を玄関に押し込む。


「いやだよ」


俺はすげなく答えた。


「じゃ、やらせてください」


「言い方変えても同じ。いやだ」


「いーだろ、やらせろ」


「いやだ」


「ヤダ」


「いやだ、出てけ」


「なんでそんな、意地悪いうんだよ」


内臓破裂。

そいう危機に瀕するほど、強く抱き締められる。

熱を帯びた雄の部分が当たる。

荒々しい呼吸が耳を掠める。

苦しい腹いせに股間を撫でてやると、獣が小さく身震いした。

恍惚の吐息に、笑みが零れそうになって耐えた。


「そーろー」


「うっせぇっ」


耳を甘噛みされる。

昂り治まらない雄を押し付けられる。


「ぜんぶっ」


切羽詰まった訴えが、腹に、響く。


「てめぇのせぇだっ」


肩を震わすの我慢しているのを、お前はきっと気付かない。


お前の前では誰しもが雌になる。

お前はそういう、うつくしい獣。

誰かの隣に居る、その誰かが憎悪されるような、そんな存在。

お前はそれを知っている。

だからお前は雌を選びたい放題だ。

食い散らかしても、誰も文句も言わない。


だけど、この、有様だ。


ふうふう、俺のうなじをしゃぶってまた満足を得て、足りない。

養うを覚えたての青少年のように、俺で満足、足りないを繰り返す。

濡れたもので擦り合わせる音がにちゃにちゃ。


「お前じゃなきゃ、だめなんだ…」


涙が滲んだ。

どうせ後で泣くから、まぁいいか。


俺以外もお前は抱く。

けど、お前は俺じゃないと、駄目。

知ってる。

なんでだろうな?

俺も不思議だ。


「たのむ…もう、むりだ…」


胸の中に何が灯ったと思う?

至上なる優越感だ。

ぞくぞくする。

腰が抜けた。

抱き締められているから、大丈夫だ。


なぁ、と。

囁き、顔を顔に擦り付けてくる。

ああ、獣め。

ちゅうって、キスしながらそんなに甘えられたらもう。


「明日、休み」


よし、ってする以外選択肢はなかった。


獣は土足でベッドへ俺を運んだ。

それから服を脱がされ逃げを許されず、荒っぽく情熱的に求められた。

嬉しそうに幸せそうに、俺でたくさん満足してくれた。

俺に愛を、注いでくれた。

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