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第51話 森にて

 二台の馬車が野を越える。その頃、草原に押し並ぶ草花の様相が変わった。

 草が少しだけ高くなり、花々は白から紫に移ろうのだ。


 闊歩する動物も少しばかり小さくなって、山の高い位置から俺達を眺めている。


 この辺まで来ると過ごしやすい気候。よく慣れた気候。

 人々の住まいもチラチラと見える頃。


「あら。なんや見た事ありますなぁ。あのお花」


 アンシステ代表の言う花は紫の花、アイリス。

 あれはギルド周辺でもよく見られる物だ。町で見かけでもしたのだろう。それか観葉植物でか。


「もうすぐ着きそうっすね」


 俺が不意にそんな事を言うと、代表は”あぁ……”と溜め息の様な声を漏らす。

 ぼっとアイリスの花畑を臨む彼女の横顔はひどく悲哀に満ちていた。


 まずい事を言ったか……。


「ありがとうね。カナタはん」

「え……あ、はい」

「沢山お話できて楽しかったわ。ウチも冒険してみたなった」


「……良いっすね……案外楽しいっすよ」


 代表は、前ギルド長の頃からお役所仕事続きの人。データをまとめて、弁を立てて、ギルド長に提言する……獣人には決して向かない役職だ。

 彼女は沢山挫折し、心労も絶えなかったろう……。


 それでも彼女は研鑽を積み、登壇し続けた。獣人を守ろうと言う人間は数が少ないから、彼女がするしかなかったのだ。


「……カナタはんもお疲れやろ。トロンペまで着いたら、ちょっと休憩しましょ」



 二台の馬車が進む。やがて目の前にある丘を登る。

 坂を進み、ゆっくりと景色が直る。


 そうして丘の頂に立ち、そこからははるか遠くのトロンペの森が臨めた。


 かの森は夕方ごろから霧が濃くなる。

 もうすぐ正午、休むならば急がねば。馬車はかの森へと歩調を早め進んだ。



「お疲れさん。ちょっと休みましょ」


 代表が馬車の操縦者に声を掛ける。

 馬車が止まった。足元はやや泥濘、枯れ葉と土の湿った香りがする。空気も、肌にまとわりつく様であった。


 それにしても腰が痛い。

 馬車の座椅子はペラペラのクッション、下は木。長時間座るのでは少々堪える。


 俺はおずおずと出でて、ぐっと背伸びをした。


「カナタ―」


 ルペールの声。はっと振り向く。彼女はフェンに抱えられこっちに寄った。


「なんで義手義足外してんだ」

「ずっと付けてると痛いんだもん」

「それと、ブリッツさんが点検為されてて」


「……で、どうした?」


 ルペールとフェンがまたコチラにずいと寄る……。

 そうして小声で話す。


「アンシステ代表……どうだったの?」


「何がだよ」


「変なことされなかった?? 拷問の手伝いとか!」

「いやねぇよ。シュレッゴンも別に……」

「ホントに~……? ドーラが心配してたよ」


「アイツは心配性すぎんだ。適当に流しとけ」


 あぁいう奴のせいで代表は風評被害を被るのだ。それで怖い怖いなどと噂が回る。実際俺も怖い人と思ってた。

 まぁ代表本人が人間に対して嫌悪感剥き出しだのも原因だろうが……。


「ともかくなんともない。気になるんなら一緒に乗るか?」


「お。いいね! ナイスアイディア!」

「どんな方なのかも気になりますし……それとカナタ様ともお話したいです」


「代表は快いと思うしな」


 代表にしてみても、もっと賑やかな方が良いだろう。



 ただ出発まではもう少しある。

 俺達はルペールの意向もあって森の方へ散策に出た。


 ルペールはブリッツに手足を返して貰う。そうするなり森へ嬉々として走って行った。


「おいおい、どこ行くんだ?」

「ウチの子達が心配じゃんね」


「……あぁ、ロバだウサギだ、そんなのも居たな」


「”そんなの”って言うなー! ちゃんとごはん食べれてるかなー」


 森の中には様々魔獣が住んでいる。彼等は(さえず)り、這い、そして逞しく生きている。


 しかし目立った所には存外いないもので、ルペールの鼻と土地勘を頼りに前へ進む。

 本当にこんな似通った木ばかりの場所を迷わないものだ。匂いなど、湿っぽいものしか感じない。


「フェンも分かるんだもんな……」

「あ、はい……ただ動物の匂いよりも、草木の匂いの方が強くて正確な位置までは」

「だよな」


「ま。ウチは慣れてるからねー」


 自慢げに語るルペールは少々うざい。

 そうこうしながら、またもう少し森の奥へ。

 滑らぬ様、地面を踏み込み、落ちていた小枝を折る。


 その時、甲高い音が響いた。


「……?」


「なに? 今の」


 鳥の(さえず)りでない。


 人の叫喚である。


「近くに誰か居るのか?」


「え、人の匂いなんてしないよ……?」

「でも今のは声でしたよね……」


「……何かに襲われてんのかもしれねぇな……」

「ウチの子たちはそんなことしません!」

「言ってる場合か」


 辺りを見渡す……ただ匂いも感知できない人の位置など、パっと見て見つけられよう筈もない。


「手分けするか」

「カナタはムリでしょ。ウチにまかせて!」


 そう言ってルペールは腕を叩く。何をしている。


「?」


 義手の継ぎ目が輝く。緑の蛍光色が、駆け回る様に腕の装甲を彩るのだ。


「”レーダー”です」


「は?」


「馬車での移動中、ブリッツ様より、幾つか義手、義足の機能のご指南をしていただいて、その中の一つだそうです」

「これで探せるんだよー」


「べ、便利だな」

「付けてよかったしょー」

「……そうだな」


「ま。遠すぎるとムリらしいけどねー! よーし、何か居たー!」


 ルペールが駆け出す。

 その後ろを慌てて追う。



 森の奥へ、奥へ……いや、このまま行けば森の向こう側へ出る。”遠いとムリ”と言ったが、この森全土程の距離は探知できるのか。


「近いよー!」


 ルペールの快活な声の先、人影が複数、それと一台の自動車。

 かの車、テルツでは見なかった形状だ。


「何してんだ……?」


 妙な気が漂う。

 その時、空気を割る様な声が響く。


「た、たすけてー!!」


 叫喚。声の主は小さな女の子だった。

 裸同然の格好に剥かれ、泥の地面の上に突っ伏されている。


 囲むのは背の高い男の衆。皆一様に特徴の無い服装、短髪、中肉中背。彼らはこちらをジロリと向く。


「人攫いか……_??」


「はぁ?? 何やってんのぉ!?」


 瞬時、ルペールは悪を判断した。そうして軽やかに飛び上がる。

 男の一人目掛け、彼女は飛び蹴りを炸裂させたのだ。


 勢いよく喰らう。


 しかし、ソイツは倒れなかった。


 むしろ瞬時に切り返される。

 ルペールは義足を握られ、力づくに奪われた。


「あ」


 蹴り飛ばすつもりであったルペールは虚を突かれ、対応が遅れる。


 そこへ殴打。彼女が泥濘に落ちる。


 急襲にあった身の男共は狼狽え無い。

 忽ち男の衆は脚を上げ、ルペールへ見舞う。


 何度も、何度も振り下ろされ、ルペールの身体はみるみる泥に(けが)されていく。


「がっ……」


「ルペール!?」

「ルペール様!!」


 泥の上で、小さく蹲るルペール。

 彼女の傍らには奪われた義足が転がっていた。


「義足のせいだ……」


 獣人としての身体能力は、彼女の手足あっての物……鉄の脚では男一人蹴り飛ばせない。


「フェン……! 頼む!」


「えぇ……許しません」


 フェンの身体から異常な魔力が噴出する。

 周囲が熱い。忽ち火の海。


 その中心に、かの銀狼が顕現する。

 鮮やかな毛並みが逆立ち、巨大な体躯でにじり寄る。


 男共は、この光景により直ちにその場を離れる。

 しかし恐怖による逃亡ではない……おそらくひどく合理的に逃げ出した。

 義足などもほっぽり出して車へ乗り込み、何処かへ、去ってしまったのだ……。

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