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第5話 かつての悪友に会うと気まずい

 霧深い森の中。俺は泥まみれで眠る美人を傍らに置きながら、生きる喜びを噛み締める様に、缶詰までもを噛み締めていた。

 そうしてしばらく経てば、やがてトロンペ、レユニオンさえ朝日で照らされ始めていた。そろそろ見廻りの衛兵がやって来る頃か。もう少し森の奥に入っておかねば。


「フェン……ちょっと持ち上げるからな」


 聞こえない様に伺いを立てる。起こしては悪い。

 ならば何故に喋ったのかと言えばその通りだが、何の遠慮も無く触れられるほど場慣れはしていない。



 森の中は時折鳥の声が聞こえるばかりで、あとは茂みの揺れる音か。

 霧深いのもあってか湿った土と緑の匂いが強烈に漂う。鼻が良い方ではないが、それでも中々。


「さて、どこまで行けば良いんだろうかねぇ」


 この森には幾度となくギルドの仕事でやって来たが、一人で、宛てもなく彷徨うのは初めてだ。泥濘(ぬかるみ)が俺の足跡を残し、来た道を示してくれているのが唯一の救いか。


 と、思っていたが不味い事になった。


「近くに魔獣が居るな」


 人ならざる足跡が、目の前の泥濘(ぬかるみ)一面に広がっている。大きさは俺よりも一回り小さいくらいか。大した魔獣はいないと記憶しているが……。


「嫌な予感がするが……」


 そんな事を、言わなければ良かっただろう。

 次の拍子に、ドンッと何かが背中に突撃してきた。

 何者か、と、確認する前に、今度は膝を何かが強襲する。


「うおっ!」


 あわやバランスを崩し、眠れるフェンを落としそうになる。足元は泥濘。これ以上彼女を汚す訳にはいかない。


 しかしそんな想いを魔獣が察する訳もなく、次から次へと何かが俺に激突して来るのだ。頬や腹、脚を(すく)うように突撃してきた奴も居た。必要に俺を転ばしたいらしい。今の俺からしてみれば、はた迷惑な話だ。攻撃が大して痛くない事も含めて、非常にはた迷惑なのだ。


「ったく……棍棒(デモリール)っ!! あんまりにしつこいとコイツを使うぞ……!」


 そんな風に威嚇してみた。当然弱い魔獣に人間の言葉が通じるとも思えない。しかし存外効果的だったらしく、攻撃がピタリと止む。

 何だったのか。取り敢えず場所を変えよう。ここでは恰好の的。


 しかし行く先行く先、どうにも魔獣が狂暴である。押しなべて弱い魔獣ばかりで致命傷には至らないが、どうにもしつこい。トロンペの森はこんなにも治安の悪い場所だったか。


 これに加え、棍棒(デモリール)の名を出すだけで魔獣は忽ち大人しくなるので、かえって不気味である。”誰か”が魔獣たちにこの棍棒の事を吹き込んだか? そう察さざるを得ない。


「……おい! 誰か、どこかから見てんだろ……なんで俺を攻撃させるんだ……!!」


 黒幕はだんまりである。中々強情な奴だ……。


「ん……んん? カナタ様??」


「あ」


 起こしてしまったと言うべきか、ようやく起きたと言うべきか。フェンのお目覚めだ。これで幾分か動きやすくなった。


「ど、どうなされたのですかカナタ様?! お顔がボロボロに……!!」


「……まぁまぁ諸事情でな。それより魔獣から逃げ回って、だいぶ奥まで来ちまったみたいでな……ちょっと森の外まで案内してくれないか」


「森の外までですか?」


「あぁ。獣人の嗅覚をもってすれば、外まで迷わず行けるだろ」


「そうですが……今は駄目です……先程の人達がすぐそこまで来ているようで……」


「はぁ?」


 ”先程の”というのは……まさか陸竜に囲まれた小隊のことか? ま、まさかな。いくらギルドの手練れと言えど、あの数の陸竜を突破できるとは思えんが……。


 しかし、もしもという事もある。


「……どうにか抜け出せそうな所はないか? あんな、いち小隊じゃあカバーできる範囲も限られるだろ」


「……どうしても、森から出たいのですか? どうしても?」

「君は元の町に帰りたいんじゃないのか? なら抜け道を探さねぇと……」


「……いえ! まったくそんな事ありません!」


「え」


「あんな町になんて……それよりも私は、カナタ様の傍に居たいのです……!!」


「はぁ?」


「もし私に気を遣っての事でしたら心配いりません。それよりももっと町から離れちゃいましょう。森を抜ければもっと豊かな町へとも向かえます!」


 フェンはそんな事を言いながら俺の手を取る。本当に良いのだろうか。そんな想いも単なる邪推に成ってしまう程に、彼女の足取りは軽やかなものであった。


「こらぁ!! ちょっと待ったー!!」


「きゃ」

「うわ」


 茂みの奥の方から、何やら軽薄そうで快活な声が聞こえて来た。

 俺は、この声の主を知っている。


「おい浮気者ー!! 流石に見過ごせないんだがー!!」


「ルペール……」

「ど、どなたでしょうか……」


「……それはこっちのセリフだがー? そういうアンタこそだれだー!」


「おいおい止めろ止めろ。喧嘩すんな」


 俺は、この目の前の女を知っている。

 ルペール。名前のみで姓は無い。彼女もまた”獣人”である。飼い犬や飼い猫に苗字が無いのと同じだ。

 彼らはその程度の扱いなのだ……と、今はそんな話は必要ない。


「……フェン、紹介しておく……ルペールって獣人だ。俺がギルドに居た頃の同僚で……」

「同僚ォ?? なーんか違うんですけどー」

「同僚は……いや、合ってるだろ」


「ちーがーう!! そんなんじゃなくてーもっと”ただならぬ関係”なんだけどー!?」


「……語弊を招く言い方をするな」


「……そうですよ。カナタ様を……いえ、ご主人様を困らせないでください」


 すっと身を寄せるはフェン。これは一歩リード。そんな悠長な事を言っている場合ではない。困らせているのは貴女もだ。


「ルペール。俺は別にお前の寝床を邪魔しに来た訳じゃねぇ……ここにすら居れなくなるその日まで、ちょっと匿ってくれって話だ……」


「……はぁ? その女も一緒? むり」


「そういうな。それにこんなデカい森だ。余ってる土地の一つや二つぁあるだろ」

「勝手にすればぁ?」

「……さっきから魔物が襲って来ててな。安全な場所を紹介して欲しい」


「…………それなら大丈夫。もう襲えって指示は出さんから。じゃ」


 そんな事を言い残してルペールは霧の中へ消えて行った。

 ……魔物が鬱陶しかったのは、やはり奴のせいか。俺への当てつけか。はたまたフェンへの敵対意識か。昔は俺など見向きもしなかっただろうに、いつからあんなにメンドクサイ奴になったんだ……。


「あの、カナタ様……」


「ん。まぁルペールの事は気にするな。無鉄砲な奴だが、一度”せん”と決めたことは死んでもやらん強情な女だ」


「は、はい……ルペール様のことも気になるのですが……それともう一つ」


「どうした?」


「先程の、ギルドの方々が森へ侵入して来たようです」

「……何?」

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