第9話 『プロシェンヌ』~次世代の街~
「ヴィーセ……?? しらなーい」
失礼。ただ俺も存じ得ない。
「あ、貴方たち! オオルデンティリ・ヴェン・ヴィーセ様をご存知でないのですか?? なんと不敬な……!!」
凄まじい剣幕なのは賢人本人の方ではない。横の御付きの者である。
「落ち着いてくださいシェナレ。知らないのも無理ないわ」
「で、ですがヴィーセ様……」
「良いの。それにこの方々は恩人ですから、そのような物言いは失礼です」
「……申し訳……ございませんでした……ひっぐ」
御付きの方が深く頭を下げる。そして涙を流すのだ。異常である。それに何かこちらに加虐がある気分になるからやめて欲しい。
「と、ところでヴィーセさんも”プロシェンヌ”へ?」
「えぇ。旅先で論文の構想がまとまりましたので、予定を繰り上げて帰って参りました」
「ろんぶん。むずそー。すごそー」
「ふ、ふん。凄いなんてもんじゃありません! ヴィーセ様はもっと世に認められるべき……ま、まぁ取り掛かるのに時間はかかりますが……ははは」
「あーあ」
なるほど。通りで”ヴィーセ”なんて名前を聞いた事がないのか。才能がどうあれ、何も生み出してないのなら知り様もない。
それに、俺たちも人の事は言えない……。
「……それより、先を急ぐか。ここにいたんじゃ魔物が寄って来る……」
「そうですね……ではヴィーセ様、我々も……」
「……こういうのはどうでしょう。お二方もこの馬車に乗ってみては」
「え? 良いのー?」
「えぇ。ぜひお礼をさせていただきたいですし、何より許可証が無ければ”プロシェンヌ”には入れませんので」
これは渡りに舟……何だか利用してしまったようで悪い気もするが。まぁプロシェンヌに着いてまで門前払いされては堪らない。
「じゃあお言葉に甘えて……あぁそうだ。ロバも居るんで連れてきます」
あぁそうだ。蜘蛛の糸も仕舞っとかないとな。
「ロバ……? というのは、どこに居るんです?」
「は?」
「まさかその辺に放置を? 族に攫われたんじゃないですか?」
シェナレとかいう御付きの者は、縁起でない事を言う。そんなわけないだろー。俺やルペールの強さだって目の当たりにしたのだから、おいそれと盗みなど……。
「野盗は見境がありません……生きる為に悪事を働いているのですから……」
「そ、そんな……」
「申し訳ありません……ワタクシ共を助けて頂いたばかりに……」
「ヴィーセ様が謝ることはありません……!! もとはと言えば蜘蛛が……!!」
「ですが罪滅ぼしはするべきでしょう……できるならば捜索のお手伝いを……」
ヴィーセさんの気持ちは有難いが、今は夜……ウロウロしたって逆効果か。
「……ひとまずプロシェンヌに向かおう……今探したって」
「で、でも……あの子達バラされちゃったらどうしよう……!!」
「そうは言うがな……」
「ウチだけでも探すかんね!」
こうも意地を張られると
それにロバの腹ん中にはフェンも居る……もしあのチャックの中を見られたら、何をされるか分かったもんじゃない……。それについては俺も心配である。
「……わかった、なら俺も」
「お待ちください」
「えっ」
「族退治ならば憲兵に任せるべき。貴方たちは確かにお強い……けれど人数が足りない。なら一度街に入って……」
「ヴィーセ様の言う通りです! 今すぐ街に帰還しましょう! ヴィーセ様、憲兵の手配は僕にお任せを!」
「これで、問題ありませんね」
ヴィーセは落ち着き払った様子でそんな事をいう。実際、人手は足りない。時間もまずい。土地勘の無い俺たちよりも適任がいるだろう。
「ルペール。心配なのは分かるが、今はプロシェンヌに行こう」
「……はくじょうもの」
「何とでも言え……」
ルペールはだいぶと不貞腐れた様だった。まぁ仕方ない。多数決で無理やりにねじ伏せたのは悪いと思う。ただ最善の策ではあろうと思うのだ。
かくしてそんな風に促され、俺とルペールは馬車に乗り込んだのだった。
「ヴィーセ様。見えて参りました」
「えぇ」
シェナレの指す方角には、かの”プロシェンヌ”が在った。
プロシェンヌは”次世代の街”と呼ばれる近未来都市だ。かの街は夜でさえ明るい。都市から伸びる光の柱は、上空の分厚い雲を照らし、まるで空が昼の様だ。
馬車は静かに前進し、ついに門前に辿り着く。門番は二人。だいぶと武装した仰々しい連中だ。俺とルペールは馬車の隅の方に隠れる。
「ふふ。大丈夫ですよ」
「あぁつい……」
追放者の性である。
一方の馬車外では監査が行われる。応対するのはシェナレである。
「止まれ。身分証を確認する」
「オオルデンティリ・ヴェン・ヴィーセの馬車だ。急ぎの様がある。通せ」
「……ちっ。強情なガキめ。通れ」
何だか不愛想な対応だな……しかし通れたのなら良し。
俺たちはついに、次世代の街、”プロシェンヌ”へと入ったのだ。
門をくぐってすぐ、そこは息を飲む様な”歓楽街”であった。
飲食店、エンターテインメント施設、商業施設……地元の町じゃ見た事もない程煌びやかな光景だ。
「すご……」
ルペールが久しぶりに口を開く。まぁ無理もない。なかなか刺激的な格好をした女性も闊歩している。これはいけない。ヴィーセさんはこんな所に住んでいるのか……。
「では僕はここで……」
そんな事を言ってシェナレが馬車から降りる。どうやら憲兵の詰所に到着したらしい。
「憲兵の手配はお任せを……不服ですが、おい男」
「おい俺のことか」
「あぁお前だ。ヴィーセ様を任せる」
「……まぁ任せとけ」
シェナレ。お前は何かとむかつくな。
「それではワタクシが案内を……すぐ次の角を右へ……」
「ヴィ、ヴィーセ様??」
「? どうしましたシェナレ」
「角を右って……! よもやこの者達をご自宅へ……??」
「えぇ何か問題でも?」
「う……いえ」
「それではよろしく頼みますよ」
シェナレはすっかりしょぼくれた。
「ヴィーセさん……」
「大丈夫です。あの子はとても献身的な善い子です」
「そうは言うが」
「あの子、とっても分かりやすくって面白いでしょ? あはは。たのしー」
出会ってこの方、見た事もない晴れやかな笑顔を見せるヴィーセさん。この人はこの人でだいぶと拗らせているな。
ご覧いただきありがとうございます!
少しでも『おもしろい!』『たのしみ!』『期待してる!』と思っていただけたら『ブックマーク』と広告下の【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にしていただけると幸いです!
皆様の応援が力になります……! ぜひ評価お願いします!