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第62話 触らぬ神に祟り無し

 立ち込める砂埃に()せ返る。

 しかし顔は背けられない。瞬時の油断が死に繋がりえない。


 それだけの圧力が眼前の”ガルーダ”から放射される。


「成ります」


 ポツリと呟くフェン。彼女の髪が逆立ち上がり、火の粉が舞う。

 髪やドレスの血の汚れが、ブクブクと浮き上がる様であり、忽ち白銀の体毛が彼女を覆う。


 鋭い鉤爪で瓦礫の山を蹴散らし、場を整える。

 空へ咆哮。方角は北へ。


 其処らの魔獣や獣人ならば尻尾を巻いて逃げるだろう。しかし其れさえさせぬ程の凄みが今の彼女には有った。

 しかしかく言うガルーダも、黒髪(テネブレ)さえも怯む様子はない。


 ガルーダの、宝玉の様な目玉がぎょろりと回り、周囲を窺う。

 次に身を屈め、臨戦態勢。


 飛んでくるか。跳んでくるか。


 俺は構え、少し引く。

 フェンの傍に居るべきか、それとも全力に逃げた方が良いか。


 そんな判断も出来ぬままに、ガルーダは体躯よりも巨大な瓦礫を取る。


「行くわよ……」


 低く聞き取りにくい声。


 構え、投擲。


 瓦礫が地面を、車輪の如くに転がりフェンに接近する。

 轟音と共に、宙に浮く。


「くっ……!!」


 瞬時、フェンが右の前脚を振るう。


 しかし自慢の鉤爪は空を切った。


 瓦礫が、フェンの目前にピタリと止まった。


 宙に、完全に停止したのだ。


「止ま……――――」


 何故止まったか。

 無駄な思考が挟まる。


 空を切った前脚はそのままに、右脇に隙を生んだ。


「!?」


 瓦礫の影からガルーダが飛び掛かる。

 また、無駄な思考が挟まる。


「ぬんっ!!」


 フェンの脇腹に拳が刺さる。

 ぐらりと来る重低音。それに合わせ血飛沫が散る。


 この急襲で完全に体勢を崩したるはフェン。


 左に勢いよく倒れ込む。


「あら。避けないの??」


 ガルーダは殴打の感触に満足しつつ、もう片方の手で”何かに合図を送る”。

 ここで、先程停止していた瓦礫が再び微動する。


「それっ」


 瓦礫がフェンを向く。


 追撃。

 今度の瓦礫は止まる事もなくフェンに強襲した。


「ぐあぁぁぁっ!!」


 拳の入った箇所が余計に抉られる。

 魔力での回復が追い付かず……いや寧ろ即死でなく、下手に回復の余地がある分、無駄な魔力を消費する。


 瓦礫は、フェンの横腹を突き破らんドリルの如くに回転し、彼女の毛や血を散らす。


「フェン……」


 駆け寄っても死ぬ。

 立ち向かっても死ぬ。


 何より恐怖が足に纏わり付く。


 対するガルーダは、肩透かしを食らったかのように構え、本人が追撃する様子もない。

 ただ顎を触り、回転する瓦礫を眺める。


 舐めた態度……怒りばかりが湧く。


 しかし何が出来る……俺ごときに……。


「んもう。弱い者イジメみたいじゃないの」


「おいババア! 殺しよったらただじゃおかんぞ!」

「っるっさいわねぇ~。黙ってなさいよ餓鬼は」


 ガルーダが一歩出る。

 先程の様な速さ無い。フェンの反撃を想定していない。


 捕らえる気か。


「お、おい……」


 瓦礫を除き、フェンの首を掴み上げる。


 フェンの体躯は一回り縮まり、瞳孔は虚ろ。


 かの眼光は、ガルーダを見るではなく……俺を見つめていた。


 恨むでもない。乞うでもない。

 優しい穏やかな視線……。かえって苦しくなる視線。


「……おいババア……!!」


 不意に言葉が出る。

 覚悟などまだ無い。勇気などとんと無い。


 しかし助けねば。


 俺はそう決意したじゃないか。


「はぁ??」


 ガルーダの形相が鬼に変わる。

 かの様に睨まれれば、何時ものように怯んでいただろう。


 しかしそうならない。

 これは勇気ではない。


 俺はガルーダの脚に飛び掛かった。


 大木の様な脚だ。捻っても、噛みついても血の一滴も出ない。

 無謀なのだ。脳裏に言葉がチラつく。


 拾い上げた瓦礫片で突き刺す。

 切っ先が綻び、なんの事も無い。


 泥と血で汚れた手のひらを眺め……息が苦しい。


「……くそっ……くそっ……」


「何やってんの。アンタ」


「うるせぇ……くそっ……!!」


「……つぅか、アンタ、ババアつった??」


 身体を握られ、掲げられる。

 注意は逸らせた……しかしこれでは瞬間に終わり、フェンが逃げる時間さえも無い。


 拳に力が籠る。


「あぁ……」


「アンタ距離詰めんの苦手?? 礼儀ってあんじゃん?? はぁ??」

「……がはっ……」


 息さえもし辛い。

 抵抗など出来よう筈もなく、潰されるのを待つばかり。目玉が溢れそうだ。脳が肥大している様だ……。


 意識、視界、全てが霞む。


「ころしま~す」

「おいババア!! ソイツも駄目じゃ!! 離さんかい!!」


「はぁ?? マジ意味わかんねぇんだけど?? はぁ??」


「えぇから離せ!! レイジーが降って来るぞ……!!」


 天罰。


 空に黒雲が瞬く立ち込め、青白い稲光が目を眩ませる。


 青天の霹靂。響く轟音。

 痛烈な雷が俺とガルーダの間を過ぎ去った。


「い……い、いやぁ!!」


 ガルーダの悲痛な絶叫が、轟音に混じる。


 一方俺はと言えば、解放と共に血が巡り、ゲロを吐く。


「げほっ……げほっ……フェン!!」


 眼下には彼女の体毛の海。

 身体を丸め、飛び込む。


 ぽすっと包まれる感覚。

 温かく、心地よい香り……。


 俺に重篤な怪我はない。

 一方フェンは……。


 彼女の脇腹に視線を移せば、恐ろしい抉り痕がすぐに目に付く。

 溶岩のように赤く、所々に黒が混じる。傷跡には泡が湧き、毛が張り付く。


 しかし魔力が確実に修復する。


 彼女の魔力がかの痛々しい傷跡を覆う。


 良かった……。


「お兄さん」


「……!?」


「どうもだヨ」


 白髪の女性。レイジー。

 彼女の頬には龍の鱗が生え揃っている。背から尾っぽが伸び、牙が、爪が強調される。

 縦に細い瞳孔。それは俺を見つめる。


 電気を帯び、裂く様な音が鳴りやまない。


 龍の神獣……それも”天空龍”であろう。


「……レイ……ジー……」


「わっ……な、名前で呼ばれてしまった……ヨ……」

「……」


 頬を赤らめ身を捩るレイジー……。

 コイツには色々様々言いたい事があるが、この者の好意ならば遠慮なく利用できる気がした。


「おい、レイジー。お前フェンの事治せるか……??」

「フェン?」


「コイツだ。傷が酷くってな」


「ふむふむ……うーん……この子、神獣ですよネ」

「う」

「……レイ以外の子、助けたくないですヨ」


 そうだったな。神獣は神獣同士で判断が効くのか。

 下手な踏み込み方をした……。

 コイツならば、殺しかねない。


「た、頼むレイジー……回復が間に合わないかも知れないんだ……」

「嫌ですネ。恋敵(ライバル)は蹴落とさないとダメって読みましたカラ」


「何をだ……」


 一方、腕を爆発四散されたガルーダババア……。

 もう片方の腕を振り上げ、レイジーを掴み取る。


「はぁ?? 意味わかんないんですけどぉ……?? 真面目にぃ、仕事してたのにぃ、こんな餓鬼にさぁ……」


「ちょっと。今、(ラヴストーリー)の”転”なんだヨ。邪魔しないでヨ」

「っるさいわね! つぅか治すんなら先にアタシでしょうが!」


 レイジーを振り上げ地面を目掛ける。


 ガルーダは必死な形相なまま、反撃を受ける前にと腕を振り下ろした。


「ぎゃあぁぁぁっ!!!!」


 しかし響いた悲鳴はまたしてもガルーダ。


 彼女の腕が舞う。


 しかし先程の様に爆発四散した訳ではない。

 綺麗な断面を晒し、切断された腕が放られる。


 一つの黒い影が、地面に降り立つ。


「斬……」


「全く……何の騒ぎかと思えば……」


「?! シオン……!!」


 巨大な大剣を振るい、仁王立ち。

 ガルーダ、レイジーに立ち向かう漆黒のコート。


 新ギルド長の初陣である。

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