第53話 ギルド凱旋
馬車からいの一番に飛び出したのはルペールであった。
続くはブリッツ。彼女は見慣れぬ街に心躍らせている。
テルツの様に明暗のハッキリした街でない。
どこもかしこも、隅の隅まで光の届く活気ある街である。
「ほぉ~えらく賑やかじゃねぇか。コラ」
「どーよ! すごいでしょー」
凄いでしょと得意げなルペールだが、彼女がココに戻って来るのも久方ぶり。見た事の無い施設も増えていよう。
そしてそれは俺も同じ。プロシェンヌで1週間、テルツでもう1週間……外装はそのままでも、品揃えの変わった店は多い。なにせギルドの勢力図が変わり、『SEC』も撤退したからな……。
「よし、回ってみるか」
「お! いいね! ブリッツもいっしょに行こうよ!」
「おぉ」
「あきまへんよ。皆さん」
息巻く俺達は途端制止される。
代表もまた前方の馬車から出でた。
「んでだよ。コラ」
「ブリッツはんはギルドに加入届出さなあきませんし、カナタはん等もそうや」
「……まぁ仕方ねぇ。街歩きはその後だ」
「えー」
……という事はギルドに出向くのか。少々複雑だな。
代表やシオンが受け入れるなどと言ってはいるが、全員が全員、イエスサーという訳ではあるまい。軽い嬲りは目に見える。
ただ、ギルドに参りたいと思っているのも事実。俺はまだ、シオンに礼を言えていない。
ファーラの谷では殺されるだの、拷問受けるだの、そんな疑いを掛けた。そんな懐疑心すら、今では悔いるばかり。
「……」
「はぁ~めんど~。ほらフェンもきてねー」
「は、はい!」
「では、我々はこれで」
「バイバーイ」
ここでドーラ小隊とは別れる。
彼らはシュレッゴンの留置に向かうのだった。
代表は堂々たる足取りで凱旋。ギルドへと向かう。そのすぐ後ろに先程の少女が着く。さらにその後ろを俺達4人でついていく。
目移りするルペールの首根っこを引き、俺達はおずおず前進する。
というのも、彼女の後ろを歩くのは心地よくもむず痒い。良くも悪くも目立つ人だ。自然と視線が俺達一行に集まる。
それに、俺も視線を集める要因である。
つい最近まで追放者として指名手配され、本来、こんな街の往来を歩ける身分でないのだから。
「ほら。カナタはん。フラフラせんと。もうちょっと堂々とせな」
「……そ、そうは言いますがね……」
「キョロキョロしとるから目立つんです。それに、もう着きますよ」
物々しい建物がもうそこまで来ていた。
五階建ての天守閣。外壁は黒く、また縦にも横にも広い。荘厳な雰囲気は押し潰さんとする佇まいを感じる。
ただ、変わった部分もある。
前ギルド長の悪趣味な垂れ幕も、気味の悪い銅像も見当たらない。撤去されたか。ざまぁみろ。
「こりゃ大した建物んだな~」
「気に入りはりました?」
「おう。中も楽しみだぜ」
「ほんま~。安心しましたわ」
「……あんま期待すんなよ」
「?」
さてはて話もそこそこに俺達は中へずずいと入る。
夜中のギルドは人通りが少ない。いつも以上に少ない。
恐らくギルドの一斉改革につき、幾人か解雇されたのだろう。
少なくとも前ギルド長派、ないし副ギルド長派は一層されたろう。
「シオンはんはギルド長室に居てはります。先、行っといてください」
「えぇー来てくんないのー?」
「ヤルダちゃん連れてかんとアカンやろ? 堪忍な」
「ヤルダちゃん……」
「この子んことよ。お名前、教えてくれたもんね」
「……うぅ」
少女ヤルダは代表の足元にぴったりくっつき隠れ切る。代表に懐くとは目の良い子供だ。こちらの方には目もくれず、代表のスカート裾を泥ですっかり汚している……。
「ほな」
代表はヤルダの手を引き、スタスタと去って行く。
さて、この建物に詳しいのは俺です。皆を先導せねば。
俺はこの天守閣という魔境を登る。
ギルドは5階立ての城の様になっている。
建物の中には集会場や酒場など野蛮なエリアと、お堅い皆々様が集い、会議や事務仕事をこなすエリアとがある。
ただ、ギルドとはこの天守閣のみを指す言葉ではない……!
先程歩いたかの街も、言うなればギルドの一部だ。
なにせギルド職員は皆一様にかの街で飲み歩き、装備を整え、悦に浸る。商店街にしてみれば、職員は良い客だ。
加えて商店街に並ぶ店群の経営を、職員の家族やパートナーが担っているケースも多い。
街そのものがギルド…………ただ、治安は自慢出来たものではないし、閉鎖感も強い。
一方で、ギルド内で高い地位を築けば、その分住み心地の良い都である。
そんな城下町を見下ろしながら、俺達は階段を律儀に登るのだ。
「おい……エレベーターはねぇのか?? コラ」
「ない」
「エスカレーターは??」
「ねぇってば」
「ふざけんな……! ぜってぇーいの一番に作ってやらぁ!」
「頼んだわ」
「たすかるー」
「ったく……『SEC』と宜しくしてたんだろ? なんでねぇんだよ。コラ」
「元ギルド長がハイカラなモンは本部に持ち込むなってな……」
「じじいは何処も頑固だな……」
ブリッツの苛立ちは間もなく怒髪天。『SEC』の事まで思い出して収集がつかない。
ギルドの奴等に余計な噛みつきをしない事を願うばかりだ。
最上階を目指す過程、酒場を通る。
ココは夜でも賑やか。非常に嫌な話だ。
「ココは急いで抜けるぞ」
「あ?」
「?」
見つからぬ内に駆ける。
ギルドの奴等とは揉めたくない。
「ちょ、ちょっとちょっとー、待ってってー」
「お、お背中お貸しします……!」
ルペール、フェンに担がれ、そのまま5階へ向かう。
「ココが5階だ。お疲れ」
「はぁ……はぁ……」
「ブリッツつかれすぎー」
「てめぇは途中担がれてただろうが……!」
「仕方ねぇだろ……義足じゃ無理だしよ」
「分かっとるわ。コラ」
「まったく……見てみろ、俺は元気だぜ」
「いいからテメェは案内しろや」
「……」
「カナタはシオンに会うのがヤなんだよ」
「……」
「……体力は十分でも、心臓はノミ以下だな。コラ」
……俺は部屋の前で足踏みする。
壁1枚の向こうから、筆の走る音が聞こえる。微かな話声も聞こえる。
これはシオンの声だ。
当然、俺たちの騒ぎも聞こえているだろう。
こちらが聞いているならば、向こうも聞いているという話なのだ。
かの扉を開くとシオンと対面……何だか今になって気負いする。
もういっそ気を回し、向こうから呼び込んではくれまいか。
「……っち。オレが先陣切ってやるぜ!!」
「ブリッツ……」
「うるせー! んな所でモタモタしてられっか! オレぁとっととエレベーターを作んだよ!!」
腕をまくりブリッツが進む。
彼女の背中は何より格好よく見えた。
「もー……恥ずいって」
「さぁ私達も参りましょう」
「しゃー! たのもー!」
勢いよく部屋の戸が開けられる。
そこには人影が4つ。
「……ようやく入って来たか……」
シオン、ラン……それと男が二人……。
「おやぁ? おやおや! カナタじゃないか!」
低い声のチャラ男。
恵まれた体格で整った顔立ち。首から下げたアクセサリーが、月光を反射する。
俺は、コイツの事をよく知っていた。
「……ボー??」
ボー・ガルソン。
当時の俺の同期でライバル……そしてコイツもまた、ギルドから追放された男であった。
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