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透明な季節をこえて  作者: 葵 白
初夏
2/2

窓辺の蒼風

※読む際の注意

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夏っぽいbgmと共にお楽しみ下さい

()びた鉄製の引き戸をガラガラと閉めると廊下の窓がふと目に入ってくる。少し濁った窓の奥はまるで(まばゆ)く光る幻想郷のようであった。涼しそうに(なび)く木々たち、換気のために開けられている窓からは、蝉や(うぐいす)の鳴き声が絶え間無く聴こえてくる。若葉や花の香りを含んだ穏やかな薫風(くんぷう)を全身で感じてぼんやりとしていると、遠くから聞こえてきたベースギターの低い音色にハッとさせられる。


「確か珈琲(コーヒー)だったけな。微糖かぁ。」


我を取り戻した俺はそう呟きながらギシギシと鳴る廊下を軽い足取りで歩いていく。鈴木 七夏(すずき なのか)、最近仲良くなってきたとはいえ、やはりまだよく分からない。少なくとも移動教室の時に見かけた鈴木は誰とも話していなかった。というかそれが第一印象だった為に最初は戸惑ったものだ。


『君が栢山(かやま)君が言ってた白川(しらかわ)君だね!私は2年4組の鈴木七夏、これからよろしくね!』


ふと春先の思い出が蘇ってくる。笑顔で自己紹介をする鈴木はとても清々しかった。栢山の説得もあり、俺はその日から部活がある日は毎日部室に通うようにしている。どうやら生徒会から文芸部は幽霊部員が多すぎると部長会議で釘を刺されたらしい。実際、現在の幽霊部員数は4人、文芸部約半数が幽霊部員だ。ちなみに部長も現在幽霊部員で今は栢山が部長代理だ。俺は特に予定も無いため毎日のように放課後部室に来ては本棚から気になった本を手に取り、それを読む。そんな日々を満喫している。



階段を降り、渡り廊下を歩いていくと自動販売機の目の前には鈴木がいた。


「ん〜……」


「どうしたんだ?ここの自動販売機ってそんなに悩む程の種類あったか?」


「あ、白川君!実は数学の先生が誰も職員室にいなかったんだよ。この問題の意味が分からなくてどうしよっかなと」


そう言うと鈴木は夏風に(なび)くスカートのポケットから紙切れを取り出した。


「うわ、俺はギブギブ、絶対無理」


ただの紙切れのくせにxやらyやら得体の知れないものが頭を突き刺してくる。


「だと思った、戻ったら栢山君に聞いてみることにするよ」


「ちなみに聞くけどよ、そんな事をわざわざ自販機の前で悩んでたのか?ここ日陰じゃねぇし絶対暑いだろ」


こう話してる間も、初夏(しょか)炎陽(えんよう)でジリジリと体の水分が直接奪われていく感覚がする。


「私微糖の珈琲が好きなんだけどね、、」


薄い、けれど形のある水のような声でこう言うと、鈴木は自販機の微糖珈琲を指さした。


「無いの!!」


水のような声はどこへ行ったのやら。どうやら相当この珈琲が好きなようだ。


「はぁ、、それで何を買おうかなって悩んでたの。ほかの自販機遠いからやだし」


「俺はやっぱこれが好きだな」


そう言って俺は麦茶を購入し、手に取った。


「鈴木はどうすんの?」


鈴木は少し悩む仕草をするとカルピスソーダを指さし、俺はほんの少しだけ申し訳なさそうにする鈴木を横目に500円玉を投入口に転がせた。そして栢山の分の冷たい三ツ矢サイダーを買うと2人で歩き始めた。




「そういえば今度のテストやべぇんだけどさ」


「知ってるよ、ていうか前々から栢山君いっぱい忠告してたじゃんか」


既視感のある台詞を上手い具合に受け取りながら続ける。


「国語教えてくれねぇか?作者の気持ちとかそういうの分かってるつもりなのに全然点取れねぇんだよ、、」


「話してたら国語得意そうって感じするのにね、何で日頃からあんなに小説読んでるのにそれが分からないんだろうねぇ」


「さぁな、何となく登場人物の心情は分かるんだけどいざ問題ってなったら答えられねぇんだよ」


「とりあえず教えるのはいいよー。ただし栢山君の時みたいに分からないからって逃げちゃダメだよ?」


「わかった。どの道小説読むのにも大事だろうからな」


そういった話をしているとベースギターの音色が近づいてきては離れていき、太陽の香りが強くなってゆく。




「たっだいま〜〜!!」


「おかえり、帰りに白川見なかったか?」


参考書から目を離した栢山が涼風(すずかぜ)に髪を(なび)かせている鈴木に聞いた。


「ここに居るぞ」


「おかえり」


「ほれ、三ツ矢サイダー」


そう言って結露(けつろ)した水滴を(こぼ)した三ツ矢サイダーを俺は優しく投げた。


「あんがとよ」


プシュッという音を出しながら栢山はキャップを開けた。


「ねー栢山君!数学教えて!」


栢山は喉の奥で爽快にはじける甘い炭酸に顔を緩めている。聞いてないな。


「おい鈴木、俺に国語教えてくれる話はどこいきやがった」


「えぇ〜〜〜、、、、」


鈴木も栢山に続きゆっくりとキャップを開け、シュワシュワと鳴るカルピスソーダを喉に流し込むと続けて言った。


「白川君は私に国語を教えて欲しい!私は栢山君に数学を教えて欲しい!」


「つまり?」


我に返った栢山は呆れた顔で鈴木に聞く。


「私が数学を教えられながら国語を教えたらいいんだ!」


「バカか」 「アホか」


俺と栢山の声が揃う。 ここまで考えなしだと流石の俺も呆れて栢山と目を合わせ少し微笑む。


「俺、後でいいわ」


すっかり雲の(みね)が立った窓の奥を眺めながら俺は答えた。


「いいの!?さっすが白川君!私の見込んだ通りだよぉ」


そう言って俺の席に鈴木が座った。鈴木の夏めいた笑顔に、俺は微笑を浮かべながら仕方無く本棚から本を手に取る。


「これが分からなくてさー……」


「あーこれはこうすれば……」





手に取った小説が30ページ程に差し掛かった頃、錆びた鉄製の引き戸が弱々しく動いた。


「や、やっほぉ」


鈴木とは違う、氷のように透き通ったひんやりとした声だ。俺は思わず声の聞こえた方に目を向けた。


璃瞳(るり)さん!?」 「瑠璃(るり)ちゃん!!」


そうしてピタリと先程までの難しそうな数式の雨は止んだ。

次回

突然部室に現れた謎の矮躯な少女。反応からして栢山と鈴木は知っているようなのだが…


6月17日

今日から本格的に活動を再開しようと思います。大学生になり時間もできたのでのんびりと執筆できたらうれしいですね。最近はそろそろ恋愛をしてみたいなと思いながらも女性との距離感が分からずつまずいてばかりです(´;ω;`)ウッ…。大学生とは難しいものですね。

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