第54話 五名
「よぉ! よぉ! カナタも帰って来れたんだなぁ~!」
「おう……」
「クソハッピーじゃねぇか! 俺らってやっぱツイてるな~!」
「お、おう……」
「マジうるせー」
ボー・ガルソン……ヌルキとは違ったタイプの軽薄さ。よけに言葉が薄い。
それと、俺とは違った経緯でギルド長に嫌われていた。まぁ原因は明白だろう。
「ボー。少し黙れ」
「つれないなシオンよぉ~。僕、うざい?」
「を、聞く事が鬱陶しい」
「え、まじ? 逆にとかはない?」
「もういい。お前は席を外せ」
「うぃー……じゃ、まぁ酒場でちょこっと遊んでくるわー」
酒場とは……物好きだな。
コイツも俺と同様に追放者の身……いや、この場に居るのだから、コイツも再就職か。
ともかく物好きに変わらない。どんないびりを受けるやら。身ぐらい案じてやろう。南無。
「それじゃカナタもお疲れぃ! 後で酒場来てくれよ」
「嫌だ」
「皆つれないねぇ。お! カワイ子ちゃん侍らせてんね」
「あ?」
「どう、この後一杯」
「ぶっ飛ばすぞ。コラ」
「それって……情熱的な告白って事でオケ?」
「早く帰れ。ボー」
「……うぃー」
相変らず喧しい奴だ……会わなくなってから、少しは大人しくなったと思ったが……むしろ拗らせて大変な事になっている。アイツ、俺より5つ上だぞ。
「……全く……漸く落ち着いて会話ができるというものだ」
「今のは会話じゃなかったのか」
「まじうるせーアイツ」
さぁ部屋の空気が改まる。
シオンはこちらに眼光を向け、次に他三人に目を移す。
要件は頭に入っていよう。彼女の中で順序が組まれる。それを待つ。
「……カナタ、まずは君の英断に感謝しよう」
「……おう」
まぁ英断かどうかは未だ知れないが。
「君の存在が、間違いなくギルドの方針を決める……当然、風当たりもまだ強かろうが、我々も全力でサポートする所存である。どうか我々と共に歩んで行って欲しい」
「……あ、あぁ……それと、ルペールとフェンもだ。俺だけじゃなくて……」
「当然だ」
彼女の声に一層、覇気が籠る。
かつてのギルド長からでは、到底聞けた筈もない言葉……あまりにも感傷が深い。
俺が心を打たれているも束の間、彼女はルペールに話を移す。
「ルペール……先輩」
「うい。なに?」
「……貴女も、よくぞ戻ってくれた。とても心強い」
「……ごめんけど、ウチはムリだかんね」
「……」
シオンの目線がルペールの義手に移った。
僅かに瞳孔が開いたように見える。しかしすぐ平生に戻る。
「……そうか……ただ安心してくれ。貴女を前線に出す様な真似はしない」
「たすかる―。よろしくね」
シオンは、僅かに俯く。
次に出る言葉が浮かばないか、何度も深く息を吐く。
どうにも重苦しい。
しかし、どうにも無理はない……。
この静寂を切るのは、シオンが側近のラン・トゥール。
何故だか室内でも重装備で、身長よりも巨大な剣を背に構えている……。何故にフル装備だ?
「シオンん……我が代ろうか」
「……よい。私がせねばならぬのだ……」
「ぬぅ……」
「?」
「……次に、其方の金髪の……貴女がガイステス・ブリッツ殿ですね」
「おう。これから宜しくな」
「えぇ……貴女には激務を強いる事になる。腕利きの技術者も多く抜けてしまってね」
「構わねぇ。今までも同じ様なもんだったぜ。コラ」
「頼もしいね」
「おう。あー、ただよぉ、テルツに助手置いて来ちまってるから、今度取りに帰るぜ」
「えぇ。貴女の遣り易いよう、此方も支援する」
「サンキュー」
そうして最後、シオンはフェンと目を合わせる。
ただ、彼女はフェンよりも前に一瞬だけ、俺にも目配せを送った。
彼女はあえてそうした。あえて俺を見て、最後にフェンを見つめたのだ。
「……あ、えっと……」
「人型の貴女に会うのは、初めてだろうか」
「は、はい、そうかもしれません……」
「……君もココに来たという事は、ギルドに所属する、そういう事で宜しいだろうか」
「はい……! 私は、何時までもカナタ様のおそばに……!」
一瞬、シオンが眉を顰めた。
浮かない表情。しかしそれは彼女にとってと言うよりは、俺達にとってのものだった。
「……実は、獣人には相棒を付けるのがルールだ。責任の所在の観点でね」
「え」
「……獣人は国際的に見ても危険な種族だ。そんな者を大量に抱えるには、ある程度のルールを守らなければならない。その内の一つが”相棒制度”だ」
「な、成程……」
「貴女も広義の意味では獣人……ならばその制度を適用せざるを得ない……」
「……」
シオンはすっと指を指す。
その先に居たのはブリッツであった。
そして、次に横の男に指を指す。
「相棒には、ギルドの中でも取分け優秀な人材を付けるのが常。今現在、候補者は四名居る……」
「……は? オレか?」
「えぇ。ガイステス・ブリッツさん……それと、このギエーナ」
「ギエーナ……」
聞き覚えのある名前。
そう一考しているのを他所に、横の男が呼ばれるなり腰低く前に出る。
「へへへ。どうもどうも旦那ぁ」
「……? 誰だっけ?」
「おいおい、ひでぇなぁ。盗賊のギエーナ、”あの”ギエーナですぜぇ」
「……知ってる様な……」
ファーラの谷の奴か? 身に覚えのある盗賊など、そのくらいしか記憶にない。
「オイラぁ陸竜の巣でボコボコにされてたシオン姐さん助けてねぇ、そのままあれよあれよとココに居るんでさぁ」
「……それと、後二人」
「無視ですかい。皆ひでぇや」
「ボー・ガルソン、それとドーラだ」
「え」
「ボーは追放される以前は相棒有りだった。その経験は度外視し難い。それとドーラも。彼の相棒であるシュレッゴンは暫く謹慎……今はフリーだったろう」
ブリッツ、ギエーナ、ボー、ドーラ……。
「ま、待てシオン、お、俺は……?」
「何を言っている。カナタにはルペール先輩が居るだろう」
「え……いや、まぁ……」
「ちょ、なんでイヤそうなのさ!」
「い、嫌じゃねぇんだが……」
「……君がどれだけ献身的で、優秀であろうと、貴重な人材である獣人を集中させる訳にはいかない。獣人一人につき、相棒は一人までだ」
「……で、でもよ、んな決まりは前ギルド長の決めたルールだろ?」
「確かに前ギルド長の運用には多分に落ち度があった……しかし効率的な部分も多かったのも事実。特に”相棒制度”というのは信頼関係の深さがパフォーマンスにも直結する。今更変えるのは非効率的だ」
「だけど」
「では逆に聞こう。君とルペールを引き剥がし、それぞれが別の者と組んだ場合、パフォーマンスはどうなるか」
「……」
「今はギルドの過渡期だ。そして転換期だ。だからこそ、獣人は分散させたい。させなくてはならない。理解してくれ」
「……」
「か、カナタ?? な、なんか言いなよ! イヤならさ!」
「あ、あぁ…………フェン……」
「カナタ様……心得ております」
フェンはシオンに視線を向ける。
睨む訳ではない。しかし余程鋭い眼光であり、真っ直ぐとした信念であった。
「私は、カナタ様となら誰よりも気高く、何よりも強く戦えます……! この心は誰にも負けません……私は、カナタ様の元に居続けます!」
「……」
シオンは思考する。
ぐっと眉を寄せ、刻刻と深まる。
「……ならば、五名としよう」
「……!」
「先程の候補者にカナタを加える。期間は一週間……いくつかの試験にて、最も優秀な成績を残した者をフェンの相棒とする……それでどうだね」
フェンと目が合う。
心持は同じく。
断る理由は何一つとして有りはしなかった。
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