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第7話 小さな仲間たち

 かの獣人指揮官ことシオンが去ってから数時間後。すっかり霧も晴れ、穏やかな鳥型魔獣が(さえず)る昼前頃。俺はトロンペで収穫した丸々とした果実にかぶりついていた。缶詰よりもだいぶ旨い。


「おーいカナター! なにタソガレてんのー! こっちこーい!」


「んあ」


 ”黄昏”などという慣れない言葉。ルペールはいつも背伸びをしていた。それこそ同僚のころからである。


「言っとくけどーシオンが帰ったのってガチ珍しいから。すぐ来るよ」

「そりゃ困るな……フェンもまだ目ぇ覚まさねぇってのに」


「もういっそ起きる前に出発するぅ??」


「……それもアリか」


 このままトロンペに居座っては、シオンの軍勢が滅ぼしに来るという。

 ……まぁ新顔の獣人が率いれる兵量などたかが知れてるだろうが、そもそもシオン個人であっても俺たちでは逃げるで精一杯だろう。


「と、言うがなルペール。足はどうするんだ」

「あしぃ?」

「移動手段な。いつもはお前に運んでもらって……まぁ昨日はフェンに運んでもらったんだが」

「おい! それは言わんでいいだろ!!」


「お前に人2人は運べんだろ」

「いや舐めすぎ! ていうか……あぁちょっとついて来て」


 ルペールに導かれるまま、俺は彼女のナワバリへと案内される。そこにはちっせぇ魔獣がとっとこ走り回っていた。その中には、俺らを森で襲ってきた奴がチラホラといる。


「お。この子達に見覚えがあるね」

「まぁな。お前謝れ」

「あれ? 謝ってなかったっけ?」

「謝ってたとしても謝れ」


「……ごめんなさい」


 ちっせぇ魔獣を抱えながら、魔獣共々ぺこりと頭を下げた。この野郎。

 とはいえまぁ感情に正直な反面、こういう素直な部分もあるもんで恨みにくい相手だ。


「……で? 別に謝る為に連れて来たんじゃねぇだろ? 用は何だ」


「あ、あぁ実はさ。フェンって子、変なんなっちゃって」

「変なん?」


「見た方が早いんよ。ウチが説明へたなん知ってるしょ」

「そうな」


 ルペールがナワバリの奥へと導く。

 そこには、一匹の小さな狼が眠っていた。まさかとは思った。


「……こりゃぁ……ふぇ、フェン?? フェンか?」

「変でしょ」

「変だよ」


 フェンは元の姿どころか、人型さえ保てない状態である。体力を使い過ぎてしまった……のでこうなったのか? 獣人が、こんな姿になるなんて聞いた事が無い。


「たぶん疲れて体力温存モードなんだろーね」

「つっても、聞いた事ねぇし……」

「あたまかたいなー。冬眠みたいなもんしょ。ほれフェンこっちおいで」

「そんな犬みてぇに」

「今はただの犬じゃん。ほれこいこい」


 まぁ言われてみればただの犬……か? この状態だと本人の認識はどうなるのか。フェンの意識はあるのか、ないのか。

 まぁ無事に戻ってから聞けば良い。



「まぁフェンはこんなんになっちまったが……今くよくよしてもしょうがねぇな……この森に残す訳にはいかないしよ」

「じゃあ(ウチ)で一番でっかい子に乗って脱出しよっか! 乗り心地ケッコー良いよ!」


「……つーか、お前も来るんか」

「ウチだってシオンに何されるかわかんないしー? カナタと一緒に冒険できるのもひさびさだしー!」


「……まぁ同僚(バディ)時代ぶりだからな。つーことは、お前が追放されて以来か」

「追放じゃない! ユウタイ!」

「勇退……難しい言葉使うな。馬鹿に見えるから」

「うそ?! なんでぇ??」


 とはいえ、フェンがこんな子犬状態じゃあ不安も多い。ルペールと愉快な仲間たちがついて来てくれんなら、それはそれは心強い。


「じゃあシュッパーツ! 目標は~……”プロシェンヌ”でけってーい!!」

「プロシェンヌ……これまた洒落こいた町を……」

「ギルドのころはめったに行けなかったよね~。ギルドのクソジジイ共が毛嫌ってたもん……でも~と、いうことは……!」


「ギルドの奴等も探すのに苦労するだろうな」


 コイツは本当に……本気の作戦なのか、はたまた自分の欲望か。

 まぁどちらにせよ次に向かう町として、隠れ蓑としては十分な判断だろう。



 我らは逞しいロバに乗り、のしのしとトロンペから脱出。再び”レユニオンの丘”を越え、”プロシェンヌ”へと向かうのである。

 俺と子犬状態のフェン、これにルペールと小さな仲間たちを加えた愉快でご機嫌な御一行である。


 今朝、俺とフェンをボコボコにしてきたのは”ハネトビうさぎ”という魔獣である。元はただの兎だったが、魔力の乱れで翼が生えた”変身種”である。

 逆に飛ぶ力を失った(ドラゴン)こそが”陸竜(ドラゴン)”だ。これは逆に”退化種”という。特に悪い意味などないが、区別の為にそう呼ばれている。


 ちなみに今乗っているロバだって魔獣だ。腹にチャックが付いていて、これを空ければ何でもかんでも中に入れられる。生物とは異なる特徴を持った”合成種”である。



「あ。そうだカナタ~。この辺にきのう陸竜(ドラゴン)が出たのしってる?」


 ルペールは唐突にそんなことを言う。かくいう俺は陸竜(ドラゴン)の話を知っている。

 奴らは本来もっと遠くに住む魔獣たちだ……がフェンが呼んでしまったもんでこの辺に何体かの陸竜が来てしまった。

 フェンの話では、今頃もシオン小隊を包囲し足止めをしている筈だったが……。小隊を逃し、それ以来どうなってしまったのかは分からない。


「あぁ……できるだけ警戒しながら進んで行かねぇとな」

「そうだねー。見っかったら逃げきらんないもん」


 運の悪い事に今向かう”プロシェンヌ”のその直線上のさらに先に陸竜の巣がある。もしかの陸竜どもが帰路についていたならすれ違って間違いないだろう。


「フェンがこの状態じゃなければ、出くわしてもどうにかなりそうなんだがな」

「……てか、その子のことウチは全然しらないんだけど。そも何?」


「……俺もよくわからん」

「まじ?」

「……出会ったのもたまたまだ。今一緒に居るのもたまたま……」

「街角でドンみたいな?」

「なわけないだろ」


「……じゃあ何?」

「倒れてた所を助けた」

「……それだけ?」


「あぁ。それだけ」


「ふぅん。”それだけ”でこ~んなちっちゃくなっちゃってぇ。おまえやるな~」


 ルペールは膝の上のフェンを”嗚呼(あぁ)よしよし”と可愛がる。フェンは大して懐いていないが、それでも余程大人しくしている。もう少し引っ掻き噛みつき選手権になると思っていたが、俺はうぬぼれていた。自惚れていたのだ。


「まぁそんなに語る事もない……今はただ治ってくれと思うばかりだ」


「プロシェンヌでバカンスれば治るんじゃない?? それかオシャな物食べれば」

「とはいえ金が無ぇな」

「金より愛っしょいえーい」

「愛じゃ何も買えねぇんだ」


「うわっ! 待って止まって!!」


「は? おいおい何だ」


「あれ。陸竜じゃない??」


 眼前には数体の陸竜が居た。何かを探すように頭をスレスレ地に垂らし、些細な物音か匂いかさえ逃すまいとするような姿である。


「離れよう」


 奴らの狙いはシオン小隊か。とはいえ俺たちが見逃してもらえる雰囲気も薄い。ここは迂回が吉だと、俺はロバの手綱を強く引いたのだった。


第一章完結です!


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